勇者、魔王に敗北す────るんだけど、未だに周回中

揣 仁希(低浮上)

勇者は未だ周回中


「ぐっはぁっ!!」


「ふはははは!!これで終わりだっ!勇者よ!」


「ぐうぅっ!こ、これほどなのか!魔王の力はっ!」


 俺は魔王城最上階で今代の魔王ギルメスと対峙し……そしてその圧倒的な力の前に敗北しようとしていた。

 雄々しい山羊の頭を持ち見上げるような巨体の今代の魔王、真紅の宝石を思わせる瞳が俺を憐むかのように睨みつける。


「くっくっくっ勇者よ、貴様は大切なことに気づいておらんのだ!故に今!我に敗北しようとしている!」


「なっなにぃ!た、大切なこと……だと?」


 もはや聖剣に寄りかかり立っているのもやっとな俺に魔王は勝ち誇った顔をし教えてほしいかと聞いてきた。

 少し前屈みになり俺を覗きこむその……ドヤ顔がこの上なく腹立たしい。


「ま、魔王の戯言など……」


「教えてほしいか?ん?」


「き、貴様の話など……」


「ん?聞きたくないのか?」


「……いや、まぁそれは……」


「んっん〜?」


「き、聞いてやらんこともない!」


「ええ〜?どうしよっかなぁ〜?」


 くっ、なんてムカつく魔王なんだっ!しかし……俺は勇者だ、世界の為に魔王を討つのが使命!

 魔王の言う大切なことが魔王打倒に繋がるのなら……


 ん?おかしくないか?


 魔王打倒に繋がることを魔王が教えてくれるのか?


「さあ!どうだ勇者よ!聞きたくなったか!」


 ああ〜!考えても仕方ない!


「た、頼む!教えてくれ!」



 ◇



「なるほど……」


「全く最近の勇者は何も分かっておらんのだな!」


「面目無い……」


 ここは魔王城最上階の一室。

 俺は魔王に回復魔法をかけてもらい、この豪華な部屋で魔王とさし向かいで話を聞いている。


「仲間か……」


「そうよ!仲間だ!貴様は我の元に辿り着くまで我が配下を倒してきたのだろう?」


「ああ、八鬼将に四天王、いずれ劣らぬ猛者ばかりだった」


「そうであろう!我が見込んだ部下……いや我の仲間達だからな!」


「…………」


「我が仲間のおかげで貴様が我の元に辿り着く頃には最早満身創痍よ!分からぬか?それが貴様と我との最大の違いなのだ!」


「確かに……俺には……仲間のひとりもいない……」


 魔王の言うとおりだ、たったひとりこの最上階に辿り着いたはいいが俺はもう戦える状態じゃなかったんだ……


 俺はがっくりとうな垂れた。


 くっ!魔王……俺とは器が違いすぎる……な、なんて強大なんだ……


「お茶のおかわりをどうぞ」


「あ、ありがとうございます」


 薫り高い紅茶がなくなればすぐにメイドの悪魔が代わりを出してくれる。

 こ、これが……仲間というものなのかっ!


「ま、魔王よ!教えてくれ!仲間とはどうやって作ればいいのだ!」


「ふん!貴様はまだ分かっておらんようだ……仲間とは作るものではないっ!」


「なっ!何ぃ!作るものではないだと!」


「そうだ!仲間とは己の背中を預けることの出来るものよ!即ち!友よ!」


「友……」


「そうだ、貴様も勇者となる前は冒険者をしておったのであろう?ならば共に戦った友もおるのではないか?」


「そうだが……皆、俺より弱く……背中を預けるなど……」


「ばかも〜んっ!!!」


「ぐはあぁぁっ!!」


 魔王の強烈なビンタを受け俺は椅子をひっくり返し壁際まで吹き飛ばされる。


「仲間とは強い弱いではない!確かに強さは重要ではある……だがそれ以上に重要なものがあるであろう!」


「ぐうっっ……つ、強さより重要なもの?」


 なんだ?強さより重要なものなどあるのか?弱いやつなど足手まとい以外の何者でもないのでは……


「それは……信頼だ!貴様に対する信頼がそのものを強くするのだ!それ即ち友と呼ぶ!」


「し、信頼……」


「分かったか?勇者よ、貴様に足りぬものは信頼出来る仲間よ!己が背を預け命を預けることの出来る仲間!それこそが貴様と我の違い!」


 ま、魔王…… な、なんてデカイんだ……俺はこんなヤツに、いやこんな方に戦いを挑んでいたのか……

 俺はフラつく足取りでテーブルへと戻る。


「どうぞ、冷たいおしぼりでございます」


「あ、どうも」


 椅子に座るとメイドがさっとおしぼりを手渡してくれる。

 むぅっ……絶妙に冷えたおしぼりが頬を冷ましてくるる。


「分かったか!勇者よ!」


「は、はい!魔王!」


「ならば往けい!仲間を集め再び我と相見えること楽しみにしておるぞ!」


 そう言って魔王はその両手を俺に突き出し……俺の意識は消えていった。









 それから俺は幾度となく魔王の前に立った。

 頼れる仲間達と共に。


 そして今度こそ、俺はついに最強仲間達に巡り逢った。

 それは遥か異世界の伝承からヒントを得たものだ。


「魔王!貴様を倒すために俺は地獄の底から戻ってきた!さぁ!勝負だっ!」


「くっくっく、中々にいい面構えになったな!勇者よ!よかろう!お前の力見せてみるがよい!」


「その余裕が果たしてどこまで続くかな?行くぞ!みんなっ!」


「ワン!」

「ウッキィ!」

「心得たっ!」


「ちょい!ちょい待て!勇者!ちょっと待てぃ!」


「ん?どうした?魔王よ?命乞いか?」


「……なぁ勇者、その、まぁなんだ、一応確認なのだが……それがお前の仲間か?」


「そうだ!かつて伝説の英雄が仲間にしたと言われる、イヌ、サル、鬼人きじんだ!どうだ!これで貴様を倒すっへぶしっ!!」


「ばかも〜んっ!!!」


 自慢の仲間達を紹介している途中、俺は魔王のマッハパンチを浴びて吹き飛ばされた。


「くっ!不意打ちとは卑怯なり!」


「あ〜もういい!もういいわ、勇者、お前ちょっと間違えてるから!とりあえずついてこい!お前、我が言ったこと全然分かってないから!あ〜もう!期待して損したわ!」


「な、何っ!俺が間違えているだと!?」


「いいから!つべこべ言わずついてこい!」


「あ、はい。え、えっとみんなちょっと魔王さんが話あるみたいだから行こうか」




 ◇



 前回同様、俺達は魔王城の応接室で魔王に説教をされることになった。


「え?」


「え?じゃない!え?じゃ!勇者よ!それは御伽噺の中だけのことだ!よく考えてもみよ!イヌに鬼が倒せるか?」


「う……い、いや」


「サルに鬼が倒せるのか?」


「そ、それは……」


「あと!ここが一番大事なのだが……おい!そこのお前!貴様は鬼人きじんだな?」


「いかにも!拙者、鬼人族の戦士にして勇者殿に仕えしもの!」


「そ、そうだぞ!こいつなら鬼だろうが何だろうが……へぶしっ!!」


 俺を魔王の強烈なビンタが襲い、またしても壁際まで吹き飛ばされてしまう。


「うぐっっ!ま、魔王……」


「どうぞ」


「あ、すみません。度々」


 頬を押さえてうずくまる俺にメイドがサッと冷たいおしぼりを渡してくれる。

 むうぅ……流石のタイミングだ……


「勇者っ!貴様はそもそも間違っておる!かつての英雄が伴としたのは……イヌ、サル……そしてキジだからだ!」


「な、なにぃっ!?」


「冷静に考えてみよ、勇者よ。鬼を倒しに行くのに鬼人を連れて行ってどうする?それ仲間になっちゃってるじゃん?鬼が」


「!!!!」


「それにだ!全く戦力になっておらんではないか!主にイヌとサルがっ!」


「くっ……そ、それは……」


 確かに魔王の言う通り、イヌとサルは戦力にはなっていない。いないが……俺にとっては大事な仲間なんだ!


「だが!魔王よ!イヌもサルも俺にとっては大事な仲間なんだっ!」


「戦力になる仲間にせいっ!戦力!ばかもんが!」


 くっくそぅ……

 異世界の伝承が間違えていたと言うのか?

 このつぶらな瞳のイヌだってベドリントンテリアと言ってわざわざ違う世界にまで探しに行ったんだぞ。


「やり直しっ!やり直しだ!ったく、アホ勇者」


「ぐっはぁ〜〜〜!!!」


 こうして俺の魔王討伐はまたしても失敗に終わった。

 いったいどうすれば俺は魔王を討伐出来るのだろうか?


 通算記録

 0勝21敗


 次こそは!次こそは必ず!


 ……はっ、そうだ!

 確か異世界の伝説に5人の勇者の話があったはず。

 赤、青、緑、黄色、ピンク……


 よしっ!早速出発だっ!

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勇者、魔王に敗北す────るんだけど、未だに周回中 揣 仁希(低浮上) @hakariniki

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