第45話「なんでワタシ、勝さ、おにーさんを枕に……!?」

「寝た、のか……?」


頭をなでていた手を止めてみても、さっきのような反応は無い。

耳を澄ませてみると、薄っすらと寝息も聞こえてくる。

改めて自由になった右手を使って僕は作業に取り掛かる。と言っても、もうほとんど終わりかけだ。


「ん、んう……?」

「お、目が覚めたか?」


奏音が目を覚ましたのは、作業が完全に終わってからだった。


「うえ、今、何時ですか……?」


言われてから、僕も時計に目をやる。

20時ちょうど。結構時間を使ったつもりだったが、小説を読んでから30分ほどしか経っていない。もしかしたらご飯がそろそろ出来上がるかも知れない。


「20時だな。御飯の時間かもな」

「えぇ、そうですね……って、え、なんですか、これ」

「どれだ?」

「なんでワタシ、勝さ、おにーさんを枕に……!?」


心底驚いたような顔で未だに枕にしながら奏音は聞いてくる。


「なんでって、自分からしたんだろ……?」

「へっ!? あ! そうでした!? ごめんなさい!」


一気に目が覚めたのか、バッと体を起こして慌ただしく部屋を出ていく奏音。


「あ、ちょっとまって、これ!」


僕も慌てて追いかけて、チェックをした脚本を奏音に渡す。


「ああ! ごめんなさい! ありがとうございます!」

「う、うん……」

「では!」


バタン!と、奏音は自分の部屋に入り扉を強く閉じた。


「なんだったんだ……」


眠って落ち着いて、冷静になって自分が何をしているのか恥ずかしくなったのか……?

とりあえず、ご飯が出来上がっているか確認したいし、下に降りてみよう。


「ご飯できそう?」

「できそうっていうより、ちょうどよく今できたところよ。奏音を呼んできてくれる?」

「了解」


軽音姉さんに言われたとおり、僕は奏音を呼び出そうと降りてきた階段を登り直す。

奏音の部屋の前についたら、軽くドアをノックした。


「奏音、ご飯できたって」

「はいっ、わ、わかりましたぁ!」

「……?」


ドアの向こうから聞こえてくる奏音の声がなんだか変なような……?いや、気のせいだろう。何かあったら頼ってくれるだろうし、気に留めることじゃないか。


「すぐ降りてこいよー」

「はいぃ!」

「……やっぱ変だよなあ」


僕は奏音の返事に引っかかりを覚えたものの、特に気にはにせず1階にまた降りる。

降りるとすでに食卓にはご飯が並べられてあった。僕はすぐに自分の席につく。


「はい、どーぞー」

「ん、ありがとう」


席についてスマホをつついていると、響佳がお茶の入ったコップを置いてくれた。


「ねえねえ、奏音おねーちゃんとなんかあった?」

「へっ?」


響佳が隣に座っていきなりそんなことを聞いてくるので、僕は素っ頓狂な声を上げてしまう。


「ふふっ、変な声。それで? 何かあったの?」

「いや、特に……」


ないよ、と言いかけたところで先程の奏音のことを思い出した。


「奏音の距離がすごく近い気がするんだよな……」

「……! ふーん?」

「ふーんて、なにかこう。もっと反応ないのかよ」

「あ、ごめんごめん。奏音おねーちゃんも珍しいことするんだなーと思って」

「そうだよな、意外だよな」

「……何が意外なんですか?」

「うおっ!? いつの間に……」


知らぬ間に僕の背後に経っていた奏音に声をかけられ、僕はまたしてもおかしな声を出してしまった。


「いやー、奏音おねーちゃん、積極的だなーって」

「んっ!? なにがっ」

「自分でもわかってるんでしょー?」

「ええっと、それ、は……」


僕のことを気にせず二人は話し込んでしまう。僕にはなんで奏音があんな反応をしているのかいまいちわからないが……。


「ご飯できたから運んでー」


軽音姉さんの声に僕らはいそいそと台所へ行き、晩御飯をテーブルに運ぶ。

今日のご飯は、マカロニグラタンだった。チーズの匂いが食欲をそそる。


「じゃあ、いただきます」

「「「いただきます」」」


軽音姉さんの声に合わせて僕ら言う。

カン、カン、というスプーンが食器に当たる音を小さく響かせながら、僕らは離し始める。


「さっきは何の話をしてたの?」

「それはね――」

「待ってまって!?」

「どうしたの、そんなに慌てて」

「わかんない」


響佳が話そうとして、奏音が慌てる。

2人の様子をおかしそうに笑いながら、軽音姉さんは僕にこうなっている理由を聞いてくる。

みんなの距離がだいぶ近づいているような気がして、僕はうれしくなって笑いながら、グラタンを口に運ぶ。

グラタンはやけどしそうなほど熱かった。

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