第41話「姉さんと買い物」ぱーと1
「それで、何を買いに来たの?」
軽音姉さんに誘われて、近くのイ○ンに僕は来ていた。
なお、「なんで急に仲良くしようとしてくれてるの?」というしつもんは、聞きたくて仕方がなかったけれど、流石に応えて気がしなかったのでぐっとこらえる。
「そうね、調味料が切れそうになっていたから、調味料とあとトイレットペーパー。洗剤もいるわね。それと今日の食材。野菜とかお肉とか買い込んでおきたいわね」
「多いね」
「ええ、ちょっと最近大学の課題やらテストやら忙しくって、家事が疎かになりがちだったから。ごめんね、今日からはちゃんと作るわ」
ショッピングカートを押しながら、カートを軽音姉さんが申し訳無さそうに僕に謝ってくれる。
「いやいや、家事全般を大学に通いながらこなしてくれてるだけでもありがたいよ。言ってくれれば全然手伝うのに」
「いいわよ。高校生のうちにたくさん遊んで勉強してほしいしね」
「姉さんがそれでいいならいいけどさ……」
僕はここ最近忙しそうにしている軽音姉さんを見る度に手伝おうと声を掛けているが、ことごとくが、今のようなことを言われ断られてしまってきた。
だから今回僕を頼ってくれたのはちょっとうれしかったりする。
「これからも荷物持ちくらいは任せてよ。僕、家にいる中で唯一の男手だし。頼りにならないかもしれないけど」
「頼りにならないなんて全然思ってないわよ。むしろ逆。めちゃくちゃ頼りにしてるわ」
「え、そうだったの?」
「そうよ。妹のことを襲ってた男を蹴り飛ばせるような人を信用しないわけにはいかないわ」
姉さんは言いながら笑う。それを言われると、何も言えなくなってしまう。あのときは勢いがあったから良かったものの、今思い出すとなんだかとても外しいことをしてしまった気がする。いや、奏音を助けることができたから良かったのだけれど。
「さて、まずは野菜ね……そういえば、あなたって好き嫌いとかあまりないイメージだけれど、どうなの?嫌いな野菜とかあるの?」
姉さんがピーマンの袋詰めの群れからいいものを選びながら聞いて来る。
苦手なものか。小さい頃なんかそれこそピーマンなんて軍を抜いて嫌いな食べ物だったな。いつの間にか普通に食べられるようになっていたけど。
「あんまりないかな。これと言ってすぐに浮かぶようなものは無いよ。軽音姉さんはどうなの?」
ピーマンを選び終わった軽音姉さんはぐんぐんと進み、通りにある野菜を今度はあまり良く見もせずに乱雑に選び取っていく。もしや姉さんピーマンが好きだからあんなに選んでいたのか?
「私?私はこれがだめねー」
軽音姉さんはえのきの入った袋を取り上げて見せてくる。
「えのき嫌いなの?」
「えのきっていうか、きのこ全般がね。味も食感も全然だめ。何がいいのかしら、こんなの」
姉さんは文句を言いながらもえのきをショッピングカートに載せられた買い物かごに放り込んだ。
「けど、これは好きね。ピーマン。なぜか小さい頃から大好きなの」
「あ、やっぱりそれで長いこと選んでたんだ……」
食材コーナーが終わり、肉や魚などのナマモノのコーナーに回っていく。魚コーナーに関して言えば、僕は魚の生臭さが苦手なのであまり近寄りたくないが、我慢して進んでいく。
「うーん、今日はお肉か魚、何にしようかしら……って、どうしたの?顔ひどいわよ?」
姉さんが僕の様子に気がついて声を掛けてきた。そんなにわかり易いほど顔に出ていたのか、気をつけなければ。
「え、あ、いや。魚の生臭いのが苦手で……」
「あははっ、案外情けないところもあるのね」
姉さんは楽しそうに笑いながら、選んだ肉をカゴの中に入れる。しかたないじゃないか、苦手なものは苦手なんだから。
「まあ確かに私も小さい頃はこの匂い苦手だったし、今だってあまり好きではないわね。ある程度このコーナーを通るようになってから、耐性はついたけれど、それでもたまにいやになるわ」
姉さんは苦笑いをしながら、魚のコーナーで魚を選び始める。
本音を言えば少し意外だった。当たり前だが、軽音姉さんにも苦手なものがあったことが。
「私だって苦手なものの一つや二つ、三つくらいあるわよ……っと、今日は鮭のバターホイル焼きにでもしようかしら」
選んだ魚の種類はサーモンだった。
姉さんはここ最近で一番楽しそうな笑顔でカートを転がして行く。
「次は洗剤とかね。あ、そうだ。お菓子っている?」
姉さんは僕に聞きながらもお菓子のコーナーに足を向けていた。買う気満々らしい。
「うーん、僕はあんまりお菓子食べないし、いらないかな」
「そういえば、あなたってお菓子とかアイスとか、食べてるところを見たことないわね。食べないんだ」
小さい頃はたくさん食べていた気がするけれど、中学三年の頃受験勉強で忙しくなって自由の時間が減っている間に食べない習慣が見について以来、殆ど食べなくなった気がする。
「そうなの。せっかく滅多にこないスーパーに来たんだし、なにか買ったら?大丈夫、お金はお母さんたちからの仕送りが十分にあるわ。気にせず選んでいいわよ」
「そう?そうだなあ……」
じゃんじゃんお菓子を放り込んでいく姉さんを横目に、僕は陳列されたお菓子とにらめっこする。ふむ、新商品も気になるけれど、やっぱりここは小さい頃大好きだったものを食べてちょっとばかり懐かしさに浸りたい。
難しいな……というか、小さい頃はたくさん欲しいお菓子があってどれか一つを選ぶだけで苦労したのに、今となっては逆に勧められないと買わないまでになるなんて、思いもしなかった。
「よし、これだ」
やっとのことで選び取ったのは、昔ながらの、4枚入り30円と手頃な感覚で買うことのできるお菓子。薄くフライしたポテト生地に、「ステーキ」「フライドチキン」などの風味を付けた製品で、お手頃ながらもかなり美味しい。4つ買ってもギリギリ怒られないレベルの値段だったな、と選んでいるときに思い出した。ちなみに今はちゃんと1袋、4枚だけだ。
「あら、いいわね。私も買おーっと」
姉さんに見せると、そう言いながら4袋ほど追加でカゴの中に入れられた。
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