第40話「奏音の相談、襲来の軽音姉さん」

「おにーさん、いいですか?」

「ん?なに?」


響佳と一緒に帰ってから数日後、いつものように奏音の小説の編集を終えて奏音の部屋でゆっくりしていると、奏音が言った。


「あの。実は、文化祭での劇の台本をワタシが書くことになったんですよ……」


奏音はズーン、という効果音が似合いそうな表情をする。


「おお、すごいじゃないか。どういうのだ?」

「これのとおりに書け、とのことです」


奏音から一枚の紙を受け取る。奏音の表情は変わらない。

僕は紙の内容を軽く目を通す。これは……。


「ひどいな、統一性がまるでない」


その一言に尽きた。奏音も同意見のようで、うんうんとうなずいている。


「一応先生に『削ってもいいか』と聞きましたけど……それでもどれをどう削っていいかわからなくて」


奏音は本当に悩んでいる。奏音が小説を書く際に僕に意見を求めるときは、だいたい本当に困り果て、自分じゃ解決できないと判断したときだと知っている僕は感じた。


「そうだな、じゃあまずは『どれを主軸に置くか』というのを書くか」

「あ、それならいいものがあります。これとかどうでしょう」


奏音は紙に書かれた言葉の中にある、『夢』に指を指す。


「うん、いいんじゃないか?それなら『青春』とかも使えそうだな」


僕と奏音はひとまず『夢』というワードに対して使えそうなワードをあぶり出していく。

こんなことは初めてで、なんだか新鮮な気分で楽しかった。


「……これくらいじゃないか?」

「そうですね、他に入れてしまうとだめになる気がしますし。ありがとうございます、ひとまずこれで書いてみますね。書き終わったら編集お願いします。えと、台本なんて書くの初めてなので、少し時間かかるかもしれません」

「ああ、わかった。頑張れよ」

「はいっ!」


奏音は笑って返事をする。ちょっと不安だが、なんとかなりそうで僕は少しホッとした。


「ねえ勝さん、少しいい?」


話が終わってちょうど、コンコンとドアがノックされる。奏音に目をやると、「大丈夫ですよ」と言うことが伝わったので、「いいよ」と返事をしてドアを開いた。


「ちょっとこれから買い出しに行くんだけど……一緒に行かない?」


ドアの向こうには軽音姉さんがいて、少し恥ずかしそうに僕に言う。

問題は無い。問題は無いが……軽音姉さんが僕を外へ誘うなんて、夏祭りの一件以来だ。それに、夏祭りのときだって僕と奏音の仲を取り持つ為のものだったはずで、ただ僕を外に連れ出したことなんて一度もなかった。


「え、いいけど……急になんで?」


だから僕はそう答えるしかなく、軽音姉さんは困ったようにワタワタとしてから、


「あ、姉が弟と仲良くしようとしちゃいいけにゃいかしら!?」


と、少しかみながら大きな声で言った。可愛いけど、軽音姉さんそんなキャラでしたか?

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