第39話「やりましたね奏音ちゃん!わたしたちの伝説の始まりですよ!」
数日後、ついに各クラスからの文化祭案が提出された。
決定方法は多数決。
その日のロングホームルームの時間に投票を行い、翌日に発表という形だ。
そして迎えた発表日。
「えー、今年の2年生の文化祭の出し物は、『劇』に決定しました」
ぱちぱちぱちぱち、教室に拍手の音が鳴り響く。外から他のクラスでの拍手の音も聞こえてくる。
「……」
絵里ちゃんの提案が採用され、ワタシが劇の台本を書くことが決まってしまった。これは想定外だ。
『劇』なんて文化祭の出し物の中では定番中の定番だろう、他のクラスからも出ていたのではないかと、聞くか聞かまいか、余り目立つようなことはしたくないなと悩んでいると、先生が口を開いた。
「『劇』という案は他のクラスからもありましたが、『同じなら統合してもいいだろう』ということで、他のクラスの案と足して2で割ってあります。このクラスの『河口さんが台本を書く』という案も入っています」
なぜそんなことをしたのか。というかそんなことをするなら投票する必要はないのでは……と思ったが、ワタシは目立つようなことをしたくは無いので、口をつぐんだ。
「やりましたね奏音ちゃん!わたしたちの伝説の始まりですよ!」
いつの間にか隣りに座っていた絵里ちゃんはそんな訳のわからないことを言っている。こんなことが伝説になってたまるものか。
そもそも大事な文化祭の出し物の大事な部分を一生徒に任せるとかどうかしているとしか思えないが……決まったことをどう言おうとひっくり返ったりはしないので、おとなしく台本を書くことにする。
「では、奏音さんには書いてもらう台本の設定を渡しておきますね」
「あ、はい」
ワタシはクラス中の視線に耐えながらも先生の前まで行き、一枚の紙と原稿用紙を数枚受け取った。すっごく恥ずかしい。
ワタシが自分の席に戻ると、
「ではこれからこの時間は自習です、皆さん静かに勉強してください」
と言い残して先生は出ていく。もちろん、教室は静まり返るどころか騒がしくなり始める。
みんな話しながらワタシの方に視線を向けていることがひしひしと伝わってくる。
いじめられ、馬鹿にするような視線を集めていた以前より断然マシなのかもしれないが、恥ずかしすぎるのでやめてほしい。
「ねえねえ奏音ちゃん、どういう設定なんですか!?」
独特の空気感を打ち破り絵里ちゃんがワタシの持つ紙を覗き込んでくる。紙には他のクラスから出た案の中で使えそうなものをピックアップされたものがいくつか記載されていた。
「ふむふむ……全部ばらばらで、一つにまとめるなんて無理ですね!」
絵里ちゃんはバッと全体に目を通してから言う。
そう、そうなのだ。バラつきがありすぎるし、いくつか矛盾しているものもある。これでは到底まともな台本が書けないだろう。先生に言って削ってもいいかという提案をすることも考えないといけないかもしれない。
「はぁ……」
「安心してください、わたしがついています!」
絵里ちゃんはどんと胸を張って自慢げにポーズを取る。ワタシもそれくらい自身が欲しかった。
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