第37話「話し合い、しましょう!」

「では、これから文化祭の出し物を決めます!出し物は学年ごとになります。今日は2年生の出し物を決める話し合いをします。それぞれ近くの人達と話し合ってください。10分後発表してもらいます」


先生の話が終わり、周りのみんなが話を始めた。

けれどワタシは話しかけることも、話しかけられることもない。

あー、嫌だな。早く終わらないかな。この時間。

石上君の件が終わって数日、ワタシのボッチが改善されることはなかった。

いじめ自体は目に見えて減るところまでよかったが、肝心の友達が未だできていない。

少しは話しかけるなどの努力をしたらいいだろうに、と自分でもそう思いつつワタシは机に突っ伏して練るふりを始めることにした。


「あ、あのー。奏音ちゃん?」


とんとん、と肩を優しく叩かれる。え?


「え、えっと……なんですか?」


ワタシは恐る恐る顔を上げると、可愛い女の子と目が合う。ぱっちりとした黒い瞳、軽音おねーちゃんに似てきれいで艶のある黒い髪。

その子もまた恐る恐るといった様子でワタシのことを見つめている。


「そ、そのっ!話し合い、しませんかっ!」


その声は大きくも教室の喧騒にかき消されたが、ワタシの耳にはしっかり届いた。


「えっ……?」


ワタシと彼女は少しの間見つめ合う。

ワタシはとてつもなく長いように感じられたが、実際のところ1分と見つめ合っていなかったかもしれない。


「だめ……ですか?」


ワタシの沈黙を拒否と受け取ったのか、可愛い女の子の顔がみるみるうちに歪んでいくr。


「はっ!いや!だめじゃないです!話し合い、しましょう!」


ワタシは思っていた以上に声が出ていたのか教室の喧騒が一瞬だけ静まりワタシたちに視線が集まるが、すぐに何事もなかったかのようにみんな話し合いを始めた。


「いいんですか……!」


女の子の方を見るととっても嬉しそうな様子でワタシの目の前にどこからか持ってきた椅子に座る。少し安心した。もしこんな可愛い子を泣かせてしまったら、ワタシはいじめられっ子へ逆戻りだったかもしれない。危ないところだった。


「はい、じゃあ話し合い始めましょうか。えっと……」

「わたし、劇がいいと思うんです!」


ワタシがどう話を始めたらいいか悩む前に彼女はワタシの言葉を遮り前のめりになって話始める。


「あのあの、わたし実は奏音ちゃんの小説の大ファンで!」

「~~~~~っ!」


何を言い出すのかと思ったらとんでもないことを口にしてきた。ワタシの小説の大ファン?

嬉しさと恥ずかしさが相まってワタシはどんな表情をしたらいいのかわからなくなる。

というかこの子の名前を知らない。せっかく「大ファンだ」と言ってくれたのになんとなく申し訳ない気持ちになる。


「わたし石上くんがクラスラインにメッセージを流してから知って、読み始めたんですけど、すっごく面白くて!そうそう、昨日も短編と連載両方更新してましたよね!どっちも最高でした!短編は短いながらも主人公の葛藤とか悩みとか、きれいに描かれてて、連載は森狩りどころを迎えたなーって感じで――」


ワタシが口を挟むまもなく熱く語る。いや、悪い気はしないけれど……やっぱり恥ずかしいよう!サイトでは感想いくつかもらったことあるけど、リアルで肉声で聞くとやっぱりなんか違うよ!恥ずかしさがすごい!


「それでそれで――あ、ごめんなさい。興奮しちゃって……」


ワタシが何も言わず黙っていることに気が付き、彼女は落ち着きを取り戻し、姿勢を正した。


「い、いえ。大丈夫ですよ。えっと……」


「神野絵里です。神様の神に、野原の野。絵里は絵に里で絵里です」


ワタシが言い淀んでいることに気が付き、丁寧に名乗ってくれる神野さん。


「……ありがとう、神野さん」


ワタシは少し間をおいてから感謝の言葉を口にした。

恥ずかしさはあるもの、せっかくワタシの作品を好きだと言ってくれたのだ。感謝はしないといけないだろう。


「あ、その!な、名前で呼んでください!」

「え、いいの……?」

「はい!ワタシは『奏音ちゃん』って呼ぶので!」

「そ、そう……じゃあ、その。ありがとう。『絵里ちゃん』」

「わぁっ……!」


ワタシが名前で感謝を述べると、先程よりずっと嬉しそうな顔で絵里ちゃんは笑った。


「それと、その。ワタシに話すときは敬語じゃなくていいですよ……!」

「そ、そう……?じゃあ絵里ちゃんも――」

「いえわたしは敬語で行かせてくださいっ!」

「えぇ……」


ワタシだけタメ口というのは気がひけるのでお互いタメで、という提案を即座に否定されてしまった。ちょっと悲しい。けどこれ友達って言えるのかな、もしかして……友達って呼べるのなら、こんなにも嬉しいことは無いなあ。

なんてことを思っていたからワタシは忘れていた。彼女が最初どんなことを提案してきたのか。


「じゃ、提案がある人は手を上げてくださーい」


先生が教卓の前に立ち言う。

そして教室はしんと静まり返り――「はいっ!」っという威勢のいい声が響いた。

声の主の一番そばにいたワタシは驚いてすぐに声のした方向を向く。

絵里ちゃんの白く細い腕がピンと伸びていた。


「じゃあ、神野さん」

「はいっ!わたし、奏音ちゃんが劇の台本を書いて学年全体で劇をするのがいいと思いますっ!」

「えええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっっっっっっ!?」


絵里ちゃんのとんでもない提案に、ワタシは生まれた初めての悲鳴を上げた。なんてことを提案しちゃうの、絵里ちゃん……!

ワタシはこの案が通らないことを願わずにはいられなかった。

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