第35話「たまにはおにーさんと帰りたいなーって……だめ?」

夏休みに入る少し前、高校2年生の僕河口勝は、家族が増えた。

増えたと言っても、単に兄妹が増えたわけじゃない。

父親の再婚相手に3人の娘がおり、それが僕と家族になったのだ。


長女の軽音姉さん、19歳。長い黒髪の美人で、大学1年生。軽い男性恐怖症と、男性不信。


次女の響佳、16歳。高校1年生。短く揃えられたショートカット茶髪で、家族のムードメーカー的存在。普段は人懐っこいが、たまに鋭い一面を見せられる。


三女の奏音、ライトノベル作家を目指している白髪の13歳の中学2年生。その筆の速さは尋常ではなく、毎日1万字の短編小説を投稿しており、それと同時並行で文量は劣るものの、毎日ネット小説を連載している。


夏休みの間に、様々なことがあった。

まず、奏音と出会い彼女の書く小説の編集として協力をするところに始まり、喧嘩をして、夏祭りに行って仲直りをして、そして奏音の窮地を救った。

まとめるとサクッと終わってしまうが、本当にいろいろなことがあり、夏休みは一瞬で過ぎ去って行った。

今年の夏は、本当に内容の濃い夏休みで、一生忘れることは無いだろうと断言できるし、来年の夏休みも、事件があってほしいとは思わないが、楽しくて忘れられない夏休みにしたいなと、まだオリオン座の見えない夜空に誓ったのは内緒。

……そんなこんなで。


「おい、勝。どうなっているこの成績は」


放課後、僕は職員室にて、先生にお叱りを受けていた。

理由はもちろん、夏休み明け直後の実力テストの点数についてだ。


「すみません」

「全く。妹さんを助けたことは素晴らしいと認めるが、それこれとは話が別だ…わかるな?」

「はい……」

「というか、課題をちゃんと出しているのに、この有様とは……誰かのを写したのか?」


先生が鋭い眼光で僕を睨みつけてくる。怖い。


「いえ……早めにやったので復習をしていなくて……」

「なるほど。とりあえず今回は実力テストだったから進級に響いたりはしないが……次の中間は気をつけろよ?」

「はい……」

「わかったならよし、行け」


先生は顎を職員室の扉へ指した。

僕は先生にちいさく例をしてから職員室から出る。


「おにーさん、怒られてた」


職員室から出ると、外で待ち構えていた響佳がニヤニヤしながら話しかけてきた。


「……しかたないだろ」

「そうだねー、仕方ないね。奏音にべったりだったもんね」

「なっ……いや、そういうことじゃなくて」


顔をニヤニヤさせたまま、響佳は楽しそうに言う。


「そんなに慌てなくても、小説手伝ってただけでしょ?」

「そう、だけど……」

「いやーそれにしても驚いたなー、奏音があんな量の小説を書いてたなんて……」


うんうん、と急に真面目な顔になって響佳はうなずく。


「それで、何の用があるんだよ響佳」

「いや、別にないけど……たまにはおにーさんと帰りたいなーって……だめ?」


響佳はそう言って上目遣いで瞳をうるうるさせる。かわいい。


「そっか。じゃあ一緒帰るか」

「うん!校門前集合でいいよね?」

「ああ、わかった」


僕と響佳は学年が違うため、下駄箱の場所が違う。だから校門前集合だ。

僕は職員室の前に置いておいたカバンを持って下駄箱へ向かう。


「ねえ、あれ勝くんじゃない?」

「ほんとだ!」

「え、勝くんってあの襲われてる妹を助けたっていう……!?」

「そうそう!」

「えーどこ!?」


下駄箱へ向かっていると、通りかかった女子たちがそんな事を言っているのが聞こえた。

ちらりと気付かれないように学年を確認すると、1年生のようだった。


「あ!こっち向いた!」

「えーまじ!?」

「あ、ちょっとかっこいいかも」

「ん!?」


後輩の発言に思わず僕は少しばかりむせた。かっこいいとか言われたの久しぶり……なんなら初めてかもしれない。


「あ、むせた」

「聞こえてたのかな?」

「かもね。というかあれで妹思いって……ちょっとありかも」

「わかる!」

「確かに!」

「んんっ!?」


僕は更にむせかえる。やばい、ちょっとにやけそうだ。モテ期が僕にも来たのかもしれない。

というかこれ以上ここへいたら響佳を待たせてしまうことになるかもしれない。それは兄として良くないと思い、僕はまだ聞いていたかった女子たちの会話に耳を立てるのをやめて、下駄箱へと足早に向かった。

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