第34話「もう夏の大三角形は見えない」
カレーを食べ終えてから、部屋でじっとしていると「あーん」のことを思い出して意識してしまい、気が休まらなかったので頭を冷やそうと夜風に当たりながら、2階のベランダから夏の終りの夜空を眺める。
もう夏の大三角は見えない。昼間はまだまだ夏を感じさせるほど暑いが、夜はだんだんと冬が近づいていることがわからされた。
遠くからは夏なのか秋なのかよくわからないが、ジージージーと虫の鳴く声がよく聞こえる。
そして、今までのことを振り返ろうとして――やめた。
それは、もっと後になってからでいいと思ったから、というのもあったが、
「おにー、さん」
横の方から奏音が僕を呼ぶ声がしたからだ。
ベランダは部屋同士でつながっているから、奏音が出てきて僕を見るけたんだろう。
「なに?」
聞くと、奏音はほんの少し照れくさそうにうつむいてから、改めて僕の方を向き直り口を開いた。
「あの、石上くんの件、本当にありがとうございました」
奏音はそう言って頭を下げだ。
「いやいやいや、いいって全然!というかこちらこそ!あの、助けるのが遅くなってしまって申し訳ないというか、話を聞けてやれなくて申し訳ないと言うか」
「いえ……ワタシの方から話をしなかったのが悪いですし……」
「いや、それだって……」
と、僕が、ワタシが、とどっちが悪いのかを話して。
「「……あはは」」
『あの日』みたいに、お互い笑いあった。
それから二人してなんとなく並んで夜空を見上げる。
星が綺麗に見える、雲ひとつない、透き通るようなきれいな夜空。
ふと、横で僕と同じように星を見ている奏音の横顔を見た。
夜空に光る星と、月明かりに照らされて見えた彼女の横顔は、とてもきれいで美しく。
思わず、見惚れてしまった。恋に落ちるような胸の高鳴りを感じた気がしたけれど、僕はそれに気づかないふりをして、言った。
「これからも、よろしくな」
二人を見届ける夜空の中を星が駆けた。
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