第28話「長女の気持ち」

私は思い出していた。

奏音に襲いかかっている人物が、何年も前――私がまだ小学生ぐらいの頃――に見た、父の姿と重なった。

欲情した父が、よく母親に対してしていた行為。


夫婦ならば当然することなのだろうが、双方の合意の上、という感じではなく、一方的に、暴力で相手を押さえつけ、嫌がる母に無理やりしていたように、当時の私の目には写った。

その印象は大学生になった今でも変わらず、思い出すだけで吐きそうになる。

私は動けなかった。

怖かった。

夏祭りのときもそうだった。怖くて怖くて、どうにかしたいのに、声は出せるのに、体が震えてまともに動けなかった。


動け、動けと、私が奏音を助けるのだと、必死になってもなお、体は一歩も前に出ようとはしない。

なんで、私は何もできないの……っ!『長女』なのに!

瞬間、私の目の前を誰かが駆けた。

『長男』だった。まだ、出会って3ヶ月も経っていない、彼が。

必死になって駆け出していた。

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