第24話「響佳、お前そんな風にも話すんだな」
奏音になにかしてやれることは無いか。
元気よく学校へ行った奏音が、元気なく学校から帰ってきた日、僕は部屋で一人ずっと考えていた。
もしかしたら奏音が学校へ行くと言っていた当初心配していた、「久しぶりの登校によりクラス内で浮く」ということが発生してしまっているのではないだろうか。
ひいては、それがいじめにつながってしまっているのではないだろうか。
それと、今日の分の小説が更新されていないことがさらに僕の不安に拍車をかけた。
なにかできることはないか。それを考えてみるものの、これと言って解決策は思いつかない。
せめて奏音が相談してきたときにはしっかりとその内容を聞こうという心構えをしておくことくらい。
ひとまず考えがまとまったところで、『コンコン』と扉が叩かれる。
「なに?」
扉を開けると、そこには軽音姉さんがとても深刻そうな顔をして立っていた。
「・・・・・・相談が、あるの」
少しの沈黙の後、軽音姉さんはそう言ってから「入ってもいい?」と聞いてくる。断る理由もなかったので、部屋に入れると早々に話し始めた。
「奏音の様子、あなたも気づいたわよね?」
やっぱりというか、奏音のことだった。僕は静かにうなずく。
「いじめられている、と判断するのはちょっと急かもしれないけれど、よくないことが起こっているのは確かよね。私たちにできることを話し合いたいのだけれど・・・・・・いいかしら」
「もちろん。僕も奏音になにかしてやれることはないか考えてたんだ。僕より奏音のことを知ってる軽音姉さんと話し合えるのなら、これ以上の助けはないよ」
「そう、なら良かった。じゃあ、早速話し合いましょうか・・・・・・とは言っても、私たちにできることなんて限りがあるのだけれどね・・・・・・」
そう、僕や軽音姉さんは奏音の兄であり姉であり、家族である。が、所詮は学生。学校で何かが起こっていても、大きな問題にならない、あるいは相談されないと何か奏音に対してしてやれることはないと言っていいだろう。
だからといって何もしないのは歯がゆい。
「ひとまず、奏音が相談してくれた時はしっかり手助けをしてあげられるようにしておくこととあとは・・・・・・そうね、学校の生徒達に聞き込みをする、とかかしら」
「聞き込みって・・・・・・不審に思われるかもしれないんじゃ?」
「そうかもだけど、それ以外になにかできることがある?奏音はなにか言ってたの?」
軽音姉さんに言われて、僕は黙ってしまう。
思い出した。あのとき、奏音はうつむいて、答えてはくれなかった、奏音の姿を。
確かに、聞き込みをするくらいの勢いが無いと、本当に何もできないのかもしれない。
けれど、やっぱり「そこまでする必要があるのか」「不審がられないか」という思いが頭の中に浮かんでは消えていく。
僕は、どうすればいいのか、わからなくなる。
「・・・・・・・そう、あなたは何もしないのね。聞き込みは私ひとりでするわ」
ずっと黙っていた僕の様子を見て、軽音姉さんはすっと立ち上がる。
一瞬だけ見えた彼女の瞳には、僕の姿はどう写っていたのだろうか。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
軽音姉さんは部屋から静かに出ていく。僕は出ていったあともただぼうっと、働いているのかいないのかよくわからなくなってきた頭で、ただただあのときの奏音の姿を思い出していた。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昼休み。中学校までは昼食の後にあるのが当然だが、高校生にもなると昼休みの間に昼食をとるので、昼休みに遊ぶということが少なくなる。
もちろん、昼休みの前に弁当を早めに食べ終えてしまって部活の昼練習や体育館に遊びに行く、という人もいることにはいるが、うちの高校ではごく少数だ。
僕は多数派なので、昼休みは軽音姉さんが作ってくれた美味しい弁当を響佳とともに食べる。
響佳はもともと友達と一緒に食べていたが、僕が一人で食べていることを知ってからは僕の教室までやってきて、一緒に弁当を食べるよう誘ってきてくれたのはちょっと嬉しかった。
しかし誘ってくれた当初は響佳が可愛いので周囲から「なぜあんな奴とあんな可愛い子が?」という視線を向けられることがあるのがちょっとつらかったりもする。確かに響佳は可愛いのでその気持ちは十分わかるが、向けられる側の気持ちも少しは考えてほしい。
あの日から数日経った。
奏音の小説は、始業式前の投稿から途切れてしまっている。その上、家で明るく振る舞っている姿を見せてくれなくもなった。
軽音姉さんは宣言していたとおりに聞き込みをしていて、得た情報を毎夜僕の部屋に来て話してくれた。
対して僕は何もできずにいた。
「なあ響佳」
ふと、昨日軽音姉さんから聞いた、『近々奏音に告白をしようとしている人がいる』という情報を思い出した。
それをきっかけになにかが起こるような気がして。覚悟を決めたくて。なんとなく、彼女は答えになるものを教えてくれるような気がして、聞くことにした。
「なにー?」
「響佳からみて、奏音は元気なさそうだよな、やっぱり」
「うん、そうだねー」
僕が重々しく話すのに反し、響佳は割と明るげに返してくれる。
これでそれなりに真剣に話を聞いてくれているのだと、知ったのは最近だ。
「なにか、してやれることってないかな」
「あるんじゃない?ほら、けーねおねーちゃんがしてるような聞き込みとかさ」
「そう・・・・・・思うよな、やっぱり。僕もそう思うけど、心のどこかで『そこまでしなくていいんじゃないか』って思いもあるんだ。僕はどうすればいいと思う?」
「できない、やらない理由を言うより先に行動する」
先程までの緩やかな言動が嘘のように、響佳の声は真剣味を帯びていた。
「何を迷ってるの。兄なんだから『僕の妹になにをしてる』くらいのこと言ったらいい」
その時の響佳の姿は、普段の響佳とはかけ離れて見えた。まるで違う人格なのではないかとすら感じられた。
「兄なら。まして『家族』なら。血がつながっていなくたって、家族の誰かが困っているとき『絶対になんとかする』ってやってのけてよ。貴方はきっと、それができる人」
「響佳、お前そんな風にも話すんだな」
「え・・・・・・?あ、ごめん!変なこと言っちゃった!?」
僕が言うと響佳はハッとしたようにそんな事を言いだした。
結局、さっきの響佳の様子が何を示しているのかはわからなかったが、僕の覚悟を決めるのにはちょうどよかった。
答えを得ることはできた。あとは行動に移すだけだ。今まで何もしてやれなくてごめんな、奏音。僕はお前のおにーさんだから。
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