第25話「行きなよ、兄さん。なんのためにいるの」
翌日。僕は学校が終わってすぐに自転車を漕いで全力で走ること30分。奏音の学校へやってきた。
すでにすべての授業が終わってからそれなりに時間が経っているからか、もう下校中の生徒はチラホラとしか見受けられず、部活動生たちが元気よく部活に取り組んでいるようだった。
遠くからは野球部の誰かが『カキーン』と気持ちよくボールを飛ばす音が聞こえてくる。
「いきなりごめん、金城……いや、河口響佳って知ってるか?」
たまたま近くを通りかかった生徒に声をかける。
僕は名字が変わることなく生活を送れているが、響佳たちはどうなのか知らなかったので変な感じになってしまったことは今は放っておくことにする。
「金城か河口かわかりませんけど……響佳って、白髪の子ですよね?だったら多分、今は校舎裏じゃないですかね……?」
女の子は少々訝しむような態度をとったものの、僕が高校の制服を着ていたことが功を奏したのか、ちゃんと答えてくれた。
「そうか、ありがとう!」
僕はそう言うとすぐに校舎裏に向かって走り出す。
近々告白する、という情報は正確なもので、しかも今日だったのは幸運だったかもしれない。何度も中学校へ言って不審者扱いされるのはゴメンだからだ。
僕は走った。
校舎裏に近づくと、すでに響佳と軽音姉さんがいた。
「あれ、なんでいるの」
「そりゃ、私の可愛い妹に告白するやつがどんな人か気になるし」
僕が言うと軽音姉さんはそっぽを向いて答えた。
「……」
響佳はと言うと、真剣な面持ちで黙ってスマホで奏音の様子を録画しているようだった。
「なあ、どんなかんじだ……」
その時僕の目に写ったものは――。
「行きなよ、兄さん。なんのためにいるの」
響佳は静かに――スマホの録画にも記録されないくらいの声量で――言った。
軽音姉さんは、目の間に写っているものが信じられないというように、口元を覆い、立ち尽くしていた。
動けるのは僕だけだ。
僕は駆け出す。
何も考えられなかった。ただただ必死になって走った。
そして、
「僕のかわいい妹になにしてるんだてめぇええええええええええええええええええええええええええっっっっ!」
叫んだ。
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