第20話「ぬうううわああああああああああああ!」

「あ、焼きトウモロコシ・・・・・・」


奏音が屋台を見つけ、つぶやいた。物欲しそうな視線を送っているのに気が付く。


「買っていく?」

「い、いいのっ?」


奏音の声が少し弾む。表情もさっきも良かったが今のほうがより明るく見える。


「ああ、もちろん。いいよね、軽音姉さん」

「そうね。私も一つ欲しいし」

「アタシも欲しい!」

「じゃあ、僕の分も含めて全員分、4つだね」


看板を見ると、やはり一つ300円らしいので、屋台の列に並び、1200円を支払って焼きトウモロコシを購入する。

受け取った袋から取り出す。綺麗な黄色にところどころ良い具合に少し焦げた部分がある。なかなかおいしそうな焼きトウモロコシだ。

やけどをしないよう、もらっておいた手で持つためのビニール袋に一つ一つ入れて、3人に手渡す。


「ん、おいしい!」

「そうね」

「はむっ、むぐっ、はむっ」


それぞれ三者三葉な反応を示しながら、焼きトウモロコシを食べていくのを見てから、僕も一口かじる。

コーンがはじけ、プチプチとした心地のいい感触と、コーンの甘みが口の中に広がる。

なんだか普段食べるようなトウモロコシと比べておいしく感じるのは、焼いているからなのか、それともこれも祭りの雰囲気があるからなのか。どちらでもいいが、どちらでもあるような気がした。


「ここか・・・・・・意外と並んでるもんだなぁ」


焼きトウモロコシを食べ終わる前に、射的屋には着いた。ただ、思いの外人が並んでいる30分も待たなくていいだろうが、10、20分も列に並ぶのは苦手だから、正直後回しにしたい。

そう思ったものの、もうすでに僕らの後ろには人が数組並んでおりここで列を抜けたらまた並ばないといけなくなるなぁ・・・・・・と思い諦めて並ぶことにする。


「どんな景品があるのかしら」

「うーん。ここからじゃよく見えないけど、お菓子とか、子供向けの小さいおもちゃとかが見えるよ」

「ふーん・・・・・・まあ景品はなんだっていいわ。今度こそ勝つ・・・・・・!」


軽音姉さんが見たことないくらいに燃えているように見えた。というかこの人本当に男性恐怖症とか男性不信とかなの?そうは見えないくらい僕と普通に接してくれるけど?


「あのさ、軽音姉さん」

「ん?何かしら」

「その・・・・・・なんで僕とこうして普通に接しくれるの?」

「家族なんだから当たり前でしょ? というか、別に会話するくらいならどうってことないし」

「あ、そうなんだ・・・・・・」


僕は何でもないように反応しつつ、内心少し喜んでいた。

理由は単純。軽音姉さんが、僕のことを『家族』として認めてくれていたことがはっきりとわかったからだ。

正直不安だった。

僕のことを『家族』として認めてくれるのか、受け入れてくれるのか。

少なくとも軽音姉さんは、僕のことを『家族』として認めてくれている。

それがすごくうれしくもあり、そしてすごく・・・・・・申し訳なく思う。

認めてくれていたのに、奏音のことを傷つけてしまった。泣かせてしまった。あんな思いをさせてしまった。

奏音は平然と以前のように僕に接してくれるが、心の中ではどう思っているんだろうか。

あれは完全に僕が悪い。だから、早く謝っておきたい。このまま、うやむやにして、また以前のように接し始めるのは、家族とかどうこう以前に、人間関係を築くうえで最低な行為だと、僕は思う。

しかし、せっかく奏音と話すチャンスがあるというのに、僕は怖くて謝れずにいる。

あの時と同じように、僕のことを恐れられるのが。

あの時と同じように、僕のことを拒絶するのが。


「おーい、勝? ほら、順番きたよ。300円、出して」

「えっ?あ、もう?ああ、うん・・・・・・はい」


考え事をしているうちに、順番は回ってきたらしい。軽音姉さんに催促されて僕はお金を渡す。

300円で5発の球が打てるらしい。


「じゃあまずはその白い嬢ちゃんと、短い髪の嬢ちゃんから」


射的は2人ずつしかできないらしく、まずは奏音と響佳がすることになっていた。


「うーん・・・・・・ここだ!」


響佳の銃がパン!と小気味いい音を立てて弾を発射する。

狙いは正確だったらしく、景品にクリーンヒット。倒れた景品をおっちゃんが拾い渡す。

弾はあと4発。

響佳は見事に前段景品に命中させ、景品を5つ手に入れた。これは軽音姉さんが勝つのは難しいかもしれない。

ちなみに、奏音はというと、2つの景品を手に入れていた。初めての割には2人上出来だろう。

続いては、僕ら長男長女の番だ。


「っっっっすううぅぅぅぅ――・・・・・・!」


よこで祭りの出店で出すような雰囲気ではない雰囲気を軽音姉さんが纏う。


「はっ!」


パン!弾は景品をかすめる。少しぐらぐらと揺れ動いた後、無事倒れる。


僕も妹たちより景品が少ないというのはなんだか悔しい気がして、集中して景品めがけて銃弾を放つ。

弾丸は景品を打ち抜き、倒す。

まず一つ。

軽音姉さんは無事2つ目の景品を倒していた。


僕も負けじと景品めがけて打つ・・・・・・外れ。

もう一発・・・・・・外れ。

もういっぱ・・・・・・はずれ。


「くっそおおおおおおおおおおおおお!」


パン!やけくそになって打ったその弾は見事に景品を打ち抜いた。


「ヨシ!」


景品は2つだけだったが、ないよりはましだろう。というか上出来だろう。


「ぬうううわああああああああああああ!」


喜ぶ僕の横で、軽音姉さんが悲鳴を上げていた。

見ると、手にしている景品は4つ。ギリギリ負けたらしい。


「ま、まあまあ・・・・・・次の人いるし、とりあえず移動しよう?」

「う、うん・・・・・・」


軽音姉さんは一人で立ち上がり、僕らは店を離れて人混みから離れた場所を探し始める。

幸い、屋台の並ぶ場所から少し離れた場所に神社への階段があった。


神社はかなり高いと事に見える。あそこまで登るのはきつそうだが、階段の隅で休むくらいならできそうだ。階段の隅で休んでいるのがちらほら見受けられるので、別に迷惑にならないのならいいのかもしれないと思い、空いている場所を見つけてそこに腰を下ろす。

改めて、射的屋であてた景品をそれぞれ袋から取り出す。

僕があてたのは、小さい箱に入ったキャラメルと、光る小さいアクセサリー・・・・・・指輪だった。

響佳は子供用の小さい車と、その他はお菓子だけだ。

奏音は僕と同じタイプで違う種類のもののアクセサリーとお菓子。

軽音姉さんは・・・・・・僕ら4人は誰もしないカードゲームのカードがランダムに入った袋、握ると光るおもちゃ、お菓子。

まあその・・・・・・景品の内容は、微妙だった。ほかにあった景品も大差なかったため、この夏祭りの射的屋の景品はこの程度なのだろう。

正直、動画で見たことあるような、景品は豪華だが全然落ちない、という射的屋を想像していたから、300円が無駄にならなかったことへの若干の安堵と、残念という気持ちが半々だった。

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