第16話「夏祭りに行きましょうか」

その日、いつもと変わらず――といっても、何とも重々しい空気間ではあったが――晩御飯を家族そろって食べていた。

けれど姉さんの様子がおかしいことだけはすぐにわかった。なんだかそわそわしていて、何かを言い出そうとしているのをタイミングをうかがっているということが見て取れる。

「・・・・・・姉さん、何か言いたそうだけど、どうしたの?」


僕が言うと、姉さんは「えっ」と少し驚いたような声を出す。


「その……そのね? その……」


「みんなで夏祭りに行きたいって誘いたいんだよ!ね!!」


なかなか言い出そうとしない姉さんに我慢ならなかったのか、響佳が口をはさむ。

夏祭りか……最後に行ったのはいつだろうか。小学生くらい…? かなり前のことのような気がして思い出せない。それくらい昔だ。それに、ここの地域でやっている夏祭りは規模が小さいため行ったところでそこまで楽しめるような気もしない。


「夏祭りって……ここの近くで毎年やってる……?」


奏音が恐る恐る尋ねる。


「いいえ、少し電車に乗ったところでやっている、ここより断然規模の大きい夏祭りよ。奏音も行ったことはなくても、学校とかで広告をもらったり、街中に貼られているのを見たりしたんじゃないかしら?」


「ああ、あれ……まあ、ちょっとは興味、あるかも」


聞いた初めはあまり興味が無さげだった奏音の瞳が、興味ありげな瞳に変わる。きっと、小説のネタになるからだろう。


「それじゃあ行きましょうか! あ、着物も用意するわ!」


パンっ、いい音を両手を叩いて笑顔で軽音姉さんは言った。

着物か……この家の女性はみな美人ぞろいだから、着物はきっと似合うだろう。


「ああ。もちろん、勝には浴衣着てもらうから」


「え!?」


まさかの人物から話が振られたので、驚きの声をあげてしまった。軽音姉さんは若干ではあるものの、男性恐怖症、男性不信だからだ。


「なに? 嫌なの?」


「いや、嫌じゃないよ」


僕は手と頭を横に振って、嫌ではない旨を伝える。……なんか口に出してみると、変な言葉だなこれ。


「じゃあ決まりね! 来週の土曜日、みんなで夏祭りに行きましょう!」


「おー!!」


軽音姉さんが元気よく拳を突き上げると、それに合わせて響佳も同じように元気いっぱいに声を出してこぶしを突き上げた。

なんだか、普段の軽音姉さんとは違って、テンションが高いような気がする。

もしかしたら、僕と奏音に何かあったのか察して、こうしてくれているのかもしれない、と思った。

まさかな、と内心首を振りスマホを取り出しカレンダーアプリの来週の土曜日に『家族で夏祭り』と書き込んで閉じた。

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