第15話「ワタシのせいで、また家族が壊れちゃう」
「・・・・・・っっっぅぅっっっ、えぐっっぅぅ……」
勝さんが部屋を出て行った日からよく、ワタシはベッドの上で泣いていた。
まただ、またやってしまった。
小説を書くことに夢中になりすぎて、周りが見えなくなってしまった。またバラバラになってしまった。
しかも、今度は小説をもう書ける気がしなくなってきてしまっている。あれだけ楽しかったPVの確認も、執筆も、あの日以来何一つ触れていない。夢のために家族を壊した上に、その夢まで失ってしまいそうだなんて……馬鹿な話だ。
全部ワタシのせいだ。ワタシが悪い。
「ワタシのせいで、また……家族が壊れちゃうよぉ……!!――ううっっっっっぐ……!」
ワタシはずっと、泣いていた。
☆ ☆ ☆ ☆
ごめん、ごめん、ごめん――……。
奏音は何も悪くない、怒鳴った僕が悪かった。奏音に僕のことを「怖い」と思わせてしまった僕が悪いんだ。
ドア越しに奏音の嗚咽を聞きながら、僕は心の中で叫ぶ。
兄として絶対にやってはいけないこと、したくなかったことをしてしまった。僕が悪い。
妹を泣かせる兄なんて、兄失格だ。そして、泣いている妹に何もしない兄はもっと――。
それに、奏音の小説が投稿されている気配がしばらくない。もしかすると――。
いや、それはない。ないでほしい。
懇願するように、誤魔化すように、降ってわいた一つの可能性を頭を振って考えなかったふりをする。
でも本当に、こういう時はどうしたらいいんだろうか。
僕の方から謝ればいいんだろうか。謝ったところで、奏音は僕のことを許してくれるだろうか、怖がらないでくれるだろうか。もし怖がられたらどうしよう。
様々な不安が僕を覆う。
もっと賢ければ。もっと経験があれば。
僕は足音を立てないようにそっと奏音の部屋の前から立ち去った。
☆ ☆ ☆ ☆
『面倒くさいことになってしまった。
端的に言えば、勝さんと妹が喧嘩をしてしまった。
勝さんのほうは謝る気はあるみたいだけれど、どう謝ればいいのか、もし怖がられたら、という思いがあって謝るに謝れないみたいだ。本人に直接聞いたわけではないけれど、様子から察するにこんな感じだろう。
さて、私はこれからどうしようかな』
☆ ☆ ☆ ☆
「うーん……」
「どーしたの? けーねおねーちゃん」
私は夜ご飯を食べ終えて洗い物をしながら考え事をしており、唸り声をあげると、私の手伝いをしてくれていた響佳が聞いてきた。
「そのね? 最近、奏音と勝さんの距離が開いたなって思って・・・・・・何かあったのかしら」
いつの日からかはわからないけれど、勝さんはこれまでは毎日のように奏音の部屋にこもり、食事の時間になると奏音と一緒に降りてきていた。
けれど最近、ばらばらに降りてくるし、会話は少ないし、二人で一緒にいるどころか、ご飯を食べているときに心から笑っているような瞬間がなくなっている……気がする。
「気のせいならいいんだけど……」
「・・・・・・――。気のせいじゃ、ないよ」
「え? なんて言った?」
響佳が何か言っていたような気がするけれど、水の音でかき消されて聞こえなかった。
聞き返したけれど、私と同じく水の音にかき消されたのか、返事はなかった。
洗い物を済ませてから、私はリビングにあるソファーに座り、テレビをつける。
目に入ってきたのは、近々行われる夏祭りの広告。
花火大会もあるらしかった。
花火か……小さい頃はお母さんと妹たちみんなで一緒に行った気がするけれど、もう長いこと家族そろって何かをしに家を出ていない。
せっかくの機会だし、勝さんのことももう少し知りたいし、奏音と勝さんの関係も良くなるかもしれないし、みんなで行ってみようか。
「響佳、みんなで夏祭りいかない?」
「んー……? いいと思う! いこっか! 明日の晩御飯の時にでも二人にも提案しよう!」
響佳は少し考えてから、明るく笑って答えてくれた。かわいい。そうだ。
「響佳、ちょっとこっちきて?」
私は響佳のことを手招きする。
「なにー?」
響佳は不思議そうな顔をしながら私に近づく。
「ぎゅうううううううううううううう!!!!!!!」
そして間合いに入ってきたところで響佳をいきなり抱きしめる。
「あーもうかわいい! むり! なんでこんなにかわいいのおおおおおおおっっっっっ!!!」
響佳のことを抱きしめて頭を撫でて私は2階に響かない程度の音量で叫ぶ。
奏音には嫌がられるかもしれないからできないけれど、響佳は笑って許してくれるからたまにこうして癒してもらっている。
「あーもうまたぁー……? よしよし」
あきれながらも響佳は私の頭を撫でてくれる。心地がいい。気持ちがいい。癒される。しあわせ。
「ありがとううううううう!!!!!」
奏音と勝さんのことも気になるけれど、私は今この瞬間の幸せを謳歌しようと、精いっぱい響佳のことを抱きしめ続けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます