第14話「おにーさん! またPVが増えました!!」

「おにーさん! またPVが増えました!!」


奏音が今日も嬉しそうに報告してくる。

夏休みは半分を過ぎ、「そろそろ課題終わらせておこうかいやでももう結構終わってるしいいや」という気持ちで毎夜寝るようになってきた。

奏音はTwitterを始めてからというものの、恐ろしい勢いでPVが増えていた。

もちろん、投稿している話数が増えたことも要因だろうが、確実にそれだけではないことが、この期間、奏音のことを見ていた僕にはわかった。

普通に面白いのだ、奏音のツイートや、キャラクターが。

それによりTwitterのフォロワー数は恐ろしい勢いで増え続け、今ではもう僕などとっくに追い越し、既に2000に達していた。

2000もいれば小説の投稿ツイートだってたくさん拡散されるし、読んでくれる人だって増える。


「ありがとうございますおにーさん・・・・・・! おにーさんがいたから夏休みだけでPVがこんなに増えました……!!」


「いやいや、そんなことないよ。だって奏音、投稿頻度すごいじゃん」


そう、奏音のすごいところは、Twitterのフォロワーの伸びだけではない。

その執筆速度だ。

普通がどうかはほかを知らないのでわからないが、奏音は2時間あれば1万字は書ける。

その能力もあって、奏音は今僕が初めて添削を行った作品だけでなく、他に3作品、連載をしている。それもほぼ毎日のように2話投稿で。


「なあ奏音、無理してないか?」


さすがに2時間で1万字書けるといってもさすがに限度があるはずだ。それに奏音はまだ中学二年生。もっとちゃんとした生活習慣のほうがいいはず。


「大丈夫ですよ。まだまだ書けますし、ちゃんと寝てます。おにーさんの方こそ大丈夫ですか? ほぼ毎日ワタシの小説添削してくれてますよね」


「それは……ちょっと疲れてるかな……」


まだ朝の9時だというのに、うとうとと眠くなってくるくらい。昨日だって深夜まで添削をしていたんだ。普通に睡眠が足りない。


「・・・・・・それよりさ、奏音はこの間、昼に寝て夜執筆するみたいなことを言ってた気がするけど、今はどうなんだ? 昼はTwitterして、夜は執筆してるよな……?」


「大体3~5日分の小説書いたら夜寝てます。またストックがなくなったら徹夜で書いて……って感じですかね」


奏音は笑って答える。が、それはあまりよくないことなのではないだろうか。


「・・・・・・奏音、毎日ちゃんと寝ろ。さっき渡してくれた小説だってほら、こんなにも誤字脱字が多い。それに、キャラクターの口調やら名前やらがごっちゃになってる。前はあってもこんなに多くはなかった。多分、寝てなくて集中して書けてないんだろ」


奏音の渡してくる小説は確かに面白い。面白いが、以前は「添削いるのだろうか……」と思うほどクオリティーの高いものだったが、最近では絶対に添削をしないと投稿できないような代物にまでグレードが落ちていた。

キャラの名前や口調のおかしいところは僕が気づける限りやっているが、多すぎてやっていけなくなりそうなのも時間の問題だ。ここらでグレードを以前のものと同等まで戻しておくべきだ。


「・・・・・・嫌です。毎日待ってくれてる読者がいるので」


少し言葉に怒気がこもってくる。


「その読者のためにお前が小説書いてんのに、小説に体ぶっ壊されてどうする」


「それは……大丈夫です。おにーさんがいますから。どんなミスでもちゃんと見逃さないおにーさんが」


「僕にも能力の限度がある。いくら集中することが得意だからと言って、こんなにたくさんのミスを一つ一つ訂正してるんじゃ限界が来る」


少し言葉に怒気がこもってくる。


「ごめんなさい。じゃあワタシが……」


「それはもっとダメだッッ!」


思わず怒鳴ってしまう。

落ち着け、感情的になるな、見ろ、奏音の顔を。僕のことを完全に恐れてる。こんな関係はダメだ。家族だろ。もっとちゃんと、会話をして落としどころを見つけろ。

深呼吸してから僕は改めて口を開いた。


「・・・・・・ごめん。怒鳴って。お願いだ、頼むから夜の12時には絶対に寝てくれると約束してくれないか?」


「・・・・・・わかりました。ごめんなさい、心配をかけさせてしまって」


奏音はそう言って頭を下げる。


「いや、謝るのはこっちの方だ。ごめん、兄としてダメダメだな、僕は。もっと僕の中の理想の兄でありたかったのに……怒鳴っちゃうなんて……怖かっただろ……?」


「はい……」


僕の問いに奏音は今にも泣きだしそうな顔で僕を見る。

ああ、奏音にこんな顔させてしまうなんて、本当に僕はダメダメな兄だな・・・・・・。


「その、ごめんな」


僕は奏音の頭をそっと撫でようと手をあげたが、その時少し体をビクッとこわばらせたのを見てそっとその手を下した。


「――トイレ行ってくる」


そう言って僕は奏音の部屋を後にする。本当はトイレに行く気なんて起きていないのに。

その日、僕が奏音の部屋に戻ることはなかった。

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