第2話「自己紹介を始めましょうか」
なんとなくそわそわしながら準備をしていたら昼はあっという間にやってきて、昼飯を食べていよいよ対面の時間が迫っていた。
どんな人なんだろうか。
母となる人は。
姉となる人は。
妹となる人は。
これから、『家族』になっていく人たちは。
そんなことを思いながら親父とともに向かいの家のチャイムを鳴らす。
『ピンポーン♪』という聞きなれた軽快な音を立ててしばらくすると、家の中からどたばたと音がし、やがて家の扉が開かれる。
「えっと喜彦よしひこさん。それと、勝まさるくん、よね?」
扉から顔を出したのは、綺麗な黒髪をした、若々しい女性だった。しかし僕の姉や妹になるような歳には見えない。
親父のことを「喜彦さん」、と呼んだことからも、きっと、この人が僕の新しい母なのだろう。そう直感した。
「ささ、上がって。私含めみんな新しい家族に会うのを待ち遠しく思ってるわよ」
案内されるがまま、家に入り、リビングへと通される。
リビングにはすでに3人の少女が楽しそうに談笑をしていた。
いや、訂正しよう。3人そろってはいるが、楽しそうに話しているのは2人だけで、もう1人は本を読んでいた。
楽しそうに話している二人のうち、身長にそれほど差を感じはしないが、やや身長の高い方は、滑らかな黒髪で、もしかしたら腰まであるかもしれない。
案内してくれた女性に一番顔立ちが似ている気もする。
そしてもう片方は茶髪で、少年のようなボーイッシュなショートカット。
何より目につくのは健康的にこんがりと焼けた肌。もしかしたらで外する体育会系の部活なのかもしれない。
そして本を読んでいる女の子は、驚くほど肌が白く、腰ほどではないがそれなりに長い髪をしている。
しかし先程の女性とは打って変わり白い。
僕らの存在に気が付き、楽しそうに話をしていた二人はすっと黙る。
本を読んでいた少女は、急に静まった二人に違和感を覚えたのは顔をあげてきょろきょろあたりを見渡し僕らを見つけると、読んでいた本にそっとしおりを挟む。そして手を膝に置き背筋をピンと伸ばした。
その様子になんだか笑ってしまいそうになった。
「お母さん、新しい家族って、その人たち・・・・・・?」
恐る恐る、と言った様子で年長の雰囲気を漂わせた女の人が、僕と親父のほうを見ながら女性に確認をとる。
「ええ、そうよ。この人たちが私たちの新しい家族。それじゃあさっそく、自己紹介、しましょうか」
パチン、と両手を合わせて女性はそういうのだった。
☆ ☆ ☆ ☆
それぞれの親子が向かい合うようにリビングのテーブルに並んで椅子に座った。それぞれの前には先ほど女性が入れてきた熱いお茶が置いてある。
座って向かい合っている僕らはどこかむずむずするような、うまいこと言語化することができない、そんな雰囲気を漂わせ、沈黙がほんの少し続いた。
その沈黙を破ったのは、父である親父だった。
親父は椅子から立ち上がり自己紹介を始める。
「じゃあまずは俺から・・・・・・俺は鈴さんの夫、君たちの父になる、
そう言って親父は頭を下げる。
パチパチパチ、とぎこちなく、まばらながら拍手が起こる。
なんだか入学式の次の日の自己紹介の時間みたいだ、とそんなことを思った。
「じゃあ次は僕かな?」
僕は親父と同じように椅子から立ち上がる。
「・・・・・・僕は親父、今さっきの喜彦の息子、
僕は親父にならい頭を下げると、先ほどよりかは少しまとまりができたような、そんな拍手がリビングに響いた。
僕が座ったのを見ると、僕らを案内してくれた女性は立ち上がり僕に目を合わせるようにして話始める。
「それじゃ今度は私が・・・・・・わたしは
そいうと僕に対して頭を下げる。
「あ、その、こちらこそよろしくお願いします。というか、苗字は揃えないんですか?」
「それはな、勝。婚姻届けを今日提出しに行くからだ」
僕の質問に、親父が答える。
「お前は何もかも今日という日に回しすぎなんだよ少しは段取りをちゃんとして行動しろ大人だろ!?」
「・・・・・・すまん」
おいそこで割とガチ目に悪いみたいな反応するのかよ。
僕と親父の話が終わったタイミングを見計らい、3姉妹の中の、長女と思しき長い黒髪の女性が立ち上がる。
僕と親父に向けられたであろう顔は、どこか嫌悪感を帯びている、と感じた。
「そろそろいい?私の名前は
そうたんぱくな感じに言い放つとさっと椅子に座る。
「こら、もう少し柔らかくできないの?」
その様子を鈴さんは優しく咎める。
「・・・・・・ごめんなさい。でも仕方ないでしょう?」
「仕方ないことは分かるわ。・・・・・・それと、謝る相手が違うでしょう?」
そう言われると軽音は僕らのほうに向き直り、「ごめんなさい」と頭を下げた。
それから、
「19歳で大学1年生。改めてよろしく」
と付け加えた。
「じゃあじゃあ、次はアタシ!!」
元気いっぱいの様子で立ち上がったのは、先ほど軽音と楽しそうに話をしていたボーイッシュなショートカットで茶髪の少女だった。
「アタシの名前は
大きく身振り手振りをしながら自己紹介を終える。
その様子は16歳なんかには見えず、なんならその小さな身長も相まって、天真爛漫な小学生、といった印象を与えた。かわいい。
「あっ、おにいちゃん!!おとーさん!!これからよろしくね!!」
思い出したかのように付け加えて僕と親父に対して両手を差し出す。
僕は差し出された右手を、親父は左手をとり、握手をした。
「「こちらこそよろしく」」
親父と僕の声が重なった。
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