家族になりますっ!

桜城カズマ

第1話「父さん、お前に話があるんだ」

高校2年生の夏休み直前が迫ってきており、なんとなくテンションが上がってきていた、ある日曜の朝。

それはこれ以上ないほどの晴天ですっきりとした気分で朝食を食べ終わり、コーヒーをすすっていると、親父がどこか言いづらそうに口を開いた。


「・・・・・・なあ、まさる。少し話があるんだが、いいか?」

「ん?なに?」


普段とはどこか違う雰囲気を漂わせている親父に、僕はコーヒーを置き、少し構える。


「えっとな、父さん、結婚することになった。それと、転勤も」


僕は言っていることがすぐには理解できなかった


「・・・・・・もっかい言って?」

「も、もっかい・・・・・・?そ、そのな?父さん、結婚することになって、転勤も決まった」


親父の言ったことを頭の中で何度も反芻する。

1分程経っただろうか。


「・・・・・・転勤の話はまだいい。これまで何度もあったことだし。・・・・・・でもさ、結婚ってなんだよ唐突すぎるだろ!?付き合ってるなんて話も聞いてないぞ!!?」


そう怒鳴ると、親父はびくっとし顔を恥ずかしそうにポリポリと掻く。


「そ、それは・・・・・・息子に彼女の話をするとか恥ずかしいだろう・・・・・・?」

「そんな乙女みたいな反応は求めてないしそういう態度はかわいい女の子がするのがいいんだぞ!!」


親父からしたら理不尽に怒鳴られているにもかかわらず息子の僕に肩をびくっと震わせる。


「い、いや、本当に悪いと思ってる・・・・・・許してはくれないか?」

「・・・・・・まあ、父さんはシングルファザーだし、男所帯で華がないと思ってたし」


そういって結婚について肯定すると、嬉しそうにパアッ顔を明るくする。


「そうか、そうか・・・・・・嬉しいか・・・・・・フフッ」


だからそんな乙女みたいな反応求めてないって。


「で、転勤もするんだったよな?どこ?」


と聞くと親父は少し間をおいて、


「TOKYO」


と、ネイティブな口調で言った。


「わあああああ!!!ってなるか!とおっ!しかも一人増えるんだろ?親父家賃とか払えるの?この家のローンだってまだ残ってるのに・・・・・・」

「ああ、違うぞ勝。増えるのは一人じゃぁない」

「は?」


この男は何を言っているのだろうか。

増えるのは一人じゃない?

それはつまりあれだろうか。結婚相手はシングルマザーということだろうか。

そんなふうに思考を巡らせていると、「実はそのお相手さんは――」と親父が口を開いた。僕はその言葉に耳を傾ける。


「――お相手さんは、シングルマザーなんだ。3姉妹の」

「ちょっと待ってくれ3姉妹?」

「ああ、お前より年上が一人、下が二人。つまり姉一人妹二人ができるってことだ」

「いろいろと急すぎるわ!?」

「ああ、本当に急で済まないと思っている。でもなかなか言い出せずにいてな・・・・・・済まなかった。それで、転勤の話に入ってもいいか?」

「あ、ああ、とりあえず伝えること全部伝えてくれ。聞きたいことはそのあとで聞くから」


僕がそういうと「わかった。じゃあ話すぞ」と話し始める。


「まずさっきいった3姉妹と母、俺、勝の6人家族になるんだ。俺たちは。でも俺は転勤が決まってる。全員で引っ越しをするのは費用が掛かりすぎる。そこでだ。お前にはこっちに残り娘さんたちと一緒に暮らしてほしい」


「・・・・・・」

「ちょ、ちょっと黙らないでくれ!?」

「ごめん、ちょっと現実離れしててさ・・・・・・というかこっちに残るんだったら僕一人暮らしでもいいんじゃないか?」

「『家族』だぞ。それはダメだ」


いつもは僕の提案に対して食い下がることなんてほとんどない親父が食い下がった。

つまりは、それほど親父にとって大事ということなのだろう。それだけははっきりと伝わってきた。


「正直に言わせてくれ。話が唐突すぎて何一つ理解ができてない。姉がどうとか妹がどうとか、一緒に暮らせとか言われてもいまいちピンと来てない」

「ああ、当然のことだ。ピンとくる奴のほうがおかしいんだ」

「だよな・・・・・・で、その家族になる人たちとはいつ顔を合わせるんだ?」


さすがに、転勤に子供たちがついていかないからといって一緒に住む前に一度も顔を合わせない、なんて事はないだろう。


「今日だ」

「は?」


これで本日何度目であろうか。こんなに「は?」といったのはこれまでの人生にないだろう。


「だから、今日だ」

「・・・・・・そういうことはもっと早く言えや!?」

「悪かった」

「まあいいや、そんなことにどうこう言ってても仕方ないしな。いつ頃ここを出てどこに行くんだ?」

「1時ごろに向かいの家だ。昼飯は食べてから行く」


僕は親父の言葉に軽く「おっけー」と返してから「ん?」と首をかしげる。


「向かいの家?」

「そうだ。向かいの家が新しい母さんたちが住んでいる家だ」


向かいの家というと、今僕と親父が住んでいる家の倍くらいの広さがありそうな家だ。


「もしかしてだけど、お相手さんってすごい金持ち?親父働く必要って・・・・・・?」

「そのもしかして当たってるけど俺が働く必要はあるからな!?老後のためとか母さんのためとかいろいろとお金が必要だろ!!」


僕は近所迷惑と言われても、それこそ向かいの家に住んでいるという新しい家族たちに聞かれてもおかしくないほどの大声で怒鳴った。


だが、なぜだか夏休み直前で上がっていたテンションが、さらに上がったような、そんな感じがした。


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