第27話 国王アズルフ

 俺たちはやっとテーラで体を休めていた。

 あの後ロイドに捕まった大臣はすぐに自分の企みを話したらしい。 クラリスっていう男の人にそそのかされて、王様と王子を殺して自分が王様になろうとしたんだって。

 ニクセリーヌの時もそうだったけどどうしてみんな王様になりたがるんだろう?

 あとは、なんだっけ、クラリス以外にも協力してた人がいるみたいだけど、忘れちゃった。

 それと一昨日ぐらいだったかなぁ、アレンの国王そくいしきっていうのがあったんだ。 とっても長くてずーっといろんな人がお話ししてるばっかりでちっとも面白くなかったや。 着なきゃいけない服も動きづらかったし。

 アレンのお父さんはクラリスが化けてやっていたいろんな悪いことの責任を取って王様をやめるんだって。 アレンのお父さんが悪いわけじゃないのに変だよなぁ。

 なんだかロイドが難しい顔をして俺たちに説明してたっけ。

 そういえば、アレンは国王になってからアズルフって名前に変わったんだ。 テーラのしきたりっていうので王様になる時に名前が変わるんだって、よくわかんないけど面倒臭いよなぁ~っ。 今日だけでも何回も間違っちゃったよ。

 アレンが一日一回は俺たちに会いに来てくれるけどやっぱり忙しいみたいだし、今日はユイナがアレンと話があるって言っていないから暇なんだよなぁ。

 まぁそんなこと考えても仕方ないからガクのところにいこーっと。

 と、俺は扉を開けた。


「わ、ノックぐらいしてくれよ。驚くだろう」

 そうぼやいたガクに俺は声をかけた。

「まだよくなんないのー? 早く遊べるようになろーぜー?」

 小さなため息をついた彼がまだもう少しかかるよといい少し微笑んで見せた。

「そっかー。ユイナがいないから暇なんだよなー」

 俺は何の気なしに頭の後ろで腕を組んだ。

「ティリスは? まだよくならないのか?」

「もうそろそろ大丈夫だってー。最近はよくロイドさんとお話ししてる!」

 そう言うとそっか、よかったと彼は静かに頷いた。

「ねえねえ、ガクの傷治す力ってさ、自分には使えないの?」

「使えないんだ。自分で自分の傷を治せたら楽なのにね」

 冗談めかして笑った彼の笑顔が、少し陰って見えた。

「そうなんだ。でもガクが怪我したり疲れたりする時とかも使えないんでしょ? 結構不便だなー」

 そういった俺の言葉になぜか少し驚いたような顔をする彼を、俺は訝しげに覗き込んだ。

 慌てていやいや、ごめん、なんでもないよと取り繕う彼に俺は変なのー、と一言返し再び扉をくぐった。

 扉を閉めるその瞬間、彼の驚いた……という声が聞こえた。




 それから七日ほど、俺たちはやっと傷が癒えた四人でテーラの街を出発しようとしていた。

 ユイナが次の目的地を決めたって言ってたからきっとなにかいいことがあったんだろうな。 次行くところは暑いかな、寒いかな。寒くないところがいいなぁ、俺寒いのは苦手。

「チッタ、何ぼーっとしてるの?」

 声をかけたユイナに俺はなんでもないー! と返した。

「きっといつもみたいにご飯のこと考えてたのよ」

 不思議そうな顔をするユイナにティリスが言った。

「チッタは食いしん坊だもんなー」

「だって腹減るだろー?」

 静かなお城の城門に笑いが漏れた。 と、その時誰かが走ってくるのが見えた。 後ろにもう一人、慌てて追いかけてくる人もいた。 アズルフとロイドだ。

「アズルフ! どーしたのー?」

 必死そうな顔を向け、こちらにたどり着いたアズルフが言った。

「よかった! 間に合った! お別れがいいたくて……!」

 息切れする彼にロイドが心配そうに目をやった。

「みなさん本当にありがとうございました……。僕、何もできなくて……」

「そんなことないだろ? アレンが一番頑張ったよ!」

 そういった俺にロイドがアズルフ王です、となおした。

「あ!」

 またやっちゃった、と思って彼のことを見ると笑顔で大丈夫ですよ、と返された。

「ありがとうございますチッタさん!」

 元気よく言った彼に俺はへへへと笑いを返した。

「次はどちらへ行かれるんですか?」

 そう問いたロイドに、ユイナが答える。

「竜の里というところに行きます」

 竜の里ですか……とつぶやいたロイドが道中気をつけてくださいねと付け加え、ありがとうございますと言葉がかぶったティリスとガクに俺たちは笑った。

「それじゃあ、そろそろ行きますよね。ごめんなさい、引き止めてしまって」

 そういったアズルフの目に涙がたまっているのが見えた。

「大丈夫だぜ、また絶対会えるって!」

 そういって笑った俺にアズルフもそうですよね、と笑って答えた。

 それぞれ別れの言葉を言って歩き出してしばらくした頃、後ろからアズルフの叫ぶ声が聞こえた。

「僕、僕絶対立派な王になりますから! この国をちゃんと守っていけるようになりますから!」

 その決意のような言葉に、俺たちは顔を見合わせて微笑んだ。


 振り返った俺は彼にわかるように大きく拳を天に突き上げた。

 遠くから見ると一層小さく見える彼も同じように拳を突き上げる。

 空は真っ青。雲が沢山もくもくしている中で、俺は太陽の光が眩しくて目を背けた。 遅れんなよーというガクの声に再び前を向いて歩き出した自分の頬に、俺は何か熱いものを感じた。

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