第4話 一振りの騎士と二人の魔剣
ユニガン裏の森をミグランス騎士団とアナベルは走っていた。
城に裏の森に凶暴な魔物が現れて手が付けられないという情報が入ったからだ。
アルドはたまたまその場に居合わせたので、協力することにしたのだ。
しかしその途中で思わぬものに遭遇した。
フードを被って過ごすフード教のオリジナルの集団ワイルドフードの拠点を見つけてしまったのだ。
ミグランス王がワイルドフードのリーダーと対話をすると彼らがとても平和的で悪意無く森を使用しているのが分かり、今回の魔物退治の拠点として借り受けることになった。
ワイルドフードのほかのメンバーも温厚かつ協力的で、宿屋の白フードの作るスープをアナベルは大変気に入っていたようだった。
その一時の休息をしている最中、魔物が空を飛び回り複数体いることと、その魔物が接近していることを報告しに来た。
報告を受けた面々はそれぞれ、アルドとラディアス、ディアドラとソイラ、そして拠点の守り役にアナベルが配置された。
アナベル個人としては最前線に着きたかったが、ワイルドフードという急遽増えた保護すべき人たちを守るのが最優先だった。
しかし、アナベルがアルドたちを見送ってからそんな時間もたたない内にそれから凶暴化したキマイラが拠点を襲撃してきた。
「民間人の方は下がって!」
アナベルはキマイラの前に立ちふさがった。
アナベルは思わぬ苦戦をしていた。
敵の再生力が高く中々仕留めきれないでいた。
しかしそんな折、突如アナベルの後ろから人影が飛び出した。
「その白フードは宿屋の!?いけないわ、民間人の方は下がって…。」
「案ずることはありません。剣には少々覚えがあります。」
そういうと白いフードの女性は美しい剣を二振り構えた。
「…分かったわ。共に戦いましょう。」
そうしてアナベルと白フードの共闘が始まった。
しかしキマイラの再生力は高く、止めを刺せずにいた。
「こうなったら祈りの聖剣で…。あなたは少し下がっててね。」
アナベルは剣気を高めると、キマイラの頭を斬った。
しかし、ほっとしたのも束の間キマイラは起き上がり、斬られた頭も再生してしまった。
「どうやら尻尾の蛇も同時に潰さなきゃいけないようね。けど祈りの聖剣のような大技はそう連続では撃てないわ…。」
「ならば、大技の数を増やせばいいのです。」
白フードの女性はそういうと右手の剣を顔の前に構えた。
すると紫色の剣気が集まり、まるで祈りの聖剣のように高くそびえた。
「あなたのそれはいったい…。」
「今は目の前の敵を倒すことが優先です。」
アナベルは大変不思議がっていたが自体は一刻を争った。
「息を合わせて同時に斬りましょう。」
「了解よ。…不思議ね、あなたとは初対面なのになぜかぴったり息を合わせられるような気がするわ。」
「…私もです。」
そして気合の掛け声とともに二振りの巨大な剣気は振り下ろされ、キマイラは消滅した。
「ねえ、あなた。顔を見せてはもらえないかしら。」
「…このフードは顔を隠すためのものです。」
「そうね、ごめんなさい。名前は…それも無粋ね。あなたが誰かを助けるために動いたこと、それだけであなたの素晴らしい人間性はうかがえるものね。」
白フードは少し肩を震わせているように見えた。
「それじゃ、私は騎士団の仲間と合流させてもらうわね。」
アナベルが立ち去ろうとした時、白フードは呼び止めた。
「あ、あの!」
「ん?なにかしら?」
「実は私には姉がいて、その、あなたのようにとても強く美しい女性で私はその人ためにその…。」
「ふふふ、あなたにそう言って貰えると嬉しいわね。私にも妹がいてね。その子とは少し離れていた時期があったんだけど、今ではすっかり仲良くしているの。全然素直じゃないんだけどそこが可愛くってね。…それにしてもあなたのお姉さんが羨ましいわ、あなたのような素敵な妹がいるなんてね。」
「私も…あなたの妹さんが羨ましいです。」
「そうだ言い忘れてたけど、助けてくれてありがとう。あなたがいなければ私はしんでいたかもしれないわ。」
「…!いえ…そんな…当然のこと…をしたまでです。」
「ふふ、それじゃあね。」
アナベルはほかの仲間と合流すると、とりあえずディアドラの頭を撫でた。
誰もいなくなった森で白フードはフードを脱いだ。
フードの下は金と紫の美しい髪をしたショートヘアの女性だった。
金と紫の髪をした女性は涙を拭うと再びフードを被りワイルドフードの仲間と合流したのだった。
「さて、では問いましょう。あなたが落としたのはこの金髪の騎士ですか、それともこの紫の髪をした騎士ですか?お答えください……魔剣フェアヴァイレ。」
―我は剣であれはその担い手だ。
「そういうのはもういいですよ。あなたが無理やりここへ彼女を連れてきたのはこれがねらいだったのでしょう?」
―…我が落としたのはそのどちらでもないし、どちらでもある。あれの本質は剣士などではない。あれは姉への思いが強すぎて、時には過ちを犯す、そんなどこにでもいる宿屋の娘でもやってればいい愚かでそして、とても愛しい女だ。
…光が集まっていく
「さて次です。あなたが落としたのはこの金髪の騎士ですか、それともこの紫の髪の騎士ですか?お答えください……聖剣さん。」
―私はその選択肢の二つとも知らないわ。私が知ってるのは自分勝手で独りよがりで何にでも向き合うことから逃げてばっかりの騎士道からほど遠い人よ。けど誰かのために動き出したら、どこまでだって、なんだってやってみせる。そんな弱くてずるくて、そして優しいお姉さんよ。
…光がどんどん集まりどんどん強くなっていく
そして大きく光が広がるとそこには女性が現れていた。
私が最後に剣の泉の精霊の声を聴いてから、すぐのことだった。
気が付くと光に包まれていて、目を開けるとそこには驚いた表情をした剣の泉の精霊の姿があった。
「これはいったどうなって。体も全然痛くもなんともないし。」
「…えっと、ああそれはですね。私の力です。ほら言ったでしょ?あなたが剣と魂を分かち合って、あなたの魂が剣としての格を得たって。それは逆に言えば、剣も人としての格を得ていたということなのですよ。ですからフェアヴァイレさんとそちらの聖剣さんがうっかりあなたを泉落としてしまったので私はいつも通りの務めをしたまでなんですよ。」
「ってことはフェアヴァイレと聖剣は私を取り戻そうとしてくれたってことですか?」
「そうなりますね。」
「ありがとう、二人とも…。」
―…。
―…ど、どういたしまして。
どうにもさっきからみんなの様子がおかしい。
何か隠し事でもしているのか?
色々聞いてみよう。
「そういえば、あの体中の痛みとかはどこいったんですか?」
「…私は完璧ではないということ、無の世界からあなたを顕現するのが非常に困難だということを理解してちょっとこれを見てみてください…。」
そういうと剣の泉の精霊は姿見のように光を反射する大きな剣をどこからともなく出した。
「いやあああああっ!」
そこには私が無に消えた時と同じ格好で映っていたが、しかしそこには決定的に欠けていた者があった。
髪がない。
短くなってるとかそんなレベルじゃなく完全につるっつるである。
「ななななんでこんな…。」
私は頭をぺたぺた触って確認した。
「それはおそらくあなたを顕現する時にあなた以外の要素、つまり呪いですがあれが無の世界に残されたのかと思います。」
「けどなんで髪ぃ…。」
「フェアヴァイレの祈りが果たされた時、あなたの髪は紫になったのですよね。つまり祈りや呪いのエネルギーというものは髪に宿っていたと考えられます。安心してください。武器であるあなたは私が直してみせます!ささこちらへ…。」
私は髪の喪失による動揺で何も警戒できていなかった。
べろーん
剣の泉の精霊は私の頭をいきなり舐めたのである。
「ひゃああああっ!」
悲鳴を上げたのも束の間、頭を触っていた手に髪の毛の感触がみるみる蘇ってきた。
「長さはどれくらいにしましょうか?」
剣の泉の精霊が訊いてきた。
私は今までと同じにしようかと思ったが、
「いえ、これくらいの短めでいいです。ありがとうございますね。」
私は笑顔で剣の泉の精霊に告げた。
「元気になってくれたようで何よりです。」
私はそれから剣の泉の精霊と話し合いアナベル姉さんやあちらのディアドラがいる時層に出して貰うことにした。
さすがに子供を殺めた手でアンたちに会うのは気が引けたのだ。
剣の泉の精霊からの助言で泉を出た先にいるワイルドフードの集団に仲間に入れた貰うといいと教えてくれた。
「さてと、私たちはもう出ますね。精霊様お世話になりました。」
「いえいえ、私はいつでも武器たちの味方ですよ。」
―そういえばわたしの名前決めてよ。
「そうね。フェアヴァイレも随分見た目変わっちゃったし名前変えましょうか。」
―好きにしろ。
―お姉さんも名前が必要じゃない?
「まあそうなのだけど。う~ん、フェアヴァイレはギベット、聖剣はフルッフっていうのはどうかしら?」
―フルッフね。どういう意味か分からないけどありがとうね。
―…。ギベットか。分かった今度からそう呼ばれたら答えよう
―ねえ、お姉さんは?
「私は決まってます。私の名前はネーサ。因果の起点に立ち新たな始まりを告げる者です。」
剣はただ其処に在りて @jaywalk
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