第15話 食材の量
「ふむぅ……必要な食材、栄養というのは案外簡単に想像しうるが、必要な量というのがどうにもピンとこないな……多くなく少なくもない。ちょうど良い量、とは? どうやって量を測れば良い? 私に丁度良い量とはなんとする?」
ジェラールは再び思考の迷宮に迷い込んでいた。
必要な食材。これは簡単だった。
以前から気にかけていた、バランスの取れた食事。パンにサラダにお肉にスープ。色んな食材を満遍なく、である。
偏らず、徹底的にバランスを重視して。
しかし、何度も言うが量が問題だ。
ローレライに聞いてみてもいいが、ジェラールと彼女ではぴったりの量がそもそも違うのだから、ローレライの量をそのまま取り入れる訳にはいかない。少なからずアレンジしないと。
それでも、何かしらのヒントぐらいは得られるかもしれないが……。
では、スープで言えばどれくらいが適量だ?
単純にスープの重さとか?
具材によってばらつきが生じるのではないか? それはカロリー、栄養面でも同じ事が言えるはすだ……。
食器に取り分ける際にいちいち重さを測るのも面倒である。
いつも同じ重さ、同じ量の物があれば判りやすいのかもしれない。
「あ……」
ふと、思い至ったジェラールは急ぎキッチンへと足を運んだ。
「これだ……これが良い」
ジェラールがキッチンにて両手で掴み上げた物、それはーー
《ふんわり食パン5枚切り》
パン工場で製造されている、いつも同じ重さの同じ量の食品だ。
これなら、食べる量が分かり易い。一枚か、あるいは二枚か。はたまた半分か。
まぁ、正確に言えば若干の重さのばらつきがあるだろうが、そこまで数字として出てくるものでもあるまい。
この日を境にジェラールの朝食は、5枚切りの食パン一枚(何も塗らず焼いただけ)とブラックコーヒーとしてみる事にした。
これで毎朝、決まった量の食事を摂ることができる。
食パンの袋をよく観察してみると、一枚203kcalと表記されている。ブラックコーヒーと合わせて……朝食は約220kcalぐらいだろうか?
改めてそう認識してみると、かなり少ないカロリーである。
こんな量で大丈夫なのだろうか? と、やはり心配にはなったが娘の言葉がすぐさま脳裏に浮かんだ。
『朝はそれほど動きませんし、朝食の後はすぐに昼食ですから少し足りなくても全然平気ーー』
そうだ。ローレライがそう言っていたじゃないか。
全然平気だって、言っていたじゃないか。
それによく考えろ。
これから先、何も食べられなくなる訳じゃない。
ほんの数時間が経てば、昼食だ。
それでも朝食の後、どうしてもお腹が減って仕方がないのなら食パンをもう一枚追加で食べれば済む話だ。
今の世の中、どこも食べ物で溢れかえっている。
食べたい時にいつだって食べられる。
だから安心していい。
漠然とした不安感から食事をするな。
《まだ、お腹がいっぱいじゃない》
《お腹が減ったらどうしよう……》
《空腹は嫌だ……》
そんな考えを切り捨てるんだ。
いつだって、どこだって好きな物を食べられる。
お腹が空くのは当たり前のことであって、異常事態じゃない。
常にお腹いっぱい食べようとするな!
常に丁度よく、ぴったりだ!
大丈夫、安心しろ! たとえ数日何も食べなくても、お前は死なない!
それなのにお前は今、食パンを食べたばかりじゃないか!
十分だ。大丈夫、安心しろ!
それだけ食べればお前は死なない。
それだけ食べればお腹は当分の間、空かない。
食事に対する考え方を変えるんだ!
お腹いっぱい食べるんじゃなく。
丁度良い量を食べる。
必要な物を必要な分だけ食べる。
ぴったりな食事法だ。
ローレライを見習うんだ。
自分がなりたい自分になる為、食に対する意識を変えるんだ!
生き方を、意識を改革するんだ!
ジェラール!
今のお前にならそれが出来る筈だ!
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