第25話 最後の言葉
閻魔=
寡黙だった少年ですが、あなたさまのお慈悲ある言葉を伝えますと、突然饒舌になりました。苦しかった胸の内を滔々と語り始めました。父親には激しい憎悪を、母親に対しては蔑みの念が強く出ていました。更には、教師・友人と次々に事例を上げて、それぞれを罵倒しました。
そして最後に、あの少女のことになりますと、はらはらと涙を流し恋慕の情を語りだしました。しかし突如、阿修羅の表情を見せ、「裏切り者!」と罵りました。
「えっと、ぼくは昭和61年生まれで、父は森屋孝一と言います。母は章子です。住所は東京都、東京都、…都、どこだっけ? あれ、あれ……。
とにかく、幼稚園は港区第三幼稚園でした。小学校は港区立第一小学校で、中学は私立の和泉総合学園で、高校は、高校は……どこだったっけ? そうだよ、エスカレート式なんだから同じ和泉総合……だったっけ。すみません、すぐに退学しちゃったものだから」
閻魔=
しばらく声が途絶えまして、混乱している記憶を必死に整理しているようでございました。この折りに頭をかすめはしたのですが、大丈夫だろうと思ってしまいました。
「すみません。えっと、ボクの名前は、森屋、、、森……だれだっけ? あれ? あれれ? ボクって、だれだっけ。いや、アタシ?」
閻魔=
恐れていたことが起きてしまいました。すぐに気づいてやれば良かったのですが、あまりの突然のことに。己の罪の重さに耐えきれずに、とうとう壊れてしまいました。
神=
そうか、そうじゃのお。こわれてしまいおったか……。現世での罪の償いが終わらぬのでは……、やはりのお。
閻魔=
そしてこれが、少年の最後の言葉でした。
「ぼくは、悪くない! ……ぼくだっけ? いやあたいは、善い子なんだ!」
狂い人の世界 ~少年A~ としひろ @toshi-reiwa
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