第13話

閻魔=

俗世界での汚れをこの天界で落とし切らねば、転生した折に、また辛い日々を送らねばなりませぬ。それは皆、重々に承知しておる筈。それに天界において己を偽ることの愚かさを知らぬ者は、誰一人としておりませぬ。

お願いがございます。

これより後、子どもらに対する大人の逆襲が起きないかと、危惧しております。

そうなる前に、どうぞご慈悲を持ちまして、救済の道をお示しいただければと思います。

神 =

うむ、しかしのう。わしの示す道を、曲解する者が出てくるのじゃ。意図してのことか、それとも無知ゆえのことか、のお。

閻魔=

まことに左様で。

実は今、人間界はとんでもないことになっております。わたくし実のところ、亡者どもの整理に忙殺されております。


 食堂へは、二階に上がらなければならないようです。本来なら部外者のわたしなどは同行することなどはできないのですが、不思議な縁がありまして、ここの施設長がわたしの知り合いだったのです。知り合いと言っても近しい方ではなく、知り合いの知り合いといった方でした。最近レポートに困っている事を知っていたA氏が、顔見知りの施設長さんが冗談交じりに漏らされたことを、わたしに教えてくれたというわけです。そこで半信半疑ながらも、その話に乗ってみようかと……。


 高齢のお二人です、てっきりエレベーターかと思いきや、いやあ、お元気です。

何のためらいもなく階段を使われました。その健脚ぶりには驚かされます。わたしの方が息が上がってしまった始末で。ほんとに情けないことです。

お二人は70歳を優に超えられているとのことですが、昭和の時代を過ごされてきた方はお元気そのものです。わたしも一応は昭和の生まれですが、ほんの数年のことですので。


 おっと、もうお席に着かれています。4人テーブルと2人テーブルが、それぞれ5卓ずつありいちどきに30人の方が食事できるようです。卓同士の間隔もゆったりとしていて、介護職員さんの手伝いがし易くなっています。ここは部屋と言うよりはホールと呼んだ方がいいかと思えます。

 エレベーターと階段からは廊下につながり、そこに入るには仕切り板が設置してあります。入居者といえども勝手に出入りができなくなっています。健常者ならば簡単に外せる留め金がかかっていますが、認知症を患っておられる方には、ちと無理なことかもしれません。



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