第6話 審問の部屋


神 =

なるほど。お前は、この少年は狂っていると、言うのだね?

閻魔=

実のところ、困っております。今の時代においては、狂人と断じて良いと思うのでございますが。ただこの少年の場合、そう断じて良いものかどうか、判断に苦しんでおります。

神 =

お前も、かね。わしも今、迷っているのだ。地獄行きか、それとも天国への扉を開けてやるべきか―― とな。一つ、前例のないことだが、少年の言葉に耳を傾けてみることにしようかのお。


 ここは審判の部屋に向かう一つ前の、審問の部屋とでも言えばよろしいのでしょうか。すりガラスの窓ですのではっきりとした光景は見えませんが、何とかして、と。ありがたい、少し開きました。これならなんとか見えそうです。


 じめじめとした石畳の床にひざを突き、両手を太ももにおいて首を項垂れている少年が見えます。白い長袖のカッターシャツに黒い長ズボンをはいています。そのズボンの所々に鉤裂きの裂け目が二ヶ所ほど見えています。そこからのぞき見える小さな切り傷からは少しの血が滲み出ていますね。その匂いにひかれてなのか、1センチほどの足の長い虫がザワザワと集まり始めています。


おお、気持ち悪い! 

真っ赤な少年の血が床に滴り落ちるのを待っているのか、少年を取り囲むようにしていますよ。少年はそのことには気付いていないようですね。

 なんと言いますか、うつろな表情、そしてまたうつろな目ですねえ。どういう心境なのでしょうか、諦観? 自暴自棄? 絶望? 銷魂。うーん、どういう言葉を選べばご理解いただけるでしょうか。平たく言えば抜け殻なんですね。もう30年以上レポーターとしてやってきましたが、この少年ばかりは……。なるほど、閻魔大王が口ごもられたことも理解できます。 


 赤黒い石壁のそこかしこからは、赤みがかったどす黒い液体が染み出しています。

とろみの入ったその液体は、身動き一つしない少年の心の移ろいを推し量るように、時に滴り時に留まりながら右に左にとさながら生命体のように動き回っています。

 突如、薄ぐらい部屋の上部から一本の光の筋が降りて、少年を浮かび上がらせました。

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