第5話 無精ひげ

 肩を落として語られる閻魔大王さまの姿は、意外なものです。てっきり、当然のことと叱り飛ばされるものと思っておりましたから。


神 =

そうよの、あの時は驚いた。わしに問い掛けることもなくじゃった。傲慢そのものじゃ。まあその後、彼の国にもお灸を据えはしたが。

閻魔=

お灸と申されましても、今では唯一の超大国として、君臨しておるではございませんか。その傍若無人たるや……。実に嘆かわしいことで。


 神さまにはご自慢のおひげのようにも見えますが-どうやらあの水戸黄門を意識されているご様子で、時折その髭を下に流すように触られます。しかしどうひいき目に見ても、単なる無精ひげとしか思えません。あの閻魔大王さまにもそう映っているらしく、下を向いて苦笑いをされていますよ。


神 =

まあ、そう責めてくれるな。

あまり人間世界に干渉することも、良くないことじゃでの。といって、放っとき過ぎたかもしれんがの。これから先、人間どもが今少しの反省をするならばと、人間世界で言う異常気象を起こさせておるのじゃが。気付く者もおれば、目をそらす輩もおるし、のお。困ったものじゃて。

で、どうかね? 先ほどの、少年のことは。


閻魔=

申し訳ございません、話が逸れてしまいました。

少年の住む日本という国は、先の敗戦後に価値観が一変したのでございます。道徳観も、百八十度の大転換でございます。お分かりいただけますでしょうか?


 慌てて顔を上げられましたが、わたしにはなにかしら、とってつけたような物言いに聞こえました。が、神さまは「うんうん」と、満足げに頷かれています。失礼ながら、他の皆さんにその毎日をかしこづかれているせいでしょうか、それとも下々の者たちゆえだからとお思いのせいでしょうか、少々とげが感じられる言葉にも気付かれないようでして。

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