三冊目「異世界の帝王」
作品データは以下の通り。
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著者:H・ビーム・バイパー
初出:1965年
あらすじ(Side 1):
ある日犯人逮捕の為に空家に踏み込んだとたん、異次元におっこちてしまった警官モリスン。そこで彼はいきなり小規模紛争に巻き込まれ、何がなんだか判らないながらも周りの農民を指揮して奮戦。しかしこの混乱のさなか、味方に誤射されてあえなく負傷。
しかし災い転じて福となすとはこのこと、誤射した大公国の姫君に助けられ、ちゃっかり大公国の客人に納まることに。そしてモリスンは火薬の製造を一手に握る宗教勢力が権力を振るい、その一団と対抗する大公国が苦境に陥っている事を知る。
苦境にある大公国に手を貸すことになる警官モリスンは、火薬生産を開始してパワーバランスをひっくり返し、宗教集団に対する戦争を開始して……
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これまた、一時期は海辺の砂粒ほどにも珍しくなかった「異世界転移」ネタの物語です。
今の日本のラノベも異世界転生・異世界転移が流行(やや流行は過ぎましたかね)ですが、昔も同じような流行があったんですよ。剣と魔法の異世界に吹っ飛ばされた男性が無双して現地の美女と良い仲になって功成り名を遂げる……というのは、もう目をつぶって本棚に手を突っ込んだら確実にそこにあるレベルでよくあるストーリー構成でした。
このバイパーの作品も、まったく珍しくないプロットです。
主人公がチートで無双するというのもやはり基本だったんですが、そこらも抜かりなく抑えています。
なにしろこの主人公のモリスン君ときたら、警官という職業にあったばかりか、朝鮮戦争(!)に出かけた実戦経験者。バリバリ実戦派であるばかりか、中退したとはいえ大学の神学科で舌先の鍛錬も受けていて、おまけに戦史にも通じているという素晴らしさです。
「選ばれた者」であるなどの特別の才能を持っているわけではないのですが、一般市民として望みうる範囲では無敵になりうるキャラではあるでしょう。
この作品は、そんな第二次大戦レベルの戦史知識を持ったモリスン君が、中世レベルの世界で貴族となり(そしてもちろん美人の姫君が隣にいる)、戦に勝つまでのお話……というのは、実はこの話の一側面に過ぎません。
はい、作品データのあらすじに「Side1」と書いてありますね?
実はこの作品、2軸展開するんですよね。
一つは、すでにご紹介した主人公・モリスン視点の『異世界転移して現代知識で無双します』展開。
もう一つは、『異世界転移を管理してる、異世界なんてものがある事を原住民に気づかせないように暗躍してる「平行宇宙警察」の立場から見たすったもんだ』です。
では、あらすじその2をご紹介しましょう。
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あらすじ(Side 2):
定年退官を間近に控えたある日の事。「平行時間警察」総監トルタ・カルフは、「どこかの間抜け、もとい誰かが時空移動装置で別の時間線世界に転落してしまった」と報告を受けた。
転落した未開人がもし、「別の時間線世界」の秘密に気がついたら……そう考えると胃の痛い総監は、部下に命じて転落した男を見つけだし、「処理」しようかとひとしきり悩む羽目に。
しかし、トルタ・カルフの苦悩なんぞ知ったこっちゃ無いのが、周りの連中である。
「せっかく転落してくれたんだから、これは研究にもってこい。たった一人の人間が及ぼせる文化的影響がどんなものなのか観察させろ」だの、「いやいや、奴が秘密に気がつく前に暗殺しようか」だの、まあいろいろな意見があるわけです。
そんなのを適度にあしらいつつ、なんとか平穏無事に引退したい総監。
総監になるのは決まっているがデスクに縛り付けられるのは真っ平ごめん、なんとか前線勤務をキープしたいのでモリスンの監視を口実に、モリスンの落ちた時間線にせっこらと出張する副総監。
この物語は、この二人の思惑やらなんやらが絡みつつ進行する、モリスン君観察日記です。
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……異次元に落っこちたモリスンを主体にしたミクロ視点と、平行宇宙警察からのマクロ視点。モリスンは目の前の現実を懸命に戦い抜き、平行宇宙警察はそんなモリスンを監視しつつ、自分達の目の前の現実に対応していく。
二つの物語が絡み合って進行するわけですね。
ストーリー的にはありきたりですが、二つの現実の解離と融合が面白いかと。
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