二冊目「闇よ落ちるなかれ」

作品データは以下の通り。

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著者:L・スプレイグ・ディ・キャンプ

初出:1939年

あらすじ:

ローマを旅行中、落雷のエネルギーによって「時間の幹を滑り落ちた」アメリカ人学者マーチン。たどり着いた先はローマ帝国末期のローマ。

もともと堪能なラテン語とよく切れる頭を駆使して、まず考えるのは生き延びること。「こうなると判っていれば百科事典を持ってきたのに」と思いつつ、がんばるマルティヌス君はまず蒸留酒つくりに手をつけてちょいとばかり財産を作る。

そしてこの時代に思いを馳せれば、何のことは無い中世の闇が目前に迫る危うい時代。蛮族襲来・帝国崩壊に引き続く中世の闇が落ちてこないようにと、マルティヌス君(マーチンのラテン語読み)はまず活版印刷を「発明」。ばんばん本を刷って知識を広く普及させれば、多少の混乱があっても知識は残り、闇に対抗できるに違いないという、いわば知識の人海戦術を展開。

そしてそんな中、成り行きでダメなローマ皇帝を助け、帝国重要人物にのし上がり……

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「ある日いきなり異世界転移」「現代科学知識をフル活用して無双する」の昔のバリエーションだと思えば良いでしょう。

当時のSF作品で珍しくはなかった、タイムスリップもの(過去に逆行する物語)の一つです。


 主人公のマーティン君は言語チート付き(古代ローマの専門家なので言葉に困らない)、弁舌巧みで博学なアメリカ青年。往時のアメリカの作家なら何らためらうことなく、今でいう主人公TUEEEEE展開にしたことでしょう。


が。


 ディ・キャンプという人はアンチヒーローを描かせたら右に出る者がいないんじゃないかというコメディ路線も得意とした人でして。『正統派のとても強い主人公が無双する話』なんて書くわけがありません。

 おかげでマルティヌス君は天然ボケ風味ギャグキャラクターに。

 活版印刷をしてみれば羊皮紙があっという間に払底し、蒸留器を作れば銅管の溶接に失敗し、などなど、小粒ながらしっかりした「ありうる小さな数々の失敗」にことごとくつまづく、とても人間味ある主人公となっています。


 無双しきれないアンチヒーロー獅子奮迅、こけつまろびつ大団円、という話がお好きな方にはぜひともお勧めしたい一冊です。


 ただし日本人にはなじみの薄い時代と場所を扱っていますから、モンタネッリの「ローマの歴史」を読んでおくと、面白さが倍増すると思います(このモンタネッリの本はローマ史を扱うノンフィクションですが、歴史の喜劇性を前面に打ち出している良書です)。


追記。この作品においては、モテない三枚目は、どこまでいってもモテません。

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