絶版本の宴・リターンズ

中崎実

一冊目「アドリア海の復讐」

作品データは以下の通り。

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著者:ジュール・ヴェルヌ

初出:1885年11月

あらすじ:

 オーストリア帝国から祖国ハンガリーの独立を計画するマーチャーシュ・サンドルフ伯爵。しかし彼は決起の前日、金に困った仲間トロンタルと悪党サルカニーの密告によって、同志バートリらと共に逮捕される。

 仲間と共に脱獄したサンドルフは漁師フェラートに助けられるが、フェラートの娘マリアに横恋慕する前科者によって再び密告される。バートリは捕らえられて銃殺となり、フェラートは逮捕されて終身刑を宣告されたが、サンドルフは警察の銃撃によって海の藻くずと消えた。

 そして15年後。アンテキルト博士と名乗る男がバートリの遺児・ピエールの前に現れる。

 トロンタルの裏切りを知らず、トロンタルの娘サヴァに恋していたピエールだが、事実を知らされて後にアンテキルト博士の副官となる。

 ピエール同様に活躍する若い二人の曲芸師コンビ、フェラートの息子リュイジらの忠誠を勝ち得たアンテキルト博士は、持ち前の科学力と財産を武器に裏切り者達を追いつめて行く……

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 どこかで見たようなプロット。仲間に裏切られた男が莫大な財産を手にし、復讐に励むという黄金のストーリーです。

いわゆる巌窟王パターンですね。


 ヴェルヌよお前もか、と叫びだしたくなったあなた、ちょいとお待ちください。

 扉ページにはちゃんと、アレクサンドル・デュマへの献辞があります。なんせこの作品、らしいので、見たようなプロットなのも当たり前なんですな。

 デュマのストーリー構成を生かし、そこにヴェルヌの大胆さを加え、古き良き時代の冒険小説の楽しさが十分に詰め込まれています。


 科学講義的な部分をすっぱりとなくした後期ヴェルヌらしい作品です。

 電気は万能にちかい扱いを受けている(ヴェルヌ作品において、電気とは人間が手にした最高の科学技術です)あたりも、時代を感じさせていいですね。

 年を食っても良い男・アンテキルト博士の渋さを堪能しつつ、若きピエールの無謀な勇気に心躍らせ、曲芸師コンビの機転にうなずき、リュイジの忠誠心に涙する。縦横無尽な活躍を素直に楽しめばいい小説だと思います。


……とはいえ、実の娘のことくらいもうちょっと気にしてやれよ博士、という突っ込みが無いわけじゃありません。

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