第5話

厨房の奥には、体の大きい男の人がいる。

あの方がオーナーかな?


さすがに、元力士。


でも、見たことがある。

そこそこ出世したのか?


さっきの、百合ちゃんが手伝っている。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「いや、他に従業員さんいないのかなって・・・」

「いつもは、大勢いるけどね、今日は貸し切りだから」

「・・・そう・・・」


そうこうしているうちに、運ばれてきた。


「お待ちどうさま。梨絵もお兄さんも、たくさん食べてね」

「ありがとう。でも、お財布とも相談が・・・」

「安心してください。今日は、おごりです」

「おごり?」


梨絵と百合ちゃんの二人を見る。

笑顔で頷いた。


厨房にいる、男の人も笑顔でお辞儀をした。


かなり、運ばれてきた。


「お兄ちゃん。とりあえず、食べよう」

「ああ」


僕が、鍋に入れようとするが・・・


「あっ、私が入れるから、お兄ちゃんは、どんどん食べて」

「お前はいいのか?」

「私は、全部入れ終わってから食べるから」


全部と言っても、かなりの量だ。


肉は・・・鶏肉か・・・


「うん。クリスマスだから鶏肉」

関係・・・あるか・・・


七面鳥。


僕と梨絵とは、向かい合わせで座っている。

ゆげの向こうに、梨絵の笑顔が見える。


幸せそうだ。


そういえば、家族で生活していたころも、鍋を囲むことはなかった気がする。


「お兄ちゃん、私夢だったんだ」

「何が?」

「大好きな人と、鍋をかこんで、さしつさされつするのが」

「意味が違うだろ?」


梨絵の手が、一瞬止まった。


「私ね、今日の夜には寮に帰るんだ」

「親父とお袋には、いいのか?」

「うん。ふたりとも知ってるし・・・それに、今度はしばらくは、帰らないつもり」

「どうして?いつでも会えるだろ?」


梨絵は、首を横に振る。


「私、留学するんだ」


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