第六十話「ヴァンパイアロード」
4月23日午後7時頃。
僕とローザはデーモン系の上位種を狩っていた。
最も強敵のグレーターデーモンを含め、探知魔術と転移魔術を駆使して確実に倒している。
「味方ながらライル殿の戦い方は恐ろしいな。初見では逃げようがない」
ローザがそう言うほど、僕たちの戦い方は異様だった。
探知魔術で敵の場所を特定し、近くに他の魔物がいないことを確認した上で建物の中に誘い込む。
そして、僕たちが逃げ切れずに困惑しているように見せかけて相手の油断を誘う。そこで一気に転移魔術で接近してローザの炎を纏わせた斬撃と僕の近接射撃で確実に倒す。
実際、僕自身が同じことをされたら何が起きているか分からないうちに殺されるだろう。
「
デーモン系の魔物は群れることなく、単体で行動することが多い。種族としての特性なのだろうが、ミノタウロスのように指揮官がいたら、どこかで看破されてこれほど楽に戦えていないだろう。
「そろそろアンデッドが出てくる頃だし、気を引き締め直した方がいいかもしれないね」
既にデーモンの上位種の数は減りつつあり、次の魔物がいつ出てきてもおかしくない状況だ。
この後に出てくる魔物は451階から500階までのもので、上位のアンデッドで、ワーウルフやヴァンパイアが主体となる。
この2種の魔物とは既に戦っているため、僕のM4が通用することは分かっているが、
また、ヴァンパイアロードはアンデッドを使役するらしいので、組織だった行動を採る可能性もあった。
「確かにグレーターデーモンであれほど苦戦したのだから、更に強力なヴァンパイアロードを侮るわけにはいかぬな」
そんな話をしていながらも敵を探っていく。
そして、デーモンとは明らかに違う魔力を発見した。
「アンデッドの上位種が出てきたみたいだ。まだ、グレーターデーモンより弱い感じだからワーウルフとヴァンパイアだけみたいだけど」
「ならば、ロード種が出てくる前に数を減らしておいた方がよいな」
そう言ってローザは愛刀、黒紅の柄を強く握る。
僕もM590ショットガンからM4カービンに替え、ミスリルの
「ヴァンパイアの特殊攻撃には注意して。前より僕たちのレベルが上がっているけど、油断はできないから」
ヴァンパイアは魔術の他に魅了や混乱、麻痺などの特殊な攻撃を掛けてくる。迷宮の入口で戦っていた時に一度麻痺されそうになったことを思い出したのだ。
その頃よりレベルは200以上上がり、僕がレベル448、ローザがレベル435だ。
レベル的にはヴァンパイアと互角だから、精神攻撃なども以前より防げるはずだ。
ワーウルフを見つけ、攻撃を掛けた。
ワーウルフは立ち上がった狼のような見た目で、鋭い爪と牙を持つ。また、嗅覚も鋭いため、ある程度近づけば気づかれてしまう。
そのため、50メートルほど先から狙撃で始末することにしていた。
ミスリルジャケットの弾丸2発であっけなくワーウルフは光の粒子となって消えた。
「張り合いがない」とローザが零すが、
「今のうちに休憩しておいて。ヴァンパイアロードより強い魔物も出てくるかもしれないんだから」
「承知した」
ワーウルフとヴァンパイアを狙撃で始末していく。
迷宮の入口より遠いこととレベル差がなくなったため、レベルはほとんど上がらない。この後のことを考えると、少しでもレベルを上げたいが、今は敵の数を少しでも減らし、逃げている人たちに向かわないことを優先した。
1時間ほどその2種を狩り続けていたが、遂に大物が出てきた。
「ヴァンパイアより強力な魔力を感じる。最初は狙撃するけど、多分効かないから接近戦の用意もしておいて」
「承知。遂に父上たちも戦ったことがないヴァンパイアロードと戦えるのか……」
ローザの顔に気合が入る。
ラングレーさんたちは400階層に入ったところで戦っているため、アンデッドが出る450階層に入ったことがない。
そのため、450階層より下のゲートキーパーであるヴァンパイアロードと戦ったことはないはずだ。もっとも他の迷宮で戦ったことがあるかもしれないが、その話は聞いたことがなかった。
ヴァンパイアロードの魔力はゆっくりとした速度で町を彷徨っていた。探知能力が高くないのか、まだ僕たちを把握していないようだ。
距離的には50メートルほどなので、そろそろ見つけられると思い、ヴァンパイアロードが見える場所に転移する。
移った場所は住宅の2階で、窓から下を見下ろすと、漆黒のマント姿の人影が窓から漏れる灯りの魔導具の光に照らされていた。
夜になり、僕の視力では敵が捕らえられなくなるため、近くの家に入り、灯りの魔導具を点けておいたのだ。
スコープを覗いて敵を確認すると、向こうもこちらに気づいたのか、顔を上げニヤリと笑った。
「気づかれた」と言いながら、M4の引き金を絞る。
“パンパンパン”という軽い発射音が響き、3発の弾丸がヴァンパイアロードの頭に命中した。
ヴァンパイアロードがよろめいた。
一瞬、やったかと思ったが、ヴァンパイアロードはすぐにこちらに向かって勢いよく飛んでくる。
「効かなかった!」
そう警告しながら窓際から下がる。その直後、敵が放った火属性魔術が壁に当たり、熱風が入り込んできた。
ローザにも熱風が襲い掛かっているが、それを気にすることなく、黒紅を中段に構えて待ち受ける。
ヴァンパイアロードは勝ち誇ったような顔で、悠然と窓から入ってきた。その手には武器らしいものはなく、素手で僕たちとやり合うつもりらしい。
「舐めるな!」とローザが咆え、炎を纏わせた黒紅を一閃する。
その稲妻のような斬撃をヴァンパイアロードは左手で受け止めた。
「何!」と驚くローザに無詠唱で電撃を放つ。
ローザに電撃が襲い掛かり、跳ねるように吹き飛ぶ。
「ローザ!」と叫ぶものの、ここで敵から目を離すわけにはいかないと目を逸らすことなく、ヴァンパイアロードにミスリルジャケット弾を叩き込む。
ヴァンパイアロードはその弾丸を左手で受けると、煩わし気に首を振り、無詠唱で魔術を放ってきた。
僕もその行動は予想していたから、転移魔術で敵の真横に飛ぶ。
そこで初めてヴァンパイアロードの顔に驚きが見えた。
引き金を引く直前、僕は無詠唱で神聖魔術の浄化を放った。それは針の先のように狭い範囲だけだ。そして、その場所に向けて銃弾を撃ち込んだ。
「ガウァァ!」とその見た目に似つかわしくない雄叫びを上げ、光の粒子となって消えた。
安堵する暇もなく、「ローザ!」と言って倒れている彼女の下に向かう。
「大丈夫だ。ギリギリで刀で受けた……」
そう言いながら身体を起こしていく。
「本当に大丈夫なのか?」と聞くと、笑顔を見せてくれた。
「それにしてもどのように奴を倒したのだ? 銃が効かなかったのではなかったのか?」
「神聖魔術の浄化を針のようにして相手の障壁に小さな穴を開けて、そこに銃弾を撃ち込んでみたんだ」
「なるほど。しかし、いつの間にそのようなことができるようになったのだ?」
「本当は魔術を銃弾に載せようと思ったんだけど、どうしてもできなくて……小さくても浄化の魔術ならゴーストくらいには効くかなと思って練習しておいたんだ。今回は運よく効いたんだけど、こんなにうまくいくとは思わなかったよ」
この魔術だが、最初は弾丸に付与しようと思って練習した。しかし、弾丸に固定することができず、何度やっても銃口から出た瞬間消えてしまった。
そのため、銃口の先で待ち構えてそこで一緒に撃ち込めばと考えたのだが、結局それも上手くいかなかった。
仕方がないので、直接飛ばすことを考えたが、僕が使えるMPは10しかなく、射程は5メートルほどだ。また、魔術の強度を高めるために針先ほどしかなく、今まで使い道がないと思っていた。
今回は最初の狙撃で相手に衝撃は与えられることが分かったので、デーモンのような障壁ではなく、薄い皮膜のようなものじゃないかと思った。だから、小さな穴でも開けられれば、そこを突破口にできるんじゃないかと思い、やってみたのだ。
それが運よく成功した。
「この戦い方だと狙った場所に正確に撃ち込まないと難しいからどうしたものかなと」
「今のライル殿なら一度に無数にその浄化の針を飛ばせるのではないか?」
「確かに多重詠唱と多重発動を組み合わせれば、最大160個まで飛ばせるけど……分かった! 僕が浄化の針で相手の障壁を消して、そこに君が斬り込めば、確実にダメージを与えられるってことか!」
「その通りだ。先ほど手合わせした感じでは相手の技量は某より低い。あの障壁さえ何とかできれば、さほど苦戦することはないと思うのだ」
その後、何度かイメージ合わせをする。
元々連携の訓練はやっていたから、すぐにイメージは掴めた。
ヴァンパイアロードを見つけ、同じように戦ったが、障壁さえ消してしまえば、彼女の剣でも、僕の銃でもそれほど苦労せずに倒せることが分かった。
その後は順調に敵を倒し続けていった。
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