第六話「希望」
僕はグリステートに無事到着した。そして、魔銃の設計者モーゼス・ブラウニング氏に自分用の銃の設計を依頼し、了承を得ることに成功した。
モーゼスさんは話を聞いた後、一丁の魔銃をテーブルに置いた。
シャンドゥのメドウズ魔導具店で試射したものと同型で、“コルトガバメント”と言われていたものだ。
「まずは一度撃ってもらえないかね」
「分かりました」と快諾したが、内心では発射までの時間の長さに呆れられるのではないかと不安を感じている。
「地下に試射場があるから付いてきなさい」
そう言うと、店の奥に歩き始める。
店の奥には地下に向かう階段があり、石造りのしっかりとした地下室に入っていく。
地下室は幅5メートル、奥行き20メートル、高さ3メートルと思った以上に広い。奥側の壁には緩衝材にするためか、土嚢が積まれており、その前に円形の標的が置いてあった。
「あの中心を狙って撃ってみなさい。時間はいくらかけてもいいから焦らずに」
そう言ってモーゼスさんは僕に魔銃を渡す。
「これを着けなさい」と言って、耳当てとゴーグルを渡しながら、自分も同じものを装着していく。
それらを受け取り、耳当てとゴーグルを着けると、銃を構える。
緑色の魔法陣が浮かび上がるが、以前と同じように魔力の充てんが終わらない。焦るなと自らに言い聞かせ、魔力が溜まるのを待つ。
前回と同じくらいの時間が経った時、点滅していた緑の魔法陣が消えた。
「撃ちます」とだけいい、目の端でモーゼスさんを見る。言葉は発しないが小さく頷いたため、引き金を引いた。
パンという小気味のいい音が響き、弾丸が飛び出していく。そして、標的の中心に命中した。
ど真ん中に命中したが、僕の気持ちは落ち込んでいた。
「このくらい時間が掛かるんです」
呆れられるかと思ったが、モーゼスさんは「うむ。何となく分かったよ。では上がろうか」と言って、地下室を出ていく。
僕は慌ててその後を追いかけていった。
一階に上がると、モーゼスさんは工房にある机に座って紙に何か書き始めた。どうしたらいいのか困惑するが、静かに待っているしかないと近くの椅子に座る。
5分ほど経った時、モーゼスさんが顔を上げた。
「君は詠唱短縮のような補助技術をどの程度習得しているかね」
その問いに自信をもって答えることができた。僕の得意な分野だから。
「詠唱短縮はレベル10で無詠唱までできます。それから多重詠唱と多重発動も使えます。多重詠唱と多重発動はいずれもレベル5です」
詠唱短縮は文字通り呪文の詠唱を省略する技術で、レベル10になると無詠唱と呼ばれ、ごく短時間で発動が可能になる。
多重詠唱は異なる魔術を複数同時に発動、多重発動は同一の魔術を複数同時に発動する技術だ。
僕が自信を持っているのは、多重発動を習得できた同級生は誰一人いなかったためだ。エクレストン魔導伯家の神童と呼ばれているマーカスですら習得する気配すらなかった。
その多重発動より更に高度な多重詠唱を使える者になると、宮廷魔術師クラスでも稀だそうだ。
その習得が難しいスキルを15歳という若さでレベル5まで上げていることは僕の唯一の自慢と言っていい。
「それは素晴らしい!」
「ありがとうございます。まともに魔術が使えなかったので、補助技術ばかり練習していた結果なんです」
「それほどのスキルを持っているなら、威力を保ったまま発射準備の時間を短縮することは可能だ。もちろん実戦で使用できるレベルで」
「ど、どういうことでしょうか?」
モーゼスさんは先ほど僕が撃った銃を机の上に置き、
「このM1911、通称コルトガバメントは風魔術で空気を圧縮し、それを爆発的に解放することで弾丸にエネルギーを与えて飛ばす。言うなれば、空気銃なのだ。準備に時間が掛かったのはその圧縮空気を生成する魔法陣に十分な魔力が供給できなかったためだ」
モーゼスさんの説明を聞き、時間が掛かった理由は理解できたが、なぜ多重詠唱などのスキルが使えると短縮できるのかが理解できない。
「圧縮空気の圧力を抑え、足りない分はレールガン方式で加速する。加速の魔術を多層的に使えば、理論上は今撃った銃以上の威力にすることは可能だし、発射も数秒で可能になるはずだ……」
興奮したモーゼスさんは僕が理解できない言葉で説明を始めた。理解できないものの、実用的な銃ができることだけは何となく分かり、期待に胸を膨らます。
2分ほど話し続けたところで、僕が理解できていないことに気づいたようで、ばつの悪そうな顔で謝罪してきた。
「……済まなかったね。年甲斐もなく興奮してしまったようだ」
「僕が撃てる銃ができるということでいいんですよね」
「理屈の上では可能だ。実際、
「対応ですか?」
「多重発動が鍵なのだよ。簡単に言うと、圧縮空気で発射した弾丸を時空魔術の“加速”で多段的に加速させるのだが、複数の魔法陣に同時に魔力を送り込む必要がある。最初の風魔術は単独でもいいから、“加速”の魔法陣に対し、複数同時に魔力を供給しなくてはならないということだ」
「どのくらいの数の魔法陣に魔力を送り込めばいいんでしょうか? 多重発動だと今一度に発動できる数は8つまで何ですが」
「8つか……数は君の魔力放出量で決まるが……」
そう言いかけたところで、引き出しから紙とタブレットを取り出し、計算を始めた。
「M1911の発動魔力は972だったな。100秒弱だとすれば一度に送り込める魔力量は10と言ったところか……加速の魔術で投入MPが10だとすると、精々2割の加速……だとすれば、6段で3倍、8段で4倍強……初速を上げてやればいいが、それだと発動までの時間が長くなる……」
ブツブツと言いながら計算に没頭してしまい、僕はそれを見ているしかなかった。
5分ほど計算を行った後、突然顔を上げ、済まなさそうに頭を下げる。
「済まなかったね。夢中になると周りが見えなくなる性格でね。だが、大体のところは分かったよ」
その言葉に僕は緊張の面持ちでゴクリと息を呑む。
「5秒で発射可能な場合、起爆用の風魔術の魔法陣が1個と加速の魔法陣が12個の魔法陣が必要となる。起爆用は単独で魔力を注入すればいいから、12個の魔法陣に同時に魔力を注入する必要があるということだね」
「12個ですか……だとすると、多重発動のレベルを上げないといけないということですか」
「その通り。それらのスキルを上げるのは難しいと聞いたが、どうかね?」
既に一流の魔術師並みのスキルを持っており、常識的に考えるとこれ以上に上げることは非常に難しい。
しかし、自分ならできると確信していた。
「やってみます! 僕にはこれしかないですから」
「ちなみに私は流れ人だから付与魔術が使えない。実際に作るのはうちの職人だ。今は留守にしているから、後で顔合わせをしよう。変り者だけど、きっと気が合うと思うよ」
変り者という言葉に困惑の表情を浮かべそうになるが、「はい」と大きく頷く。
「では早速部屋のある二階に案内しよう」
これから始まるここでの生活に、僕の心は期待で一杯になっていた。
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