第177話:消えた村人③
リリィを追いかけて走っていると、離れた所に家があるのを発見。たぶんあの家の中にフィーネが居るのだろう。
ドアを開けて中に入ると、フィーネがとある方向を見ながら立っている姿が見えた。
「フィーネ! どうしたの?」
「あ、お姉ちゃんとゼストさん! ちょっと気になるのを見つけたの。そこなんだけど……」
フィーネが指差した方向にはカマドがあった。他にも調理器具が置いてあるし、ここは台所だろうな。
「どれ? 気になる物ってどれのこと!?」
「あ、いや……物じゃなくてね。ここらへん全部がおかしいというか……」
「? ここって台所よね? そんなにおかしいかしら……?」
台所には調理器具やら食材やらが散乱していて置きっぱなしで放置されている。さすがに食材は乾いてダメになっているが。
カマドの上には鍋が置いているし、中には濁った液体と食材があった。後は火をかけて煮るだけといった感じだ。
この状況を一言で表すのなら『料理途中の台所』といったところか。
「おかしいというか……少し気になるだけというか……」
「だから何が気になるのよ? 全然分からないわ」
「もしかしたら勘違いかもしれないし……その……何というか……違和感があるというか……」
「勘違いって……さすがに何がおかしいのか言ってくれないと分からないわよ……」
「う、う~ん……」
もう一度状況を見てみる。
器具や食材は特別変に思う物は無い。ごく普通の物だ。
鍋の中には食材が入っていてこれも変わった物とは思えない。恐らくスープでも作る予定だったんだろうな。
全体を見回しても違和感だと思えるようなものは無いし、気を惹かれるような箇所は無い。
どれもこの場にあってもおかしくない物ばかりだ。一般家庭の台所という感じで特に気になるものはない。
しかしフィーネは気になる光景だと言う。この台所のどこに違和感があるんだろうか。
本当にただの勘違いなんだろうか。
ん~…………
………………
…………あっ。
「フィーネ。違和感の正体って、もしかしてこの状況そのものだったり?」
「……! そ、そうです! それが言いたかったんです!」
「やっぱりそうか……」
「え? え? ど、どういうこと!?」
「???」
フィーネが違和感を覚えた理由が分かった。
台所自体に問題は無い。物にも問題無い。この状況があること自体がおかしいんだ。
「ラピスはこの場所を見てどう思う?」
「どう思うって……普通の台所だと思うけど……」
「じゃあここの家主はここで何をしていたと思う?」
「そんなの料理しかないでしょ? だから食べ物が散らかってるわけで……」
「そうそれだ。ここの家主は料理をしている途中だったんだよ」
「料理をしているのがそんなに不思議かしら? 台所なんだから普通じゃない?」
「そうじゃない。『料理を中断した』という事実が重要なんだよ」
「……?」
ラピスはいまいちピンときていない様子。
さすがに説明が足りなかったか。
「そもそもどうしてこんな状態で放置したんだ? せっかく料理を作っている最中だったのに」
「言われてみれば……どうしてかしら。用意してある食べ物も無駄になっちゃってるし……」
「つまりだな。『料理を中断してでも離れないといけない理由』があったからこのような状況になったんじゃないのか?」
「……! そういうことね……」
フィーネの違和感の正体はこれだろう。
料理していた人は何らかの理由で中断しないといけない事情があったんだ。だから物が散乱したまま放置されていた。
「もしかして村にモンスターがやってきたのかしら? 逃げるためにすぐに離れたとか?」
「それは考えにくいな。村にはモンスターがやってきた痕跡も無いし、この家も襲われたような形跡も無い。モンスターの仕業じゃないと思う」
「そういえばそうだったわね……」
モンスターに襲われたのなら確実に何らかの痕跡が残るはずだ。
しかしここにやってくるまでにもそういう痕跡らしきものは一切見つかっていない。
「それならもしかして、盗賊に襲われたんでしょうか?」
「それも考えにくいな。ラピスとさっき違う家の中を調べたんだが、金が入った袋が放置されていた。それ以外にも金目になりそうな物もあった。盗賊の仕業だったら見逃すとは思えん」
「そうなんですか?」
「うん。ぎっしりお金が詰まった袋が見つけやすい場所に置かれていたわ。さすがにあれを見つけられないとは思えないわね」
ついでに言えば家の中を荒らされた様子も無かった。泥棒が侵入した可能性はほぼ0%だといえるだろう。
「ならどうして料理の途中で離れたんでしょうか? せっかくここまで食材用意してあるのにもったいないです……」
「さぁな。それが一番の謎だ。たぶん村人全員が居なくなった原因がそこにある」
この家だけじゃない。他の家でも似たような状況になっているだろう。
村人全員が居なくなるような出来事ってなんだ?
「これはカンだけど、急いでここから離れたとは思えないんだよな……」
「慌てるようなことじゃなかったってこと?」
「もしすぐにでも逃げるような出来事だったなら、もう少し荒れているはずだ。しかし家の中も台所もそういった感じはしないんだ」
「言われてみれば確かにそうね……」
台所の上には物が散乱してはいるが、料理途中だということを考慮すれば不思議じゃない。
まな板の上には包丁が丁寧に置かれている。もし急いで離れたのなら、こんな落ち着いて包丁を置く余裕は無いはずだ。
少なくとも料理をしていて、この場から離れるまでの間は平和に過ごしていたといたはずだ。
もしかしたらあえてこの状態で放置したという可能性もある。
ここまで用意してあるんだ。一度片付けてしまった場合、再びこの状態に戻すとなると面倒だしな。ならここまま放置しても問題ないと判断したのかもしれない。
そしてそのままどこかへ行ってしまった。
しかし二度と戻ってくることは無かった。
その結果、このような状態で放置されてしまった。たぶんこれがこの場で起きたことなんだと思う。
恐らく村中で同じことが起きたはずだ。そして一斉に失踪してしまった。
痕跡を一切残さず、まるで神隠しにあったかのように忽然と人だけが消えてしまった。
この村で一体何が起きたんだ……?
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