第176話:消えた村人②

 村を散策して奥の方へと進んでいく。

 未だに村人らしき人物を発見できていないし、声も聞こえてこない。


「村の人はどこに行ったのかしら……。全然見つからないわね……」

「もしかして村を捨てて逃げ出したのかなぁ……?」

「そうかもね……」


 住人の声や物音が一切聞こえてこない。聞こえるのは自然音だけ。

 まるで廃村に訪れたかのような静けさだった。


「しかしここまで何もないとは予想外だったな。もっと分かりやすい痕跡とかあればよかったんだが……」


 ぶっちゃけ村に到着した時に死体が散乱してることも覚悟してたんだよな。そういった光景を見なくて済んだのはホッっとしている。

 だから村人から話が聞けるかと思ったんだけど、まさか誰一人居ないとはな。手がかりが全く無く何が起きたのか不明のままだ。


「そうね。この村荒れてないし、つい最近まで住んでいたみたいに手入れされていると思うわ」

「のんびり過ごせそうで暮らしやすい村だと思います」

「モンスターも出てこなさそうでヒマそう!」


 見た感じでは実に平和そうな村である。自然豊かでこういった所でのんびり暮らすのも悪くないだろう。

 だからこそ村人全員が失踪するという異常が際立つ。


「とりあえず俺達も手分けして探すか。分散したほうが効率良いし。俺とラピスであっち探すか」

「いいわよ」

「それじゃあ私とリリィさんで向こうの家付近に行ってみますね」

「頼んだ」


 というわけで俺とラピスで奥の家へ向かい、フィーネとリリィは別の方面に移動していった。

 別れてから歩き続け、とある一軒家まで辿り着いた。


「この家を調べてみるか」

「誰かいるかしら……?」

「さぁな。すぐにわかるさ」


 そして大きくノックしてから大声を出す。


「すいませーん!! 誰か居ますかー!?」


 しばらく待ってみたが、家の中から反応は無かった。


「…………やっぱりだめか。居なさそうだ」

「人の気配が感じられないわね……」


 家の外見は特に変わった様子は無い。手がかりらしき痕跡も一切見つからなかった。


「中に入ってみるか」


 ゆっくりとドアを開けて中へと入る。

 家の中も変わった様子も無く、荒らされたような感じはしない。


「誰か居ますかー!!」


 しばらく待ってみたが、やはり反応は無かった。


「やっぱり居なさそうね……」

「こうなったら家の中を調べてみよう。不法侵入になってしまうが仕方ない。もしかしたら奥の方で倒れているかもしれんからな」

「薄暗くて不気味ね……」


 家の中へと入り周囲を見回す。

 見た感じでは変わった様子は無く、荒らされたような痕跡は見当たらない。


「俺はこっちを調べてみる。ラピスは向こうを頼む」

「任せて」


 二手に分かれて家の中を捜索。ゆっくりと歩きながら慎重に進んでいく。

 しかし気になるようなものは見つからない。特別変わったような室内ではないしごく普通の家といった感じだ。


 テーブルの上を指で拭いてみる。

 ホコリの積り具合からいって、半年も経っていないはずだ。ここの家主が居なくなってから多分1~2ヵ月程度だといったところだろうか。もしかしたらもっと少なくて1ヵ月も経っていないかもしれない。

 つい最近まで住んでいたという雰囲気がする。


 生活に必要そうな物もある程度揃っているし、ここならしばらく暮らせそうな感じだ。

 どこにも異常は見つからない。だからこそ住人が居なくなった理由が謎だ。


 現状は手がかりらしき物は無いし、別の場所を探してみようかな。


「ねぇゼスト! こっち来て!」

「ん? どうした?」

「変なもの見つけたの……」

「!」


 ラピスは中サイズの袋を手に持っていた。

 近くで見るために俺もラピスの元へと移動した。


「何が入っているんだそれ」

「お金が入っていたのよ」


 ラピスが袋を開けると、中には大量の銅貨と数枚の銀貨が混ざって入っていた。

 これは貯蓄用の袋だろうか。


「こんなのどこにあったんだ?」

「そこの棚の上に置いてあったのよ。何か手がかりが無いか中を見てみたの。そしたらお金がいっぱい入ってたの」

「随分と不用心な所に置いてあったんだな……」

「でしょ? あたしもビックリしちゃった。こんな見つけやすい位置に置いてあるんだもの」


 田舎の人は鍵もかけないし出入り自由にしてあると聞いたことがあるが、似たようなものなんだろうか。それにしても不用心すぎるとは思うが。

 かなり見つけやすい場所にあるし、泥棒に入られたら3分もあれば発見できるだろう。それぐらい分かりやすい場所にある。


「ということは、ここの家主は金も持たずにどこかへ去ってしまったということか?」

「余程慌ててたのかしら……?」


 金を持っていく余裕すらないほど逃げたい状況にあったのか、それとも別の理由があるのか……

 しかし家の中は荒れてはいない。そんな慌てて逃げるようなことが起きたとは考えにくい。

 けどもしかしたらまだ見逃している手がかりがあるかもしれないし、決めつけるのはまだ早いか。


 そもそもまだ村に来たばかりだ。今はそんなことを考えている場合じゃないな。


「とりえあずもう少し調べてみよう。これだけじゃあ何も分からん」

「そうね。他の物も探してみるわ」


 ラピスは持っていた袋を元のあった場所に戻し、別の個所を調べ始めた。

 俺がラピスと別方向に行こうとした時だった。


「おーい! ゼスト! ラピス! どこだー?」

「……! リリィの声だ」


 家の外からリリィが叫んでいるのが聞こえて手が止まった。


「どうしたんだろう」

「あたし達のこと探しているみたいだし。合流しよっか」

「そうだな」


 2人で家の外に出ると、リリィの姿を発見。リリィも俺達に気付いたようで近寄ってきた。


「どうしたんだ? 何かあったのか?」

「フィーネが気になるものを見つけたって言ってた! だから2人を呼んできてほしいって!」

「フィーネが!?」


 ラピスと顔を見合わせる。


「気になるものってまさか……」

「この村で何があったのか分かったのかしら……?」

「とりあえず行ってみよう。リリィ! フィーネのもとまで案内してくれ!」

「分かった! こっち!」


 リリィがすぐに走り出し、俺達もその後を付いていくことにした。


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