第175話:消えた村人①

 俺達はチェスタ村を目指して馬車で向かっていた。

 今乗っている馬車の他に2台の馬車も付いてきている。それなりの人数だけあって荷物も増えたせいか馬車の数も増えている。


 総勢11人。馬車3台。

 単に村の調査だけにしては大げさともいえる数だろう。それだけ今回の依頼には力を入れているともいえる。

 そしてそれは依頼の危険度の高さを示すといっても過言ではないだろう。誰かがそう言ったわけではないが、全員が察したように身構えていた。


 村へ向かった人が全員行方不明になっているからな。つまり村に向かう道中で何か異常がある可能性もあった。

 そのため馬車に乗っている冒険者全員が警戒しながら周囲を眺めていた。

 もちろん俺達もすぐに動けるように身構えていた。そのせいか道中では会話は少なく、周囲に神経を尖らしていた。


 そんな状況の中、馬車は村へと進んでいく。




 結果から言えば、何も起こらなかった。

 てっきり道中でモンスターか盗賊に襲われるかと思っていたが、そんな気配は無く平和だった。

 ということはつまり道中にではなく、村に異変が起こっているということなんだろうか。


 そうこうしている内に村の入口に近づいていった。


「ふむ……ここらで止まれ。もしかしたら村にモンスターが居るかもしれないからな」


 カッツェの指示で馬車が全て停止。その後に俺達は降りることになった。

 全員揃ってから進み、村の入り口へとやってきた。

 だが……


「…………おかしい。誰もいないぞ……?」

「やけに静かだな……」

「チェスタ村ってそんなに人少ないのか?」

「そんなはずはないんだが……」


 チェスタ村はこれといって特徴の無い普通の村だった。

 だが目が届く範囲では村人らしき姿は1人も見えてこない。それどころか人の声すら聞こえてこない。不気味に静かな光景だった。


「まさか……みんなモンスターにやられちまったのか?」

「それはないと思う。モンスターの仕業だったら何かしらの痕跡があるはずだ。見る限りではそういった痕跡は無い」


 入口から見える範囲から確認しても荒らされた痕跡は見つけられなかった。

 もしモンスターが襲撃してきたのならもっと荒れているはずだしな。現時点ではモンスターの仕業とは考えにくい。


「おーい!! 誰か居るかー!? 居るなら返事をしてくれー!」


 カッツェが大声で叫ぶ。

 村中に響き渡りそうな大声だったが、どれだけ待っても返事が聞こえてくることは無かった。


「……本当に誰も居ないのか?」

「そんな馬鹿な。まだ真っ昼間だぞ。誰か1人ぐらい出歩いててもおかしくないはず……」


 さすがにおかしい。いくら過疎っていたとしても、さっきの大声で様子を見に来る人ぐらい居るはずだ。

 まるで無人の村のような静けさだ。


「あそこに酒場があるぞ。さすがに誰か1人ぐらい居るだろう。ちょっと見てくるよ」

「あ、ああ。頼んだ」


 カッツェの近くに居た男が動き出し、酒場に入っていった。

 しかし数分も経たずに外に飛び出してきた。


「ダメだ! ここには誰もいない! もぬけの殻だ! ネズミ1匹いやしねぇ!」

「なんだと……どうなってやがる……!?」


 いくら昼間とはいえ、誰もいないってのは妙だ。

 まさか本当に無人の村なのか……?


「ど、どうする? このことをギルドに報告するか……?」


 不安に思ったのか、男がカッツェに向かって話した。


「う、うーむ…………いや、まだ結論を出すのは早計だ。オレ達は依頼されて調査に来たんだ。何かしらの情報を持ち帰りたい」


 村に何かあったのかが知りたいから依頼されたわけだしな。

 まだ村に来たばかりだし。せめて村人の安否ぐらいは確認したいところだ。


「…………よし。ならばこうしよう」


 カッツェが何か思いついたようで、俺達に振り向いてから話し出した。


「みんな聞いてくれ! 手分けして村全体を調べてほしい。それなり広い村だ。一つ一つ回っていたら日が暮れてしまう。だから全員で協力して村に何が起きているのか探るんだ。もし何か発見したらこの場所に集合してくれ。では解散だ!」


 言い終わると、この場に居た人はそれぞれ散っていった。


「俺達も調べてみるか。とりあえず家の中を探ってみるか? もしかしたら家に隠れているかもしれないし」

「か、隠れるって……そんなことするかしら……?」

「言ってみただけだ。無いとは思うけど一応な」


 ありえないとは思うが、思いつく限りの可能性は潰しておきたい。


「しかし何があったんだろうな。オレ達以外まだ誰とも遭遇してないぞ……」


 そんなショーンの言葉にロイが反応した。


「とりあえず近くから調べてみない? ここで考えても何も分からないし」

「そうだな。考えてる暇があったら動くか。というわけでオレとロイも別行動をするよ」

「その方がいいな。じゃあ俺も動くことにするよ」

「おう」


 そしてショーンとロイは離れていき、近くにあった建物に向かった。

 こっちもそろそろ動こう。少しでも手がかりが欲しい。


「俺達行こう。ショーンとロイはここら一帯を調べるだろうし。もっと奥の方に行ってみるか。他の人が行ってない方面に向かうぞ」

「分かったわ」


 こうして俺達も村の奥へと進んでいくことになった。

 さて何があるのやら……

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