第173話:テレシアの説得

 冒険者ギルドを離れ屋敷に戻ると、テレシアが出迎えてくれた。


「あら。おかえりなさい。お早いお帰りですね。何かありましたか?」

「ちょっと色々あってな。話があるんだ。リーズも呼んできてくれないか」

「? はい。すぐに連れてきます」


 それからテレシアは一旦離れ、リーズと一緒に戻ってきた。

 そして全員が居間に揃ったところで話を始めることにした。


「ゼストくんどうしたの? 話があるって聞いたんだけど……」

「冒険者ギルドに行ってきたんだけどさ。俺達4人でとある依頼を請け負うことになったんだ。でもすぐに終わるような内容じゃなくてな。しばらく屋敷に帰れそうに無いんだ」

「まぁ……」

「……!? どこか遠い所に行っちゃうの!?」

「そんなに遠くは無いけど、それでもすぐには終われそうに無いんだ」


 依頼内容の詳細を聞いたんだが村まで向かう関係上、どうしてもある程度日数が掛かることが分かった。

 とてもじゃないが1日で達成するのは不可能だった。


「ど、どれぐらい帰ってこれないの!?」

「話によると、4~5日はかかるとのことだ。移動だけで時間取られるからな」

「そ、そんなに……」

「これは何もかも全てが上手くいった場合の日数だ。実際はそれ以上かかるのはほぼ確実だと思った方がいい。何があるのか不明だしな。原因究明するのが依頼内容だから予測できないんだよ」

「…………」


 もしかしたら何日も帰れない可能性もある。

 これだけ時間取られるのに報酬は高いわけでもない。一応、調査結果次第では報酬増額もあるとのことだが、何も無ければそれすらないわけで。

 そら誰もやろうとしないわな。


「だから数日は帰れそうにない。その間は2人でここに残ってほしいんだ」

「承知しましたわ。皆様が離れている間は、わたくしとリーズ様で留守番をいたします。こちらはお任せください」

「悪いな。なるべく早く帰れるように努力はするよ」

「…………」


 テレシアは落ち着いた様子で話していたが、その隣にいるリーズはうつむいて黙ったままだった。


「リーズも頼んだぞ。しばらく屋敷を空けるから――」

「…………やだ」

「え?」

「ゼストくんと離れるの……やだ……!」

「お、おい……」

「私も一緒に行く……! 私も付いていく……!」


 リーズは悲しそうな表情で俺を見つめてくる。他の皆はリーズの態度を見てからは黙ったままだった。

 しばらく沈黙が続くが、そんな沈黙を最初に破ったのはラピスだった。


「なら……あたしも残ろうかしら。2人だけにするのは心配だわ……」

「私も残った方がいいんでしょうか……? リーズちゃんは怖い目にあったばかりですし、側に居た方が安心できると思います……」


 正直言って、俺も2人だけに留守番させるのは不安ではある。好きでこんなことしているわけではないしな。

 けれども連れて行くわけにはいかない。


「リリィはどうする?」

「ゼストに任せる!」

「ふーむ……」


 最悪、依頼を受けるのは俺1人でも有りなんだよな。

 ランクを上げるのは俺だけでもいいし、他の3人は急いで上げる必要は無いしな。

 ならばいっそ、俺だけでやるべきなんだろうか。


 今回の依頼内容も謎だらけで何が起こるか予測できないし。俺だけで他の3人を守り切れるとは限らない。

 ならばここは安全を取って、他の皆には留守番してもらうのも手か……


 そうなると人数が減ってまた募集することになるが仕方ない。

 すぐに冒険者ギルドに報告しにいかなければ……


「リーズ様。それはいけません。わたくしは反対です」


 予想外の言葉に思わず黙ってしまうが、テレシアは構わず続けた。


「付いていくと皆様に迷惑をかけることになります。それぐらいご自分でも理解してますよね?」

「でも……」

「わたくしもリーズ様も冒険者としては未熟です。同行したところで何ができますか?」

「…………」

「万が一、リーズ様が原因で依頼が失敗したらどうなさるつもりですか? 責任はゼスト様が負うことになるのですよ? それだけは絶対に避けるべきです」


 テレシアがこんなこと言うなんて意外だな……

 てっきりテレシアも付いていきたいと言い出すかと思っていた。


「ゼスト様と離れると寂しくなる気持ちはよくわかります。ですがここは我慢をするべきです。わがままでゼスト様の足を引っ張るようなことはしたくありませんよね?」

「うん……」

「ならばリーズ様はご自分がやるべきことをするべきです。家主が安心して働けるように、住処を守るのも立派な役目です。ゼスト様が集中して依頼をこなせるように不安にさせてはなりません」

「…………」


 テレシアは諭すように話し、リーズの手を握った。


「わたくしもここに残りますから。一緒に皆様の無事を祈りつつ待ちましょう?」

「うん……」


 リーズは顔を上げ、俺に振り向いた。


「わがまま言ってごめんね……。またしばらく会えなくなっちゃうと思うと寂しい頃を思い出しちゃって……」

「できるだけ早く帰れるようにはするからさ。それまでは我慢しててほしい。テレシアも一緒に居るから少しは寂しさも紛れるはずだ」

「でも……無理したらダメだよ……? みんなが無事に帰ってきてくれることが一番嬉しいんだからね……?」

「大丈夫だって。すぐに終わらせてくるさ」

「うん……」


 リーズの頭を撫でると、安心したように穏やかな表情になった。

 テレシアが説得してくれて助かった。これなら任せてもよさそうだ。


「良い子ね。これなら残る必要はなさそうね。安心したわ」

「ひゃんっ……」


 ラピスがリーズの頭を撫で始め、


「ごめんね……ふふっ。私もお姉ちゃんにこうやって撫でてもらったなぁ……」

「にゃう……」


 それに続いてフィーネも撫で始めた。

 その後も撫で続けていたが、満更でもなさそうなリーズだった。

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