第172話:謎の失踪

「やっぱりお前らか。久しぶりだなー」

「……?」


 声をかけてきたのは見覚えのある顔の男。見覚えがあるけどすぐに思い出せない。

 その隣に居る男も見たことがある気がする。


「えーと……」

「あら。前にも会ったことがあるような……」

「あっ……もしかしてゴブリン討伐の時に一緒に戦った人ですか?」

「……! そうだわ! 大きいゴブリンが現れた時に会ったんだわ!」


 あー思い出しだ。そういやそんな事もあったなぁ。

 ゴブリン討伐の時に見たことある顔だ。ラピス達と一緒にゴブリンジェネラルを倒したんだよな。


「あの時は悪かったよ。あんなの化け物がいるとは思わなかったしな」

「でも覚えていてくれて嬉しいよ」

「だな」


 仲良さそうな2人組だ。いつもパーティを組んでいるんだろうな。


「再び会えるなんて奇遇だな。えーと……」

「オレはショーンだ」

「ボクはロイ。そっちはゼスト……だったよね?」


 ああそうだ思い出した。

 剣を使う方がショーン。弓を使うのがロイだったな。


「そうだ。そっちもよく覚えていたな」

「まぁな。あんな化け物を軽く倒しちゃうような人は嫌でも覚えるさ」

「そ、そうか……」


 ゴブリンジェネラルを倒した件か。そういや追加で沸いたから、俺一人で倒したんだっけか。


「そんで何してるんだ?」

「依頼書持ってるから依頼を受けにいくのかな?」

「ああそうだ。村の調査の依頼を受けようと思ってな」

「村の調査……」

「まさか……」


 2人の顔から笑顔が消え、不安そうな表情になった。


「なぁロイ。村の調査って例のやつだよな……?」

「う、うん。だと思う……」

「だよな。アレしかないもんな……」


 急にどうしたんだろう。なにやらヒソヒソと話し始めてしまった。


「あー……そのー……、何ていうか、それ本当に受ける気なのか?」

「ん? どうしてだ? 何か理由でもあるのか?」

「そうか……まだ知らないのか……」


 この依頼に何かあるんだろうか。ただの村の調査のはずだ。


「実はな。その依頼は2回も失敗してるんだよ」

「は? 失敗? ただ調査するだけで失敗とかあるのか?」

「それが原因不明らしいぞ。依頼を受けて村に行った冒険者達は誰も帰ってこないんだとさ」

「帰ってこない? 道中でモンスターに襲われたとか?」

「それすらも不明らしい。なんせ帰ってきた人が居ないから情報が全くないんだ」


 村に向かった人全員が音信不通なのか……

 確かにそれはきな臭いな。


「それに加えて拘束時間が長い割には報酬は少なめ。だから受ける人が少ないのさ」

「なるほどな……」


 だからDランクでも受けられるのにまだ残っていたわけか。


「でも村を見に行って帰ってくるだけなんでしょ? そんなに難しいのかしら?」

「それに関しては私から説明させて頂きます」


 いつの間にか近くまで来ていたフローラが割り込んできた。


「この依頼の事?」

「そうです。事の発端は村から連絡が途絶えたことが始まりでした。様子を見に村へ行った方が居たんですが、どれだけ待っても帰ってこなかったのです。そこで冒険者ギルドとして依頼を発行することに致しました」

「それがこの依頼書か……」

「しかし依頼を受けていただいた冒険者も戻ってくることはありませんでした。そこで人数を追加して戦力を増やし、数人の冒険者が向かいました。ですが……」

「未だに戻ってこないと?」

「そうです」


 2回も失敗したってのはこういうことか。最初の人を含めたら3回も失敗に終わったということになる。

 全員行方不明になるような何かが起きているということか。


「なので今回はさらに増員して本格的に調査を行おうとしています。もしこれでも成果が無ければ、騎士団が派遣されることになると思います。しかし現状では動くことはないでしょう」

「なるほどな……」


 具体的に何が起きているのさえ判明すれば騎士団も動く理由になるだろう。しかし単に音信不通なだけでは無視される可能性が高いってわけか。

 だからなるべく冒険者ギルドで解決したいと考えているわけだな。


「だとさ。だから止めた方がいいぜ。その依頼。依頼なら他にいくらでもあるしな」

「ん~……」


 様子を見に行った人全員が消息を絶ち手がかりすらない状態か……

 なぜか気になるな……


 ………………行ってみるか。


「この依頼受けることにするよ」

「! よろしいのですか? 他の依頼でも十分昇格できますよ?」

「構わない。個人的にも少し気になったことがあるしね」


 そしてラピス達に振り向いて確認を取る。


「3人ともこの依頼でいいか?」

「いいわよ。ゼストが決めたことだもん。異論は無いわ」

「私も一緒に手伝います」

「たくさんぶっ飛ばせるのなら何でもいいぞ!」

「全員賛成か。ならこれにしよう」


 というわけで依頼書をフローラに渡して受けようとするが、ショーンが割り込むように大声を出してきた。


「じゃあオレもその依頼受けようかな! ロイもいいだろ?」

「え、えええ!? ボクも!?」

「どうせなら一緒にやろうぜ。もしかしたらすげーもん見られるかもしれないしな!」

「はぁ……分かったよ。ボクも一緒にやるよ」

「よし決まり!」


 え? この2人も一緒にやるの?


「どうしたんだ急に。お前らもこの依頼受ける気なのか? さっきは引き留めていたくせに」

「あんたが一緒ならどんな依頼でもこなせそうな気がしてな。実はオレも何が起きているのか気になってたんだよ。だからこの目で確かめたかったんだ。それにどうせある程度人数集めるつもりだろうし」

「ああ。そうか。今度はさらに増員するって言ってたしな」

「はい。この依頼は10人程度集まってから開始する予定でした」

「そうなのか……」


 1回と2回よりも大人数で行って少しでも成功率を上げようとしてるわけか。1人でも情報を持ち帰れば何があったのかが判明するわけだしな。


「既に数名が引き受けてくれる予定でしたので、恐らくこの人数で足りると判断されると思います。明日明後日には出発すると思われますので、そのつもりでお願いします」

「分かった」

「了解」


 さてと。この事を知らせるために一度屋敷に戻るか。

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