第171話:依頼

 レオンさんとのやりとりも終えて馬車から出ようとした時だった。


「……………………あっ! すみません! 忘れてました!」

「ん? どうしたの?」

「もう一つゼストさんに用件があったんです。そこまで急ぐわけではないので、頼まれていた情報を伝えた後にお願いしようかと思ってたんです。ゼストさんがお忙しいようなら後回しにするつもりでしたが、少々驚いてしまったので忘れていました……」

「な、なるほど……」


 そんなに衝撃的なこと言ったかな?

 レオンさんがうっかりする場面を見たのは初めてな気がする。


「現状はもう解決されたとのことので余裕ができたと思ったんですが、よろしいですか?」

「うん。なら一旦そっちに戻って詳しく聞かせてもらおうかな」

「いえそのままで大丈夫です。すぐ終わる話なので」


 レオンさんの頼み事はなるべく優先するつもりだ。なので話を聞くことにした。


「それで用件って?」

「しばらくの間はフォレストベアを狙って討伐してほしいんです。実はですね、近頃フォレストベアの毛皮が高騰傾向にあるんです。なのでこちらとしても仕入れておきたいんですよ」

「つまりどんどん狩って素材を手に入れてほしいと?」

「そういうことです」


 フォレストベアか。あのモンスターはそれなり強くて、甘く見てると返り討ちに合うだろう。少なくともレベル30は無いと苦戦を強いられる。

 これは丁度いいかもな。リリィは既にレベル30超えているし、ラピスもフィーネももうすぐ30に到達するだろう。


「フォレストベア討伐にはCランク以上の方を推奨とされてるモンスターですが、ゼストさんの実力なら問題無いと判断してお願いすることにしました。いかがでしょう?」


 ああそっか。俺はまだDランクだったな。


「分かった。なら次はフォレストベアを狩ってみるよ」

「ありがとうございます。特に急ぐような事ではないので、ご都合のよい時に討伐を行ってもらって構いません」

「了解」

「用件は以上です。引き留めてしまってすいません」


 俺が離れると馬車はゆっくりと動き出し、そのまま離れていった。


 しかしCランク以上推奨のモンスターか……

 そういや未だにDランクなんだよな。そろそろCランクになってもいい頃だとは思うんだけどな。

 討伐もしっかりやってるいるし、俺だけじゃなくて他の3人もCランクにいける実力は付いてきているはずだ。だが未だにランクアップできていない。


 そもそもCランク以上推奨のモンスター討伐を提案してきたのは、暗に次のランクにいってほしいというレオンさんのメッセージなのかもしれない。

 低ランクのままだと、専属契約しているディナイアル商会としてもあまり良い評判にはならないだろう。だから本音ではもっと高ランクなってほしいと思っているかもしれない。

 さすがにこのままではまずいな。一度冒険者ギルドに行って相談してみるか。




 それから屋敷に戻った後で3人を引き連れ、冒険者ギルドへとやってきた。

 受付カウンターに行くと、そこには真面目そうな雰囲気の女性職員が立っていた。確かこの人はフローラという名前だったはず。

 俺は近くまで寄るとフローラに話しかけた。


「すいません。冒険者ランクのことで聞きたいことがあるんだけど……」

「はい。何でしょうか?」

「まだDランクなんですけど、後どれぐらい討伐したら次のランクに行けますかね?」

「そうですね……でしたら、貴方の冒険者カードを拝見させてください。それを元に詳しい情報をお伝えできると思います」

「はい」


 俺は持っていた冒険者カードを渡した。するとフローラをそれを見ながら手元にある資料を漁り始めた。

 それから数秒待った後に、フローラの動きが止まった。


「ゼストさんですね。討伐は既に十分だと思います。しかし依頼を殆ど受けていないようですね。それが原因だと思います」

「依頼……」


 ああそうか。ずっと討伐ばかりしていたからな。依頼のことはすっかり忘れていた。

 討伐だけでは不十分で、依頼をこなしてもっと貢献しろってことか。


「そういうことか……。ありがとうございます」

「依頼を受けたいのではあれば、あちらの掲示板へどうぞ。ゼストさんでしたら1つ依頼を完了させるだけでCランクになれると思います。期待してますよ」


 フォレストベアを狩ろうかと思っていたが予定変更だ。まずは依頼をこなしてCランクになろう。

 急いでいないとレオンさんは言っていたからな。後回しでも問題ないだろう。


 ということで、俺達は依頼掲示板の所まで移動した。そして数々の並んでいる依頼書を眺める。


「さてと……どの依頼にすっかな……」

「う~ん。いっぱいあって迷うわ……」

「こんなにあるんですね……」


 正直どれでもいいんだが、あまり長期間遠征するのは避けたいかな。

 となると……討伐系だろうか。


「どれやりたいか希望あるか?」

「いっぱいぶっ飛ばせるやつがいい!」


 リリィならそう言うだろうとは思った。

 なので討伐系を中心に探してみるが……


「……あ。ダメだ。ランクが足りねぇ」

「え? そうなの?」

「どれもCランク以上ばかりだ。俺達だと受けられないな」

「そうなんですね……」


 よく見たらどれもCランク以上を要求されている。やはり強敵相手だと相応の実力が求められるってことか。

 どうやらD以下でも受けられる討伐は売り切れらしいな。


「あたし達でも受けられるものって意外と少ないのね」

「少ないというより、既に他の人が受けてしまったんじゃないか。安全で楽にできそうなのは人気だろうし。特にEランクとか金欠だろうしな」

「なるほどね……」

「ん~…………どうすっかな…………おっ。これはいけそうだ」


 目に留まったのは、調査の依頼だった。

 これはDランクでも受けられるタイプだ。


「これ受けてみないか?」

「どれどれ……村の調査? なにこれ?」

「単に調査するだけでしょうか?」

「そうらしい」


 少し変わった依頼だ。村を調査するだけで達成とか楽でいいな。

 だがこんなにも楽そうな依頼なのにまだ残っていることが気になるが、まぁいい。これにしよう。


 依頼書を持って受付カウンターへ行こうとした時だった。


「……ん? もしかして君は……」

「え?」


 声がした方向を見ると、そこには見覚えのある男2人が立っていた。

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