第169話:リーズの提案

 次の日。朝起きてから部屋から出ることにした。

 居間に向かおうと歩いていると、テレシアの姿が見えた。テレシアもすぐに俺のことに気が付いたようだ。


「あ……ゼスト様……」

「お、おはよう……」

「お、おはようございます……」


 …………気まずい雰囲気だ。

 昨日はあんなことがあったからな。さすがに気にするなってほうが無理だろう。

 お互いに黙ったまま立ち止まっていたが、先にテレシアが動いて俺の近くまで寄ってきた。


「昨日はすみませんでした……。ゼスト様への感謝の気持ちを伝えようとしてたんですが、抑えきれずに少々取り乱してしまいました……」

「そ、そうか……。まぁ見えるようになって興奮する気持ちも分かるよ。だから気に病むことはないさ。あれくらいで責めるつもりはないよ」

「うぅ……」


 そうだよな。やはり昨日のアレは一時の気の迷いみたいなものだよな。

 テレシアがあんな性格なわけないよな。酔っ払いのようなもので一時的なものだったんだ。

 昨日のことは忘れて、これからは普通に接してあげよう。


「まだ見えるようになったばかりで慣れてないだろうから、しばらくはこの屋敷内で過ごすといいよ。困ったことがあれば俺達に相談してくれてもいいし」

「ありがとうございます。わたくしも一旦部屋に戻って休ませて頂きますね」

「俺は居間に行くから。んじゃまた後で」

「はい」


 そしてお互いに歩き出す。

 だがテレシアとすれ違おうとした瞬間……


「いつでもいいですからね?」

「ッ!?」


 突然の声に思わず振り向いてしまう。しかしテレシアは振り向くことなく部屋へと向かっていった。


 今のは一体……


 …………


 いや。深く考えないようにしよう。

 きっと気のせいに違いない。幻聴か何かに決まっている。そう思うことにした。




 自分の部屋に戻ろうとした時、テレシアと出くわした。


「あ、ゼスト様。丁度いいところに」


 テレシアがこっちに向かって歩き出す。

 けど少し歩く速度が早い気がする。


「実は相談がありまして食事のことですが――きゃっ」


 しかし途中で足をつまずいてしまい転びそうになってしまう。


「おっと危ない」

「……!」


 咄嗟に手を伸ばしてテレシアの体を支える。間一髪で受け止めることができた。


「大丈夫か?」

「は、はい。ありがとうございます。少々急いだばかりにお恥ずかしいところを見られてしまいましたね……」

「まだ慣れてないんだから、ゆっくりでいいから慎重に歩いたほうがいいよ」

「そうですね。すみません……」


 テレシアの体を支えた状態で待っているが、何時まで経ってもテレシアは離れようとしない。

 ずっと俺に寄り掛かったままの状態だ。


「どうした? もう立てるよな? 離れないのか?」

「………………」


 なんだろう。テレシアは黙ったままだ。

 まさかどこかケガでもしたんだろうか。


「テレシア? 何かあったのか?」

「あの……ゼスト様」

「ん?」

「しばらく……このままの状態でも……いいですか――」

「!! ゼスト君!? 2人で何してるの!?」


 偶然通りかかったリーズが驚いた表情でこっちを見ていた。


「な、何で抱き合ってるの!?」

「へ? ち、違うぞ! こ、これはテレシアが転びそうになったから助けただけだ。そんなつもりはない!」


 そうか。今の状態は他の人からは抱き合ってるようにも見えるのか。

 リーズも思いっきり勘違いしてやがる。


「そうなの……?」

「はい。わたくしの不注意のせいで転びそうになったところを、ゼスト様に助けていただいたのです」

「そうなんだ…………………………むぅ~……」

「リーズ?」


 何故かふくれた顔になるリーズ。

 急に不機嫌になった気がする。


「じゃあ…………私がやる! 私がテレシアちゃんを支える!」

「ど、どうしたんだ急に……」


 リーズは早歩きで近寄り、俺から奪うようにテレシアの体を支え始めた。


「お、おい……」

「これくらいなら私でもできるもん。これからは私が付きっ切りで支えてあげるから! 私も役に立ちたいしいいよね?」

「いいんですか? わたくしなんかの為に、リーズ様にご迷惑になるようなことをさせてしまって……」

「大丈夫! 他にやること無かったし……私も何かしたかったし……問題無いよ!」

「まぁ! 嬉しいですわ! それならお願いしますね。お世話になりますわ」


 どうしたんだろう。リーズがやけにやる気だ。

 いつものリーズらしくないというか、こんな性格だったっけか?


「ゼスト君もいいよね? 私がやっても」

「え、あ、うん。テレシアがいいって言ってるし。いいんじゃないかな」

「じゃあ決まり! これからは私が側にいてあげるね」

「ありがとうございます。しばらくの間は頼らせていただきますわ。一度部屋に戻りたいのですが向かってもいいですか?」

「うん。じゃあ一緒に行こ」


 そしてリーズはテレシアの腕を支えながら離れていった。


 これからはテレシアが慣れるまでリーズがサポートするってことか。本人も納得してるみたいだし、俺が口を挟む必要は無いだろう。

 テレシアとしても有難いことだろうし、特に問題無いと思う。


 ……あれ。そういえばさっきテレシアは相談があるとか言ってたっけ。何だったんだろう。

 まぁいいか。また今度聞こう。

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