第168話:テレシアの感謝
テレシアが来てからは少し話し合い、基本的にはリーズと一緒で屋敷に居てもらうことになった。家事全般をやってくれるとの事なので全て任せることにした。
見えるようになったとはいえ、盲目には変わりない。冒険者としてはあまりにも致命的なハンデだ。
なのでしばらくはここで住まうことになった。
これで俺達が討伐に出掛けている間にリーズが1人で寂しい思いをすることは無くなったはずだ。幸いなことにテレシアとも仲がいいしな。
まさかこんな形で求めていた人材が見つかるとは思わなかった。何が起こるのか分からんもんだ。
それから夜になり、俺は自室で1人くつろいでいた。
そんな時だった。
「ゼスト様。少しお話がしたいので入ってよろしいですか?」
「ん? ああいいぞ」
「では失礼します」
ドアを開けてきたのはテレシアだった。ゆっくりとした動作でドアを開けてから入ってきた。
そしてそのまま俺の方に近づこうとするが……
「……ッ!」
「! だ、大丈夫か!?」
途中で足に物が当たって転びそうなるテレシア。
けれど少しよろけただけですぐに体勢を直した。
「す、すみません……まだ不慣れなもので……」
「まぁ仕方ないさ。見えていた頃とは違った視点から見ているからな」
今のテレシアは肩に乗ったホーちゃんを通して周囲を見ている。つまり普通の人と違って肩から見ていることになる。
こんな肩越しで見るなんて人生で初めてのことだろうしな。いわゆるTPS視点で動ているようなもんだ。
すると当然、空間認識能力も他の人とは違いズレが生じる。だから簡単に物を避けることも出来ずにぶつかってしまう。
慣れるのには時間が掛かりそうだ。
「お恥ずかしいところをお見せしてしまってすみませんでした……」
「いやいや謝ることじゃない。経験したことない視点での移動は大変だろうし。ゆっくり慣れていけばいいさ」
「はい。皆様のご迷惑にならないようにがんばります」
初めてあった時から思っていたんだが、テレシアはやけに上品だ。少なくとも冒険者としては見かけないタイプ。
孤児院生まれではないだろう。どこかのお嬢様という印象が強い。
テレシアは一体……
「ゼスト様? どうかされましたか?」
「あ、い、いや何でもない! それで何の用だ?」
「ゼスト様に改めてお礼をしたくて参りました」
そういって軽く頭を下げた。
「わたくしのために動いてくださり本当にありがとうございました。ゼスト様と出会わなければ、一生見えることなく野垂れ死んでいたかもしれません」
「まぁ俺のやり方はホーちゃんが居たからこそできた方法だけどな」
「ホーちゃんが……?」
「ホーちゃん……ドラモが優秀だから実現できたんだ。もしドラモが居なかったら……というより、召喚スキルが無かったら別の方法にするしかなかった。でもそれだと下手すりゃ年単位で時間が掛かっていたかもな」
「そうなんですね……」
ビッグアントを利用した熟練度稼ぎは便利はであるが、実際にやるにはある程度準備が必要なのだ。
特に強力な範囲攻撃手段は必須である。数をまとめて狩るんだから範囲攻撃が無いと話にならない。
仮に範囲攻撃できても、範囲が狭かったり威力が弱かったりしたら意味が無い。
倒すのに時間が掛かるのなら別のモンスターを狙った方がマシだ。レベルも上げられるしな。
「今回のやり方はドラモ以外のモンスターにはまず無理だ。まさにビッグアント討伐に最適の召喚モンスターだったってわけだ」
「まぁ……! ホーちゃんのお陰で今のわたくしが居るのですね……!」
そしてテレシアはホーちゃんを撫で始めた。
「ありがとうホーちゃん。ホーちゃんが居なかったらわたくしはとっくにこの世から消えていたかもしれませんわ。本当にありがとう。これからもよろしくね」
「ピィ……」
撫でられたホーちゃんも気持ちよさそうにしてテレシアに身を寄せた。
今まで家族のように接していたんだろうな。双方ともかなり打ち解けていて親しい雰囲気を感じる。
視覚共有の都合上、今まで以上に一緒に行動することになるだろうし。もはや一心同体の関係だろう。
「もう時間も時間だし。そろそろ寝ることにするよ。テレシアも部屋に戻るといい」
「いえ。まだ用事は済んでいませんわ」
「ん? まだあるのか?」
「むしろこっちが本命ですわ」
「……?」
するとテレシアは更に近寄った後、少し照れながら話しかけてきた。
「その……今日はお風呂を頂いてから念入りに体を洗いましたの……」
「そ、そうか……」
「ですから準備は万全ですわ。わたくしはこの体にあまり自信はありませんが、ゼスト様が満足していただけるように頑張るつもりです。経験は無いのですが、知識はあるつもりです。どうぞゼスト様のしたいようにして下さいませ」
そういって服を脱ごうとし始める。
ま、まさかこれは……
「い、いやいや! そこまでしなくてもいいよ! そんなつもりで助けたつもりは無いんだし!」
「それともゼスト様は自分で脱がせたいタイプですか? それならこのままベッドで横になったままお待ちしています」
「いやだからそういう目的で助けたわけじゃあ……」
「ああ……これからわたくしはどのようにして辱めを受けるのでしょうか。初めての経験なので楽しみですわ!」
…………………………ん?
「このままゼスト様と共にベッドまで連れていかれそのまま押し倒されるというのも悪くないですね……。そしてそのまま服を脱がされ、ゼスト様の欲望を全て受け止めされるがままに乱れるわたくし……! ああ……一体わたくしはどのようにして犯されていくのでしょうか……うふふふふ…………」
まさかこの子……
犯されている自分の姿を想像して興奮しているのか!?
「見えるようになった今ならその光景を堪能することができます! 真正面からゼスト様の姿を眺めながら楽しめるなんて幸せですわ~!」
これはあれだ。一時的に錯乱しているだけだ。
見えるようになった喜びのあまりハイテンションになっちゃったやつだ。
だから決してこれが
興奮のあまり感情がコントロールできなくなっただけ。
これがテレシアの本性などでは無い――
「そうですわ! いっそのことホーちゃんには少し離れた所に移動してもらって、そこからわたくし達を見てもらうというのも悪くないですわ!」
「ピィ!?!?」
「そうすればゼスト様と共に自分の動きを別視点から眺めることができますわ! 離れた所から見ているのに、わたくしはそこでの感覚は全て感じ取れる……ふふっ……男女の営みを別視点で観察し、且つ自分がその状況を体験できるなんて未知の感覚ですわ……! うふふふふふふふ……」
……………………はずだ。
「さぁゼスト様! ホーちゃんをどこに待機させるのもゼスト様が決めていいですわよ! わたくしは準備万全ですわ!」
「………………」
両手を広げて嬉しそうな表情で見上げるテレシア。
それを無視し、肩に止まっているホーちゃんに視線を移した。
「お前も大変だな……」
「ピュィ…………」
するとホーちゃんは疲れたような様子でまぶたを閉じた。
「ああ! ホーちゃんどうして目を瞑るの!? 何も見えないよぅ……」
ま、まぁとりあえず元気になってよかった。
今のテレシアは単に錯乱しているだけ。酔っ払いのようなもの。一晩経てば元に戻るはずだ。
そうに違いない。そうであってほしい。今回のことは変な夢を見たと思って忘れよう……
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