第166話:闇を照らす光
周囲にモンスターの気配は無い。今倒したクイーンアントが最後だったみたいだ。
安全になったのを確認した後にテレシアに近づく。
「これでしばらくは安全なはずだ。クイーンアントさえ倒せばこれ以上増えることはないだろうしな。大丈夫だったか?」
「はい。皆様が守って下さったお陰で、モンスターに襲われることなく無事で居られました。感謝いたします」
「それはよかった。まぁこの程度なら俺が居なくてもなんとかなっただろうけどな」
ビッグアントは数は多いけど弱いし、クイーンアントも大して強くないし。俺抜きでも十分対処できるはずだ。
とはいえ万が一があったら怖いから警戒してたけどね。
「こんなに数が多いモンスターと戦ったのは初めてだわ。ゴブリンの時より多かったし……」
「さすがにここまで数が多いモンスターはほとんど居ないよ。ビッグアントが稀有な例だと思えばいい」
「そうなのね。でもここまで沢山倒したんだからレベルもかなり上がったんじゃないかしら!」
ラピスは冒険者カードを取り出して見てみるが……
「あれ。1レベルも上がってない……」
「そりゃそうだ。ビッグアントは数が多い分、経験値もかなり少ないからな。比較するのが難しいけど、10匹倒してようやくホーンラビット1匹分ぐらいだと思う」
「そ、そんなに少ないの? あまり狩る気にならないモンスターなのね……」
経験値はかなり不味い。こんだけ狩っても取得できた経験値量は微々たるものだったりする。
「だったらどうしてこんなモンスター狩ることにしたの? レベル上げ目的じゃないの?」
「あ、もしかして素材が目的なんですか?」
そういってフィーネが周囲を見渡す。
「……あ。よ、よく考えたらまとめて燃やし尽くしちゃいましたね……」
ドラモのファイヤーストームで塵となって消えてしまったからな。素材なんて残るはずがなかった。
「も、もしかしてホーちゃんがやりすぎてしまいましたか……?」
「いや関係ない。どうせビッグアントの素材なんて価値が無いからな。クイーンアントも似たようなもんだ」
「そうなんですの?」
「つまりテレシアさんを守りやすくて安定して狩れるから、他の巣穴も同じように討伐して経験値を稼ぐのが目的なんですか?」
「ん-少し違うな」
経験値はゲロマズ。ドロップ品はゴミ。
正直言って、依頼でもなければ狩る価値がないと言えるモンスターといえる。
「経験値目的なら他に安全に狩れるモンスターが居るし、レベル上げにわざわざこんなモンスターを選んだりしない。金にもならないしな」
「ならどうしてここに来たの?」
だが1つだけ利用価値が存在する。
今日来たのはそれが目的だったからだ。
「それはな……熟練度稼ぎをしたかったんだ」
「あ、そっか。忘れてたわ。熟練度を貯めないとスキルが増えないもんね」
「そういうことだ。ビッグアントは熟練度稼ぎにうってつけのモンスターなんだよ」
そう。これが最大の目的だ。
ビッグアントは序盤の熟練度稼ぎとして有名なのだ。
「ラピス達には前に言ったが、熟練度ってのは経験値とは別計算なんだよ。レベルを上げたいのならそれなり強いモンスターを狩るのが効率がいい。しかし熟練度は逆なんだ」
「それってつまり……」
「言ってしまえば、経験値稼ぎは量より質、熟練度稼ぎは質より量が重要なんだよ」
単にレベルを上げたいなら強力なモンスターばかりを狙えばいい。しかし強敵相手となると討伐に時間が掛かるだろう。レベルは上がるだろうが、数を狩れないのが難点だ。
そうなると熟練度は大して増えない。それはつまりスキルが増えないことを意味する。
レベルだけ上げてもただの脳筋キャラにしかならない。
かといって、ビッグアントみたいな雑魚ばかり狩ってもレベルが上がりにくい。スキルは増えるだろうが、そもそも強くなれないのでは意味が無い。
レベルが上がらないということは、適正レベルを満たしにくいということになる。そうなると強力な武器や防具などを装備しても意味が無くなる。
要するにバランスが重要なのだ。
「今回の目的。それはテレシアの熟練度を稼ぎたかったんだ」
「わたくしのですか……?」
「ああ。召喚したモンスターで倒しても熟練度は溜まるからな。だから効率よく稼ぐことができる。ドラモが居るからこそのやり方だけどな」
「熟練度というのが理解できませんでしたが、それを貯めることにどういう意味があるのですか?」
「それはだな。あるスキルが欲しかったんだ」
「あるスキル?」
これが今回の最大の目的。
テレシアにも狩りに参加させる一番の理由だ。
「今から説明する。テレシアの冒険者カード見せてくれないか」
「はい」
テレシアが冒険者カードを取り出し、それを受け取った。
「ん-と………………おっ。あった。よかったちゃんと増えてる」
「そういえば召喚スキル以外は手つかずでしたわ。どのようなスキルが良いのか知識が無かったもので……」
「ん? 手つかずだった? 見たことあるの?」
「はい。生まれつき視力は劣っていたのですが、見ること自体は可能でした。歳を重ねる毎に視力が低下していきましたが……」
「そ、そうだったのか……」
ああそうか。召喚スキルを習得できたってことは、一度見たことあるってことだしな。
冒険者になったばかりの当時はまだ見えていたわけか。
「とりえあずこのスキルを習得してほしい」
「はい」
テレシアがやりやすいように誘導しながらスキルツリーを操作していく。
そして無事に目的のスキルを習得することができた。
「それじゃあさっそく発動してみてくれ。今の覚えたのは『視覚共有』というスキルだ」
「分かりました。やってみます。《視覚共有》!」
スキルを発動させた瞬間、テレシアは驚いたようにうろたえ始めた。
「……ッ!? こ、これは……!?」
「お。うまくいったか」
テレシアは慌てた様子で何度も周囲を見回す。まるで初めて周囲の光景を目の当たりにしたかのようだった。
「え? ど、どうしたの? テレシアに何かあったの?」
「テレシアさんすごく驚いているみたいですけど……」
「大丈夫なのか?」
不安そうに3人がテレシアを見守るが、テレシアは3人が居る方向を向いて動きが止まった。
「み……見えます……! 皆さんが……見えます……!」
「ほ、本当!?」
「はい! あなたは……ラピス様ですか?」
「そうよ! ラピスよ! すごい……本当に見えているのね!」
よかった。しっかり判別できるぐらい見えているようだ。
「お隣にいるのは……フィーネ様とリリィ様ですか?」
「そ、そうです! フィーネです!」
「アタシがリリィだ! すげー! ちゃんと見えてるんだな!」
「はい!!」
テレシアが今まで見せたことないような笑顔で3人に近寄ろうとする。
しかし途中で躓いて転びそうになってしまう。
「あっ……」
「危ない!」
「!」
それをラピスとリリィが咄嗟に動いてテレシアを支えた。
「大丈夫?」
「ご、ごめんなさい。まだ慣れてなくて……」
「ならアタシが支えててやるから。掴まっていろ」
「は、はい。ありがとうございます」
急に見えるようになったせいか、まだ動きがぎこちない感じだった。
ずっと見えてない期間が続いたせいかもしれない。
「で、でもどうしてテレシアさんは見えるようになったんですか? 目は開けてないみたいですけど……」
「それはな。『視覚共有』というスキルのお陰だ。これは自身が召喚したモンスターと視覚を共有できるようになるスキルなんだ」
「ということはつまり、肩に乗っているホーちゃんを通して私達を見ているということですか?」
「その通り。これなら目で見る必要が無いからな。盲目でもいけると思ったんだ」
そう。これが俺が思いついた方法。
それは目を治すのではなく、目の代わりを用意することだった。
やはり目を治す方法は思いつかなった。なので別の方法で何とかするしかなかった。
とはいえこれは賭けだった。何故なら無意味な可能性があったからだ。
視覚共有はモンスターが見ている光景をそのまま見えるようになるが、そもそもこういった使い方は想定されてないはずだ。なので盲目の人には効果が無い可能性があったわけだ。こんなの試したこと無いし、前例がない。
けど無事に見えるようになったみたいだし。成功といってもいいだろう。
「そして…………あなたがゼスト様ですか……?」
「ああ。そうだ。無事に見えるようになったみたいだな。上手くいってよかった」
「はい! これも全てゼスト様のお陰です! ありがとうございます……! 本当にありがとうございます……!」
そして目元から涙が溢れるテレシアであった。
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