第164話:アリ退治

 遠くにはアリ型のモンスターが数匹動き回っている。その近くには地面に穴があり、そこからアリ達が出入りしていた。

 行動そのものは普通のアリと同じである。


「あれを倒せばいいの?」

「そうだ。あれはビッグアントと言ってな。穴を掘って地面に潜るタイプのモンスターなんだ」

「へぇ~。意外と動き遅いのね」


 人間よりも少し小さいぐらいのサイズで通常のアリより何倍も大きいが、その分速度は遅くなっている。

 普通に走れば逃げられる程度には遅い。


「ちょっと数が多そうね。大丈夫かしら」

「ビッグアントは強さは大したことない。個々の強さならゴブリン以下だ」

「あ、そうなのね」

「でもその分数が多い。数ならゴブリン以上。とにかく数が多い。巣穴の中に数百匹は生息しているだろうな」

「そ、そんなに多いんですね……」


 あまり強くない分、数でカバーしてくるタイプのモンスターである。

 弱いと思って舐めてかかると意外と苦戦するだろう。


「それでどうしてあれを倒すの? 他のモンスターではダメなの?」

「理由はいくつかある。ビッグアントは巣穴の中に生息するモンスターだからいちいち探す必要が無い。巣穴周辺で待っていれば向こうから出てくるからな。だから定点狩りができるんだ」

「なるほどね。それは探す手間が省けて楽ね」

「テレシアは目が見えない関係上、あちこち連れ回すわけにはいかん。けれどもここなら歩き回る必要も無く狩ることができる。だからビッグアントを選んだわけだ」


 さすがに盲目の子を連れてずっと歩き回るわけにはいかないからな。可能な限り負担の少ないモンスターを選んだ。

 今の状況には最適といえる相手だろう。


「それって……わたくしを思って考えてくれたやり方なんですか……?」

「まぁね。これならこっちとしてもサポートしやすいし、安全に狩れると思ったんだ」

「嬉しい……! ありがとうございます! 期待に応えられるように頑張ります! それでわたくしは何をすればいいんでしょうか?」

「ドラモを……ホーちゃんを使ってひたすらビッグアントを狩ってほしいんだ。ドラモの性能ならいけるはずだ」

「はい。やってみます」


 テレシアは肩に乗ったドラモを撫でた後、杖を立てて声を出した。


「ホーちゃんお願い。ゼスト様が話していたモンスターを倒して!」

「ピィィィ!」


 ドラモはテレシアに応えるように肩から離れ飛び上がった。

 そして離れた位置に居るビッグアントの方向を向き始めた。


「おっと言い忘れてた。巣穴は攻撃しないでくれ。巣穴を破壊してしまうと違う場所から掘って這い出てくるようになる。そうなると出現位置が予測できなくなるからな」

「承知しました。ホーちゃんもお願いね」

「ピィ!」


 そしてドラモはある程度の高度に達すると、翼を大きく動かし始めた。

 するとビッグアントが居る付近に向かって強烈な風が発生したのだ。それに巻き込まれたビッグアントは次々と切り刻まれていった。


「!? 今の何!?」

「あれはウィンドカッターというスキルだ。風の刃で切り刻むスキルで使いやすい。ラピスが使うソニックアローに少し似てるかもな」

「あーなるほど。そういうタイプのスキルなのね」


 矢による直撃ダメージが無くなって範囲が少し広くなったソニックアローと言ったところだろうか。

 威力はそこまで高くはないが、ビッグアント程度なら十分通用するだろう。その証拠に食らったビッグアントは息絶えている。


「どうでしょうか? 倒せていますか?」

「良い感じだ。その調子で頼む。けどこれから忙しくなるぞ」

「……?」


 仲間がやられたことに気が付いたのか、巣穴から次々とビッグアントが出てくる。

 ビッグアントはこっちから仕掛けない限りは襲ってくることはないが、1匹でも倒してしまうと仲間が大量に湧き出てくるのだ。


「み、見て! どんどん出てくるわよ!」

「こっちに来ます!」


 俺達を脅威と判断したのか、出現したビッグアントはこっちに向かって進軍してきたのだ。

 その間も巣穴から湯水のごとく沸いてくる。


「ほ、本当に数が多いのね……」

「今のうちに倒しましょう!」

「全員ぶっ飛ばしてやる!」


 3人とも戦闘態勢に入るが……


「待てお前ら。このくらいならドラモが倒せるはずだ。テレシアいけるか?」

「はい。ホーちゃんアレをお願い!」

「ピィィィィ!」


 ドラモは相手に向けて口を開いた。そして小さな火の球が出現したのだ。


「だ、大丈夫なの!? さすがに数が多いわよ!」

「いいから見てろって。少し下がっていろ」


 そしてドラモは生成した小さな火の玉をビッグアントの集団に向けて発射。

 発射した球が地面に落下した瞬間――


 一瞬で燃え広がり、大きな炎の竜巻が発生した。


「きゃっ! な、何あれ!?」

「あれはファイヤーストームというスキルだ。広範囲スキルの1つで、ドラモが最初から覚えているんだ」


 炎の竜巻に近くにいたビッグアントは、次々と巻き込まれて黒焦げにしていく。ビッグアントだと耐えきれなかったのか、死体すら残さず消し炭になっていった。

 次第に竜巻が弱まり、しばらく経過すると消滅した。


「す、すごいですね! 数十匹は居たのにほとんど倒しちゃいました……」

「だから言っただろ。ドラモ優秀なんだよ。最初から強い上に飛べるし、扱いやすいから初心者にはオススメのモンスターだ」

「こんなに強いのね。確かに目が見えなくても戦っていけるわね……」


 スキルを放った後のドラモは、テレシアに近づいて肩に止まった。


「どうでしょうか? うまくいきましたか?」

「ああ十分だ。この調子でどんどん倒すぞ」


 地上に出てきた分は一掃することはできたが、巣穴から次々と新しいのが絶えることなく出てきている。

 もう完全に俺達を敵と認識しているだろう。


「ファイヤーストームは連続では使えん。だからその間に俺達が食い止めるんだ。ちと数が多いけどいけるな?」

「そういうことね! やってやるわ!」

「はい! 私はテレシアさんの近くで守りながら戦います!」

「片っ端からぶっ飛ばせばいいんだろ? なら任せろ!」


 それぞれが武器を構えて動き出す。


「おっしゃ。いくぞ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る