第162話:運命の出会い
「あ、あの! どうかされましたか?」
「い、いや! 何でもない! 気になってたこと思い出しただけだよ!」
「は、はぁ……」
いかん。思わず叫んでしまった。
あの胡散臭い占い師が言っていたことは軽く聞き流していたからな。まさか本当に当たるとは思わなかった。
ただのインチキ占い師じゃなかったのか。
「ではわたくしはこれで失礼しますわ」
「う、うん。本当にごめんな。次は気を付けるよ」
「はい。それではまた」
そして少女はゆっくりと歩き出し始めた。
なんとく目で追っていると、肩に乗った鳥……もとい、ドラモが小さく鳴いたり少女の頭を軽く突いたりしていた。
なるほど。あのドラモは盲導犬みたいな役割を果たしているのか。
そんな光景を眺めつつ俺は悩んでいた。
あの占い師の言っていたことについてだ。あの盲目の少女を救えるのは俺しかないとか言っていたからな。
俺に目の病を治せってことなんだろうか。
だが…………無理だ。俺にはそんな術はない。
これが外傷による失明だったなら何とかなったかもしれない。しかし生まれつきの病となれば話は別だ。さすがに病を治すことは無理だ。
状態異常などのデバフを治すスキルなら存在する。だが病そのものを治すスキルは存在しないのだ。
そんなアイテムも無かったはず。
しかし占い師によると俺しか治せないとか言っていた。
本当に俺が治せるんだろうか。本当にそんな方法が存在するんだろうか。本当にそんなことが可能なんだろうか……?
……いやいや。やはり無理だ。
何度考えてもそんな方法は思いつかない。目の病を治すなんてどう考えても俺にはできない。
なのに占い師に言っていたことが気になる。一応は盲目の少女との遭遇については的中していたからな。それなら俺が治すことも的中しているかもしれない。
そう思うと無視することはできなかった。
だがどうやって治す?
まさか俺すら知らないアイテムが存在するのか?
それとも盲目を治す薬を新たに作り出せってか?
…………やっぱり無理だ。
こればかりはどうしようもない。そんな都合のいい方法があったならとっくに閃いている。
俺には無理なのか……
あの優しい少女を救うことはできないのか…………
………………
…………待てよ?
ひょっとしたら……
いや。これしかない。
もうこれ以外に思いつかない。
「ま、待って!」
「はい?」
叫んだ瞬間、少女は立ち止まって振り向いた。
「あ……その……」
「?」
思いついた瞬間に叫んでしまった。
ええい。ここまできたらやるしかない!
「あ、あのさ……もしかしたら……それ……何とかなるかもしれない」
「それ……とは?」
「その目のことさ。俺なら何とかなるかも……」
「……ッ!」
少女は明らかに驚いているようだった。
無理もないか。いきなりこんなことを言われたら誰だって驚くだろう。
「それは本当ですか?」
「いや……その……あくまで可能性の話なんだ。確証はない。俺も試したことないし成功するかどうかも分からない」
「…………」
「もしかしたら失敗してぬか喜びで終わるかもしれない。それでもいいのなら任せてもらえないかな……?」
「…………」
少女はその場で考え込むように黙ってしまった。
そして少し経った後、ゆっくりと喋り始めた。
「一つ……聞いてもよろしいですか?」
「あ、うん。何でも聞いて」
「どうして……わたくしに対してそこまでしてくれるのですか? さっき出会ったばかりのわたくしに」
当然の疑問だろう。この子にとってはついさっき知り合ったばかりだしな。
「それは……何というか……すごいと思ったからかな?」
「何がですか?」
「君のことだよ。目が見えないのに冒険者としてやっていくなんて普通は不可能としか思えない。少なくとも俺には無理だ。しかしそれでも冒険者として生き延びている。そんな君だからこそ、救いたいと思ったんだ」
「…………」
盲目という凄まじいハンデを背負いながらも冒険者として食いつないでいる。そんなことは並大抵の努力ではできないはずだ。
単に稼ぐだけならもっと楽な方法があったはずだ。しかし盲目の人なら一番厳しいはずの冒険者という道を選んだ。
そんな子を救いたいと思ったから声を上げてしまったんだろう。
恐らく占いの件が無くてもこうしていたはず。
ぶつかってしまった俺に対して怒らず、優しく接してくれた。責めることなく許してくれた。こんなに良い子がずっと暗闇の世界に居ていいはずがない。
だから何とかしたかった。
「さっきも言ったけど、確実に解決できる保証は無い。俺も試したことのない未知の方法だしね。それでもいいのなら、俺に付いてきてくれないだろうか」
「…………はい。それならお願いしますね」
「えっ」
あれ。こんなにアッサリ信用してくれるの?
「ま、待って。俺が言うのもなんだけどさ。そんな簡単に信用してもいいの?」
「貴方から騙そうとする気配を感じませんわ。本当に騙す気ならもっと強引な手段を取ると思いますし。それに……」
「それに?」
「嬉しかったんです。わたくしのことを単に同情だけで終わらすのではなく、目を治そうとして手を指し伸ばしてくれたことに。お医者様でも匙を投げてしまうような病なのに、わたくしを見捨てずに知恵を絞ってくれた。そのような方だからこそ信用してみたかったんです」
「な、なるほど……」
やはり医者でも治せなかったのか。
となるともはやアレしかない。
「お名前を聞いてもよろしいですか?」
「俺はゼストだ。君は?」
「わたくしはテレシアと申します。それではお願いしますね。ゼスト様」
「ああ。よろしく」
こうして俺とテレシアは行動に移すべく、一旦屋敷に帰ることになった。
屋敷に戻り、玄関のドアを開けた。そして後ろに付いてきたテレシアの手を引いて一緒に中へと入った。
俺達が中に入ると、他の皆はすぐに気づいたみたいだ。
「おかえり……って、その子だーれ? 肩に鳥?……が乗ってるけど」
「ゼストさんの知り合いですか?」
「どうしたの?」
俺の隣に居るテレシアの存在に興味を持ったのか、次々と近づいてくる。
「ちょっと色々あってな。さっきこの子と出会ったんだ。一旦ここに連れてくることにしたんだ」
「皆さん初めまして。わたくしはテレシアと申します。ゼスト様が病を治す手がかりをご存じとのことなので、お願いすることに致しました。ご迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします」
「え? 病? どういうこと?」
「今から説明するよ。実はな――」
俺はテレシアが出会った時のこと、テレシアが盲目の冒険者であることを話した。
皆は興味津々に聞いていたが、盲目と聞くと驚きを隠せないでいた。
「目が見えないの……!? かわいそう……」
「生まれつきの病だなんて……そんな……」
「見えてないのか……」
「……ッ!」
やはり盲目と知ってからは全員が同情的だ。
一気に場の雰囲気が暗くなった。
「というわけだからさ。なんとかしようと思ってな。皆も協力してくれないか?」
「もちろんよ! あたしができることなら何でもやるわ!」
「私も協力します! 何でも言ってください!」
「よくわからないけどぶっ飛ばしたいならアタシに任せろ!」
「わ、私も手伝うよ!」
本当にいい奴らだ。考える間でもなく即答してくれた。
「それで何をすればいいの?」
「これからあることをしに行こうと思うんだ」
もうあの方法しか思いつかない。
アレに賭けるしかない……!
「それはな…………………………『アリ退治』だ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます