第161話:盲目の冒険者

 俺は今は1人で街で歩き回っている。歩きながらリーズについて悩んでいた。

 毎回討伐に出かける度に一人で留守番させるのも心が痛む。けど現状はこうせざるを得ない状況だ。

 他に誰かが居てくれたなら寂しさも紛れるはずだ。一人きりになるよりマシだ。


 だけど常にリーズと一緒に居てくれる人物が思いつかない。

 性格が良く、口が堅く、信用があって、リーズと仲良くできそうで、安心して任せられるような人物。

 そんな都合のいい人が存在するんだろうか?


 何度考えてもそんな都合のいい人物を思いつかない。

 ここはやはりラピスとフィーネに残ってもらうしかないんだろうか。


 う~ん………………どうするかな…………


 やはり効率落としてでも――


「! ピィィィ!」

「きゃっ……!」

「うおっ」


 歩いていると、前に居た人とぶつかりよろけてしまった。

 俺は少しフラついただけだったが、相手は地面に転んでしまったようだ。


「……あっ! ご、ごめん! 大丈夫!?」


 やっべ。考え事をしながら歩いてたら人とぶつかってしまった。

 すぐに相手に近寄ろうと急ぐが……


「ピィィィ! ピィィィ! ピィィィィィィィ!!!!」

「うおっ!? な、なんだこの鳥は!?」


 俺の周囲に大きい鳥が威嚇しながら飛びまわてきたのだ。

 明らかに敵意丸出しで鳴きまくってる。


「! ホーちゃん止めて! わたくしは大丈夫だから!」

「ピィ?」

「転んだだけだから……どこもケガしてませんから……! 落ち着いて!」

「ピィ……」


 どうやら相手は少女のようだった。

 少女が叫んだ後、鳥は俺から離れて少女の元へと飛んで行った。


「い、今のは一体……」

「今のはわたくしが召喚したモンスターなんです。驚かせてしまって申し訳ありません……」

「あ、そ、そうなんだ……」


 そういや見たことある鳥だと思ったんだよな。

 まさかこんな街中で見かけるとは思わなかったが……ってそれよりも!


「そ、そうだ! 大丈夫か!? すまん前見てなかった!」

「平気ですよ。尻もちついてしまっただけですわ。どこもケガはしていませんよ」

「そ、それは良かった……」

「えーと……杖は……」

「杖?」


 そういやこの子は杖をつきながら歩いていた気がする。転んだ時に杖を落としてしまったんだろう。

 まだかなり若そうな見た目をしているのに杖を使っていることに疑問に思ったが、そんな謎はすぐに判明することになる。


 少女の様子がおかしいのだ。

 杖はすぐ近くに落ちているのに手に取ろうとしない。手を伸ばせば届く範囲にあるのにその方向に向こうとしない。

 ずっと地面を触りながら手を動かしているのだ。まるで暗闇の中で物を探すような仕草だった。

 これはまさか……


「あ、あのさ……ひょっとして君は……」

「はい……わたくしは生まれつき目が不自由なんです」

「そうだったのか……」


 だから杖を使っていたのか。道理で様子がおかしいと思った。

 この子はずっと盲目のままだったのか。


「ピィ!」

「あ……ホーちゃんありがとう」


 鳥が杖を掴み、少女の手元まで移動させた。

 そして少女は杖を掴むと、ゆっくりと立ち上がった。そして立ち上がった少女の肩に鳥が降り立った。


「本当に大丈夫なのか? どこか痛くないか?」

「大丈夫ですわ。ちょっと転んだだけですもの。これくらいなら慣れていますから」

「ごめんな。俺がちゃんと前見てなかったからぶつかってしまって……」

「気にしないでください。誰にでもミスはありますから。そんなに自分を責めないでください」


 マジでやらかした。こんないい子を転ばしてしまうとはな。

 考えながら歩き回るもんじゃないな。反省せねば。


「とはいえ完全に俺の落ち度だし。気にするなって言われても……」

「わたくしはこれくらいで責めるつもりはありませんわ。どこもケガしていませんし。ですから本当に気にしなくていいんですよ。全部許します」

「そ、そうか……ならいいんだけど……ってあれ? 何か落ちてる」


 近くに落ちていた物を拾い上げる。これは冒険者カードだな。

 しかし俺の物じゃない。ということはもしかして……


「冒険者カードが落ちてたんだけど、まさか君のだったり?」

「え……? あ……わたくしの無い……」


 少女は自分のポケットを漁っていたが、すぐに紛失していたことに気づいたみたいだ。

 だが冒険者カードってのは冒険者が持つ物だ。冒険者でもない人が持っていても意味がない。

 ということはこの子も冒険者として活動しているのか……?


「もしかして君も冒険者なの?」

「はい。とは言ってもまだEランクですけど……」

「マジで……? でも目が見えてないのに戦えるの……?」

「この子が代わりに戦ってくれています。わたくしは素材を集めることしかできませんわ」


 そういって肩に止まっている鳥を撫でた。

 なるほどな。召喚したモンスターに全て任せているわけか。それなら盲目でも討伐することは一応は可能だ。

 しかしそれでもかなりのハンデを背負っていることには変わりない。『見えなくてもできる』と『見ることができない』では全く違うからな。

 まさか盲目の冒険者が居るとは驚いたな。


「あの……どうかされましたか?」

「あ、い、いや、何でもない。これ返すよ」

「はい。拾ってくださりありがとうございます」

「俺のせいで落としたんだろうし、お礼は要らないよ」

「それでもですよ。もしかしたら歩いている時に落としてしまったかもしれませんし。気づいて拾ってくださったのは事実ですわ」

「そいうものか……」

「はい」


 少女は手を差し出してきたので、冒険者カードをその手の上に乗せた。


 優しい人だなぁ。明らかに俺が悪いのに寛大な心で許してくれたし。

 こんないい子が盲目だなんて本当に気の毒だ。

 見た目も可愛いし、冒険者だなんて信じられないぐらいに……


 ………………


 ……あれ。

 この子どっかで見たことある気がする。


「ちょっと聞きたいんだけどさ。前に俺と会ったことあるっけ?」

「さぁ……? 初対面だと思いますが……」

「そっか……」


 んー……前にも見たことある気がする。

 こんな特徴的な子はそう簡単には忘れらないと思うんだけどな。しかしどこで会ったのか思い出せない。

 初対面なはずのに何故か印象に残っている。


 どこで見たんだっけか……


 う~ん…………………………


 そういやよく見ると、少女に肩に乗っている鳥はドラモだった。

 外見がドラゴンみたいな姿になっているから『ドラゴンモドキ』というモンスター名になっている。だから略してドラモと呼ばれている。


 うん? ドラモ……?


 ………………あっ! 思い出した!!!!

 やっぱり前に見たことある子だ。


 たしかラピスとフィーネと一緒にオーク狩りに向かう道中ですれ違ったんだ。その時に召喚スキルの話題になったんだよな。

 まだ若いのに杖をついて歩いていたから妙に印象に残ってたんだ。もしかしたらケガでもしていたせいで杖を使っていたんだと思っていたが……なるほど。こういうことだったのか。


 やはり以前に見かけたことがあったんだ。そりゃあ既視感があって当然だわな。

 思い出せてスッキリ………………………………できていない。


 何故かまだ心にモヤモヤが残っている。

 以前にすれ違った時以外にも知る機会があったはず。確証はないはずのにそんな気がした。


 だがどこで見かけたんだろう?

 すれ違ったのは一度だけだったはず。何度も姿を見る機会は無いはずなんだ。

 しかし不思議と別の場所で知ったような気がしてならない。


 特徴的のある子だから、すぐに思い出せそうなはずなんだ。しかし何度思い出そうとしても思い出せない。

 俺の思い違いだろうか。もしかして別人と勘違いしているんだろうか。


 うーん……スッキリしない……


 いや待てよ?

 この目で見たわけではないかもしれない。直接見たわけではなく、似たような特徴を聞いたことがあったような気がする。

 だけどそれはそれで思い出せない。結局のところ、いつ知ったのかが不明のままだしな。


 思い出せ……思い出すんだ……

 この子のこと知る機会なんて限られているはずだ。

 普段は起こらないような出来事で知ったはず。


 盲目の子を知るような機会か……


 盲目の冒険者……目が見えない……


 となると……見えない状態……暗闇………………


 ……………………


 …………暗闇?


「あ……あ……ああああああああ!」

「きゃっ! ど、どうかしましたか!?」


 そうだ思い出した! あの胡散臭い占い師のことだ!

 確かずっと暗闇に覆われていて不幸な女性と出会う……みたいなこと言っていた気がする。

 暗闇ってのは比喩的な表現ではなく、本当に何も見えなくて暗闇の覆われていたとしたら……?


 あの時、占い師に言われた特徴とほぼ一致している。


 まさかこの子のことなのか……?


 運命の出会いって……この盲目の少女のことだったのか……?

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