第160話:キャパオーバー

 今日も冒険者らしく討伐をしに行く。全員が準備を終えたので後は狩場へ向かうだけだ。

 玄関に向かう前、リーズに話しかけてから出発するつもりだった。


「俺達は討伐しにいくから、リーズは留守番頼んだ」

「え……? 私は一緒に行けないの?」

「あれ? リーズちゃんも連れて行かないの?」


 あーそうだ。皆に伝えるの忘れてたな。


「うん。しばらくはいつものメンバーで行くつもりだよ」

「ど、どうして私は行けないの? ゼストくんが行くなら私も一緒がいい!」

「リーズちゃん1人だけ残すのは寂しそうじゃない? だから一緒だと思ってたんだけど」

「ん~……それなんだけど……。実はキャパオーバー気味なんだよな……」

「どういうことですか?」


 俺だって何も考えて無かったわけじゃない。

 これにはちゃんとした理由がある。


「俺はさ。戦ってる時はラピス、フィーネ、リリィの3人を状況を見ながらやってるんだよね」

「そうね。いつもそうして見てもらってるわけだし」

「そこにリーズも加わるとなると管理しきれないんだよ。只でさえ3人分に意識を割いているのに、リーズも含めて4人となると頭が混乱して訳わかんなくなる。さすがに俺には無理だ」

「な、なるほど。大変なのね……」


 そもそもこういった教えながら戦うようなスタイルは慣れているわけじゃないしな。大抵は自分のことで手一杯だし、いつも余所見できるような余裕があるわけではない。

 連携して戦うパーティプレイとはまた違う対応力を求められるからな。そういった方面のやり方は経験が無いに等しい。


 さすがに3人同時の動きを見続けるのは厳しいから、基本的にはラピスとフィーネの動きに意識を集中していることが多い。リリィは最初から狩りに慣れていたし、後回しでも問題無いと思っていたからだ。

 だがそれが原因でリリィの使っている武器に気づくのが遅れてしまった。あのまま適正レベル不足の武器を使い続けていたら、リリィはいつまでもスキルを使えない脳筋スタイルのままだっただろう。


 現状でも3人をまともに見れていないのに、さらに1人追加となったら管理できる自信が無い。


「それならあたしが抜けようか? あたしの代わりにリーズちゃんを入れたらどう?」

「そういうわけにもいかん。せっかく理想的なパーティ構成になってるんだから、当分はこの面子を崩したくない」

「そ、そうなのね。難しいわね……」


 バランス的にも悪くない構成になっているし。安定して狩りができるのだからこの状況を維持したい。


「というかリーズはまだ冒険者として未経験だからな。実力差がありすぎる。無理に連れて行っても何もできないと思うぞ」

「それならゼストさんがリーズちゃんと2人きりで教わるのはどうですか? 最初に私とお姉ちゃんにしてくれたみたいに」

「それも考えたんだが……今は俺も討伐に行きたいんだよ。ここ最近はまともに狩りをしてなかったからな」

「色々あったもんね……」


 リリィの故郷に行ってきたあたりからあまりモンスターを狩れていない。その後にリーズを助けに向かったからな。

 もう何日もモンスターを狩ってない気がする。


「でもそれだけなら問題無いんじゃないの? 討伐なら何時でもできるじゃない」

「忘れてないか? 俺はレオンさんの商会と専属契約している身なんだよ。契約する際に定期的に素材を納品するという条件を出されているんだ。そろそろ成果を出しておかないとレオンさんにも迷惑が掛かってしまう。だから何日もサボるわけにはいかないんだよ」

「あー。そういやそんなこと言ってたわね」


 契約する時にもこういったデメリットは覚悟の上だったしな。多少の自由が無くなるのは仕方ないといえる。

 ついでに言えば、個人的にもディナイアル商会に貢献したいんだよな。レオンさんはリーズの情報を集めてくれたわけだし。色々と世話になっている。

 だからお礼というわけではないけど、可能な限り成果を出して貢献したいのが本音だ。


「あと初心者のリーズが行けるような狩場ってのは安全な地帯に限られる。そうなると当然、人通りが多くなってしまう。ラピスとフィーネなら分かるだろ?」

「そうね。昔のあたしは街の近くのモンスターを狙っていたもん。なるべくすぐ帰れるように」

「そういった場所だったからゼストさんにも出会えましたし」


 セレスティア付近は低レベルで狩れる程度のモンスターしかいない。

 まぁセレスティアはゲームを開始して初めてくる地点でもあったし。いきなり強敵ばかりを配置するわけにもいかない。

 ゲームにはよくある設定だ。


「それがどうかしたの?」

「リーズは無理やり攫ってきたようなもんだからな。もしかしたら追手がセレスティアまで来るかもしれん。だからなるべく姿を晒したくないんだよ。しばらくは身を隠していた方がいい」

「あ。そういえばそうだったわね……」

「ならリリィさんはどうするんですか? 似たような立場だと思うんですけど」

「リリィには街中で移動する時にはローブを着てもらう。全身が隠れるぐらいのやつな」


 以前にもローブを着てもらったことがあるしな。あれをまた利用する。

 だがリリィは少し不満気だ。


「もしかして前にゼストに借りたあの大きな布のことか?」

「うん。リリィの顔や体型もギリギリ隠せてたし。また貸すよ」

「でもあれって動き難いんだよなぁ……」

「だから街中を歩く時だけだってば。狩場は脱げばいい」

「それならいいや!」


 途端にスッキリしたような笑顔になるリリィ。

 さっき不満そうにしていたのは、戦う時にも着ると思っていたからか。さすがにそこまで無茶なことを押し付ける気はない。


「リーズ。今の話聞いただろ? 何れにしろしばらくは外に出歩かないほうがいい。だから留守番しててくれないか?」

「………………うん。ゼストくんがそういうのなら……」


 寂しそうな表情で見つめてきて心が痛むが、こればかりは仕方ない。

 リーズのためでもあるんだ。


「ごめんな。また今度教えてやるから。しばらくは我慢しててほしい」

「うん……分かった」

「それじゃあ行ってくる」


 リーズを軽く撫でた後、玄関へと向かった。


「1人で残るのは寂しそうね……今日は早めに帰ろっか」

「そうだね。リーズちゃんが心配だし。今日はいつもより早く引き上げませんか?」

「そのつもりだよ。俺だって心配なんだし」


 そして準備を終えた俺達は狩場へと向かうことにした。


 当分の間はこのような状況が続くだろう。

 できれば俺達以外に誰かリーズと一緒に居てくれる人が現れたらいいんだけどな。


 誰かいないかな……

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