第159話:甘えるリーズ

 道中は何事も無く無事にセレスティアに到着。

 それからはランドールが衛兵の元へ行き、話した通りに自首することになった。


 ランドール自身はそこまで悪質なことはしてないだろうし、エンペラーの内部情報を持っている。そこまで酷い扱いはされないはずだ。

 これからどうなるかは分からないが、ランドールが選んだ道だ。後悔はしていないだろう。

 いつかまた会える日がくるのだろうか。


 そんなことを考えながら、離れていくランドールの背中を眺めていた。




 その後、俺達は住んでいる屋敷へと到着。

 するとリーズが驚いた表情で眺めていた。


「こ、ここにゼスト君が住んでいるの……!?」

「ま、まぁね。本当はここまで大きい屋敷に住む予定は無かったんだけど、勢いで買っちゃったんだよね……」

「す、すごい……」


 とはいえ、人数が増えてきたから結果的には買って正解だった。

 何が起きるか分からんもんだ。


「そうよね。あたしもビックリしちゃったもん。こんなに広い所に住むなんて想像すらして無かったわ」

「広すぎて未だに落ち着かない時がありますけどね……」

「そうか? 広いからアタシは好きだぞ!」


 ま、リーズもその内慣れるだろう。


「とりあえず中に入ろう」

「うん」


 そして皆で入り、それぞれ気が抜けたようにくつろぎ始めた。


「モンスターと戦ったわけじゃないのに何だか疲れちゃったわ……。そうだ。お風呂入りましょ! あたし準備してくるわ!」

「あ、じゃあ私も手伝うよ」


 そしてラピスとフィーネは風呂場へと向かっていった。


「リーズも疲れただろう。余ってる部屋に案内するよ。そこで一休みするといい」

「い、いいよ! 私はゼスト君と一緒の部屋がいい!」

「え。で、でも……1人になりたくないのか?」

「一緒がいい!」

「う……」


 う……捨てられた子犬のような目で見上げてくる。

 さすがにそんな表情で見つめられたら断れん……


「わ、分かったよ。俺の部屋に案内するよ。でもどうせ部屋は余ってるし、いつでもそっち使ってもいいからな」

「やったぁ!」


 ひょっとしてリヒベル国に連れていかれてからずっと怖い思いをしてたのだろう。だから誰かと一緒に居てくれたほうが安心するのかもしれない。

 しばらくは側に居てやろう。


 その後はリーズと一緒に部屋に入ったのだが……


「~♪」

「うう……」


 膝の上にリーズが座り、俺はひたすら撫で続けていた。


「あの……そろそろ止めてもいいかな……?」

「や!」

「腕がきついんだけど……」


 リーズのお願い命令で撫で続けることになったんだが、いつまで経っても解放されずにいた。

 長時間撫で続けてもはやナデナデマシーンと化していて、俺の腕は悲鳴を上げていた。


「また今度やってやるからさ……もういいだろ?」

「だめ!」


 ずっとこんな調子で止めさせてくれない。

 膝の上に座られてるから離れることもできないし、手を止めると頭を押し付けてくる。


「どうしてこんなことさせるんだ? このくらいならいつでもやってやるのに」

「…………寂しかった」

「え?」

「ゼストくんが居なくなってから……寂しかったんだもん……」

「そ、それは仕方ないだろう。何が起こるか分からなかったし。リーズまで巻き込みたくなかったんだよ」

「それでも一緒が良かった……」


 俺が孤児院から出てからそこまで寂しい思いをしてたのか。

 そういや孤児院に居る子の中で、特に懐いていたのはリーズだったっけか。それでも俺以外の子とも仲が良かったし、俺が居なくても問題ないと思ってたんだけどな。

 まさかここまで依存されていたとは……


「だからゼストくんが居なくなってからできなかった分までやるの!」


 こう言われてしまうと弱い。

 寂しい思いをさせてしまったのは事実だし、満足するまで撫でるしかないのか……


「わ、わかったよ……」

「手が止まってる!」


 とはいえもう腕も限界だ。もう小一時間ぐらい撫でてる気がする。

 一体いつになったら解放されるんだろうか……


「頼むからまた今度にしてくれないか? 今日はもう疲れたよ……」

「だめっ!」

「なぁ……リーズぅ……」

「だ~めっ♪」

「うう……」


 結局その後も付き合わされ、ひたすら撫で続けることになった。

 明日は筋肉痛になってないことを祈ろう……




 夜になりベッドに入ると、リーズも続けて入って身を寄せてきた。


「えへへ……ゼストくんと一緒に寝るのは久しぶりだね」

「そうだな。孤児院の居た時は狭かったからこうやって寄り添っていたっけ」


 孤児院はお世辞にも良い環境とは言えなかったし。夜は冷えるんだよな。

 だから俺達以外の子供も寄り添いながら寝ることが多かった。


「とりあえずもう寝るぞ。おやすみ」

「うん。おやすみなさい」


 そして目を閉じて寝ることにした。

 しばらくそうしてリラックスしていると、隣からやけに鼻息がうるさく聞こえてきたのだ。


「リーズ? どうしたんだ?」

「ゼストくんのにおいが……するから……」

「え? そ、そんなに臭かったのか!?」


 風呂には入ったし。服も着替えた。

 なのに気になるぐらい臭かったのかな……?


「ううん。違うの。ゼストくんのにおい……嗅いでいると……すごく落ち着くの……」

「そ、そうか……」


 臭くて気になったとかじゃないのか。なら気にしなくてもいいのかな。

 そういや孤児院に居た時もたまに嗅がれていたような気がする。俺ってそんなに変わった香りがするんだろうか。

 まぁいいか。臭くて避けられるよりはマシだ。


 リーズを気にせず寝ることにした。

 しばらくすると鼻息も聞こえなくなり、静まり返った。

 そのまま眠りにつこうと思っていた時だった。


「ごめんね。私のせいで迷惑かけて……」

「ん? どうした急に」

「でも私のこと助けに来てくれて。嬉しかった」

「直接助け出してくれたのはリリィだけどな。お礼ならリリィに言うといい」

「うん。もう言ってある。そしたらゼストに恩が返したくてやった事だから気にするな……って言ってた」


 リリィがそんなこと言ってたのか。

 なんというかリリィらしい反応だな。


「でもね。ゼストくんが来てくれたから助かったのは変わりないよ。ゼストくんが居なかったらリリィお姉ちゃんも来なかっただろうし。本当にありがとね」

「ま。リーズが無事でよかったよ」


 実際リリィのお陰で救出できたわけだしな。また明日に改めてお礼言っておこうかな。


「私は……ずっとここに居ていいの?」

「リーズが望むならいくらでも居ていいよ。ここは俺の家だしな」

「本当!?」


 腕に抱き着かれていた感覚が消えると同時に嬉しそうな声が聞こえてきた。

 気になって目を開けてみると、リーズが上半身を起こして俺を見下ろしていた。


「じゃあこれからもゼストくんと一緒に住めるの!?」

「別に追い出したりしないから安心しろよ。リーズの好きにしたらいい」

「本当!?」

「ああ。どうせ部屋は余ってるしな。いくらでも居ていいぞ」

「! それじゃあ……」


 そういって顔を近づけてくる。


 そして――


「……ッ!?」


 お互いの唇が重なり――キスをしてきた。


「これからもよろしくね。ゼストくん」

「!?!? リ、リーズ!?」

「えへへ……」


 リーズはベッドに潜り込み、俺の腕に抱きついてきた。


 ビ、ビックリした……

 まさかいきなりキスされるとはな……


 今のキスは助けたお礼のつもりだったのか、それとも……

 ……いや。深く考えるのはよそう。

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