第158話:☆遺志を継ぐ者
ここはエンペラーの砦。その頂上である。
そのとある場所に多くの人数が詰め寄るように集まっていた。
「!?!?!?」
「あ、あれ!? 奴らどこ行ったんだ!?」
「目の前で消えたぞ!?!? どうなってやがる!?」
その場に居る人が全員信じられない光景を見たような表情で辺りを見回していた。
驚くのも無理ない。何故なら目の前に居た3人と古代兵器が一瞬で消えたのだから。
ゼストがマンタの能力で脱出した後、その場に残された人達は何が起きたのか理解できずに困惑していた。
「くそっ! 奴らどこに逃げたんだ!?」
「探せぇぇぇ! エンペラーを舐めた糞野郎どもを逃がすな!!」
その場に居る全員が周囲を探し始める。
そんな時だった。
「こっちです! ダイモスさん!」
「ん~?」
出入口から2人の男が姿を現したのだ。
前方に居る男はキングが倒れている付近を指差し、後方に居た男は指差した方向を凝視した。
「侵入者がキング様と戦ってたんです! キング様なら勝てると思ってたんですが負けたみたいで……」
「ありゃ~。キング君やられちゃったの~? 参ったねこりゃあ……」
後方に居た男……ダイモスと呼ばれた男は悲壮感を全く感じさせない様子で頭をポリポリと掻いた。
ダイモスは寝ぐせが付いていて無精ヒゲを生やした姿のままであった。まるでついさっきまで寝ていたかのような恰好である。
「そうなんですよ! まさかキング様死んでいませんよね!?」
「う~ん。あの様子じゃあ手遅れだと思うけどなぁ……」
「そ、そんな……ダイモスさん! 何とかならないんですか!?」
「無茶言わないでくれ。いくらなんでも死者を生き返らすなんて不可能だよ」
そういってダイモスは気だるそうにため息をついた。
「く……くそぉ! 侵入者め……! キング様を暗殺するなんて! ちくしょう……!」
「う~ん……」
前方に居る男は目に涙を浮かべて悲しんでいるのに対し、ダイモスは考え込むような表情で目の前の光景を眺めていた。
2人にはかなりの温度差があったが、誰も気にした様子は無かった。
「そういやさ。侵入者ってどんな奴だったの? キング君を倒せる実力ならそれなり有名になっていてもおかしくないと思うんだけど」
「さ、さぁ? 3人組でしたけど、キング様と戦ったのは1人でしたよ」
「そいつに見覚えはあるかい?」
「い、いや。おれはそんなに詳しくないし、あまり強そうに見えなかったからよく覚えてないです。キング様が刺された直後にダイモスさんを呼びに行ったので」
「ふ~ん……」
ダイモスは無精ヒゲを触りながら考える。
(アティラリが完成したタイミングでやってきたということは、リヒベル国の刺客か? けどそれにしては来るのが早すぎる。元々エンペラーにスパイが紛れ込んでいることを考慮しても、情報の伝達が異常に早い)
砦の周囲を見回した後に再びヒゲを撫で始める。
(予め砦の周囲に待機させとかないとここまで迅速に動けないはず。だがそれならもっと大人数で攻め込んでいるはずだ。たった3人しか来なかったってのが気になるな。少数精鋭でやるとしても相当な自信が無いとできないはず。リヒベル国にそこまでの人材が居ただろうか? 何か引っかかるな……)
ダイモスが思考している最中、他の人は周囲を探しつつも何も見つからず諦めかけていた。
そして徐々に動きが止まり、キングが死んだことに悲しみを覚える。
「くそ……どうしてこんなことに……」
「キング様……」
悲しみは連鎖していき、誰もが肩を落として落ち込んでいた。
まるで葬式会場のような雰囲気で皆悲しんでいた。
そんな時だった。
「そうだ…………キング様の代わりに……ダイモスさんが……エンペラーの頭になってくれたらいいんじゃないか?」
誰かがポツリと声を出した。
「…………! それはいいかもな……」
「ああ……ダイモスさんなら文句はない」
「キング様の代わりになれるのはダイモスさんが一番相応しい!」
「いいかもな……」
「おれは賛成だ!」
「おれもおれも!」
「……え?」
当のダイモス本人は思考を止めて周囲の様子に困惑していた。
「それは名案だ! ダイモスさん! エンペラーの頭になってくれませんか!」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 僕はそんな器なんかじゃあ……」
「お願いします! ダイモスさん! いや、ダイモス様!」
「いやだから。僕には相応しくないって……」
「ダイモス様! あなたしか居ないです! お願いします!」
「いやだから……」
「ダイモス様!」
「「「「「ダイモス様!」」」」」
周囲の人全員がダイモスを見つめる。
ダイモスもそんな様子に困惑していたが、諦めたようにため息をついた。
「はぁ……分かったよ。僕がエンペラーの頭になるよ。仕方ない……」
「おおおお!!」
「やったぁ!」
「ダイモス様!」
ついさっきまでの雰囲気を感じさせないぐらい場が盛り上がる。
大事な人が殺されたばかりとは思えない様子で歓喜の声で溢れかえっていた。
「そんじゃさっそく頭としての命令だ。周囲の捜索してくれ。もしかしたらまだ仲間がいるかもしれん。それと砦の中を調べてほしい。他にも被害があるかもしれないからね。頼んだ」
「「「「「はい!」」」」」
次々とその場から離れていき、その場にはダイモス1人だけが残った。
その場に残ったダイモスはキングが倒れている方に振り向き、ゆっくりと歩いて行った。
「ふむ……」
そして足を止め、既に息絶えたキングを見下ろした。
「キング君。君にはカリスマがあり、相応実力もあってみんな惹かれていた。だからこそエンペラーがここまで成長できたんだ。そんな君を陰ながら支えている立場も悪くなかったんだがね。まさかこんなタイミングでやられるとは思わなかったよ。本当に残念だ……」
ダイモスは先程見せなかった寂しげな表情でキングを見つめた。
「僕は組織のトップに立つような器じゃないんだがね。だけどこうなった以上は仕方ない。君の遺志は僕が引き継ごう。だから安心して眠りたまえ」
キングから目を離し、アティラリが設置してあった場所を眺めた。
「しかしこうもアッサリ奪っていくとはね。リヒベル国の連中は僕らに使わせるのは惜しくなったのか? やれやれ。気まぐれなのはカンベンしてほしいね」
だがダイモスの表情からは悔しさを全く思わせないほどに平然としている。
それから砦の外を見つめた後、呟いた。
「まぁいい。アティラリなんざくれてやる。元から古代兵器の性能が知りたくて試験的に作った物だ。せいぜい浮かれていればいいさ。
そう言ってニヤリと笑った。
「秘密裏に制作していたもう一つの古代兵器。アティラリの完成を急がせるために中断していたからな。元からそっちが本命さ。キング君も楽しみにしていたっけか。今となっては見せることができなくなって本当に残念だ」
一瞬目を伏せるが、すぐに不気味に笑った。
「記述によると古代兵器の中では最悪と言われるほどの凶悪な性能をしているらしい。僕も気になって仕方がなかったんだ。ポテンシャルではアティラリより上回るだろう。アティラリなんて前座にすぎん」
そして王都リヒベルがある方向に顔を向け、楽しそうな表情を作った。
「キング君。君の仇は取ってあげるよ。そして世界を震撼させてやる――」
その場で踵を返して出入口の方向へと歩き出した。
「最凶最悪の古代兵器――〝サンダーボルト〟でな……!」
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