第156話:マンタの能力
「!? あ、あれ? みんな消えた!?」
「急に暗くなったぞ!?」
2人とも突然の変化で戸惑っている。
「落ち着け。ここは別の場所だ」
「べ、別の場所? 一体どこなんだここは?」
「森に入った時に見つけた洞穴だよ」
「じゃあエンペラーの砦とは関係ない場所なのか……?」
「少なくとも奴らには簡単に発見できない場所だと思う」
俺達の今居る場所は、森の中で見つけた洞穴の中だ。薄暗くて奥が見えないが、すぐ行き止まりで大して広くない。
エンペラーとはそれなり離れた位置にあるからな。しかも森の中にある洞穴だ。
まず見つけるのは無理だろう。
「洞穴って……あっ! まさか!」
「うん。エンペラーの拠点に向かう前に一度ここに来たんだよ。アティラリの転送先を確保したかったからね。そんな時に丁度いい場所見つけてさ。アティラリが入るぐらい少し広げたんだ」
「そうだったのか……」
運よく程よい広さの洞穴を見つけられてラッキーだった。
「つまり君のお陰で脱出できたわけか。もしかして移動スキルでも使ったのか?」
「いや。俺のスキルじゃない。こいつの能力だ」
「こいつ……?」
「上を見てみろ」
「え……?」
2人はすぐに真上に顔を向ける。
するとそこには、大きなエイ――マンタがヒラヒラと宙を飛んでいた。
「……!? な、なんだこいつは!?」
「あ! あれって前にゼストが出してたモンスターだ! マンタだっけ?」
「そうだ。俺達はマンタの3つ目の能力を使って脱出したんだ」
「へー」
マンタの3つ目の能力。それは『転送』である。
これは召喚者の周囲を含む物をまとめてマンタの居る場所に転送することができるのだ。
この能力の便利な点は大きな物も転送できる点だ。古代兵器などの巨大な物はインベントリに収納することができない。だがマンタは物も含めて移動させることが可能なのだ。
アティラリは威力と範囲は優秀だが、装甲は最低クラスなのだ。発見されて狙われたらすぐに破壊されてしまう。
もちろんアティラリを使う側そんなことは百も承知。だから破壊されないように必死に防衛する必要があるのだ。
攻城戦ではこれが見慣れた光景であった。
だがそんな環境を変えたのはマンタの存在である。
まずマンタを予め別の場所に待機させておく。そしてアティラリを狙って来るプレイヤー達が破壊しに近づいたタイミングで転送。そうすれば安全にアティラリを退避させることができるってわけだ。
そして転送先から狙ってきたプレイヤー達に目がけて砲撃。まとめて一網打尽にすることも可能だ。
アティラリの射程距離はかなり長いが、無限ではない。せっかくアティラリを設置したのに、目標地点に届かないような状況もよくある光景だった。
更に言えば射程距離は長いが、ある程度遠くでないと狙えない。近い場所には狙えない仕様だ。
つまり懐に入られたら無力と化してしまう。古代兵器とはいえ万能ではないのだ。
そこでマンタの出番だ。
マンタなら好きな場所へ一瞬で転送可能で、安全に移動させることができる。
今まで固定砲台だったのに移動砲台と化すのだ。これがどんなに脅威なのかは説明する間でもないだろう。
この戦法がとんでもなく猛威を振るった。
だから攻城戦ではマンタが一番警戒するべき存在となっている。特に古代兵器とマンタの組み合わせは凶悪で、対策はほぼ必須であった。
とはいえマンタも万能というわけではない。
MPを馬鹿食いするし連発はできない。一度に転送できる量も上限がある。
状況に合わせてどう使いこなすのかがプレイヤーの腕の見せ所であった。
「よく分からんが、古代兵器ごと移動したってわけか」
「そうだ。単に破壊するだけでは修理されるだけだしな。だから本体ごと奪う必要があったんだ。これで奴らは古代兵器を失ったわけだし、大人しくなるはずだ」
さすがにもう1個作るとなると相当苦労するだろうしな。いくらリヒベル国の支援があったとしてもまず無理だろう。
「それを聞いて安心したよ。しかし君はすごいな。オレはどうやって破壊するのかそればかり考えていた。まさかこんな大胆な方法で奪うとはな……」
「手段はあっても実際に見つけられないと意味がない。ランドールが居なかったらアティラリが設置してある場所に行けなかっただろうし。これもランドールのお陰だよ。ありがとな」
「いやいや。感謝するのはオレの方だ。オレだけだと何もできなかったわけだしな。君が居てくれたお陰で無事に無力化できたんだ。本当にありがとう」
実際、ランドールが案内してくれなかったら危なかった。もしあのまま放置していたら、エンペラーがセレスティアまで進軍してくる可能性もあったからな。それだけは避けたかった。
それに奴らのリーダーを討ち取ったし、当分は大人しくしてくれるはずだ。
「でもさ。これはどうするの?」
リリィがアティラリを触りながら話す。
「ここに置いておくよ。つーかこんなデカいもんは持ち運べないしな」
「し、しかしそれだとエンペラーに発見されてしまうのでは? 見つけ難い場所とはいえ、こんな大胆に放置していたらいずれ発見されるかもしれん……」
「それは大丈夫だ。その為に洞穴の中に転送したんだから」
「? どういうことだ?」
「とりあえず外に出よう。こんな薄暗い所にいつまでも居たくないしな」
「あ、ああ……」
そして俺達は洞穴から出て外に移動した。
「さて……2人とも離れてて。危ないから」
2人が十分距離を取ったのを確認し、俺は洞穴に向けてスキルを発動させた。
「いくぞ…………………………《ファイヤーボール》」
少しの詠唱があった後、サッカーボール大の火の玉が出現。火の玉は洞穴の出入口に命中した。
すると……
「……! 穴が崩れていく……」
火の玉が命中すると同時に出入口が崩れて埋まった。それに連鎖するように奥の方から崩れるような音が鳴り響いた。
「これでもう誰にも見つけることはできない。こんな人気が無い森の中の、しかも崩れた洞穴を掘り返す奴なんてまず居ないだろうしな」
「しかしいいのか? 古代兵器ごと埋まってしまったぞ……」
「勿体ない気持ちはある。だけどあんな物は使う予定は無いし、そもそも置き場がない。それにまたキングみたいな危険人物を生みかねない。だから無い方がいいんだよ」
「そうだな……。あんな恐ろしい兵器は存在しないほうがいいに決まってる。これでよかったんだ……」
誰かに見つかったら争いの種になりかねない。だったらいっそのこと葬ったほうがいい。
キングのような馬鹿野郎の手に渡るよりマシだ。
「んじゃ帰るとするか」
「ああ」
「うん!」
俺達はリーズ達が待っている馬車へ向かうべくこの場から立ち去ることにした。
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