第153話:キングの目的

 アティラリの物陰から出てきた男が俺達を睨んでくる。せっかく辿り着けたのに見つかってしまったか。

 まぁここまで誰にも見つからずに来れたのが幸運だったんだ。さすがに上手くいきすぎた。

 とはいえ相手は1人だ。仲間を呼ばれる前に対処すればいけるか……?


 身構えていると、隣に居るランドールが驚いた表情で相手を見つめていた。


「…………キ、キング……!」

「え?」


 なんだと……?

 まさかあそこに居るのがキングなのか?

 ランドールが言っていたエンペラーのボス。それがあいつなのか?


「お、おい。あいつがキングなのか?」

「あ、ああ……」

「マジか……」


 最後の最後でとんでもない奴が現れたもんだ。

 いや。エンペラーのトップとなれば完成した古代兵器に興味深々なのは当然か。ずっと間近で眺めたい気持ちも分かる。

 どっちみち最初からこうなる運命は避けられなかったかもな。


「おい。テメェら何してんだ。下で騒いでたんじゃねーのかよ」


 キングは一層険悪な表情で睨んでくる。

 一度逃げ出したランドールが居るわけだし。さすがに誤魔化せるような状況じゃないな。

 やはり戦闘は避けられないか。


「ゼスト……オレに時間をくれないか」


 ランドールがキングを眺めながらそう呟いた。


「ん? どういう意味だ?」

「奴と……キングと話がしたい。もしかしたら説得できるかもしれん……」

「おいおい……本気で言ってるのか? そんなの無理に決まってるだろ。相手は盗賊団のトップなんだぞ? できるわけがない」

「頼む。奴と話させてくれ……!」

「…………」


 ランドールが懇願するような目で見つめてくる。

 説得とかまず無理だと思うが、この人なりにケジメを付けたいのかもしれない。

 同じ盗賊メンバーだった身としては色々と思うところがあるのだろう。


「分かった。でもなるべく手短に済ませてくれよ?」

「ああ。感謝する……!」


 そういってランドールは一歩前に出て叫ぶ。


「キング! オレの顔を覚えていないのか!?」

「あん? …………ああ。そういや見たことある顔だったな。エンペラーには何百人も居るから見分けつかねぇわ」


 あれ。本当に興味無さそうな様子。

 おかしいな。ランドールはエンペラーから抜け出したんだからすぐに思い出せそうなものなはず。


「くっ…………オレのことは眼中にもないってのか!? オレはランドールだ! お前とは言い争っただろう!」

「あーはいはい。ランドールね。そういやそんな奴も居たわ。やっと思い出した」


 これは舐められているんだろうか。それともわざと煽ってるのか?


「ふざけるなっ! オレのことを追いかけ回しといてすぐに思い出せなかっただと? お前がそう命令したんだろ!」

「あーあれか。俺様としてはマジでどうでもよかったんだよ。アティラリの情報を持って逃げ出したとしてもテメェごときが何もできないと思ってな」

「な、なに……!?」

「だから放っておけって言ったんだけどな。けど他の連中は裏切者を許せないとか言い出してな。だから勝手にやらせていただけだ。俺様がテメェ1人ごときに動くはずねーだろアホ」

「な……」


 なるほどね。部下が勝手に追いかけ回していたってわけか。

 だから興味も無かったし思い出すにも時間が掛かっていたわけか。


「お前はどこまでっ…………いや、そんなことはもういい。キング! お前に聞きたいことがある!」

「んだよ。わざわざそんなことの為に戻って来たのか? 仲間まで連れてきてさ」

「お前が言っていたことは嘘だったのか!? 孤児院から溢れて野垂れ死ぬような子がいなくなるような理想な世界にしていきたいと! スラムに居るような貧困層でも平和に暮らしていける素晴らしい国にしていきたい……そう言っていたじゃないか!」


 そういや前に勧誘にしにきたエンペラーの奴も似たようなこと言っていたっけ。ランドールがエンペラーに入る動機にもなったはずだ。

 しかしキングとやらの態度を見る限り、とてもじゃないがそんなことするような奴には見えない。

 どう見てもガラの悪いチンピラだ。


「嘘じゃねーよ。俺様は国を……世界を変える! その為にエンペラーを作ったんだ。テメェがエンペラーに入る時にも聞かされたはずだ」

「だったらその恐ろしい兵器は何なんだ! そんなもの必要無いだろ!」


 明らかに目的には必要なさそうな物だしな。

 単に改革をしたいだけならもっと別の方法があったはずだ。


「だから。これを使って今の無能共を消し飛ばしてやるのさ。これさえあればどんな城壁も無意味だ。まとめて吹き飛ばせる」

「無能共って……まさか王族のことか……? 何故そんなことをする!? それにそんな兵器を使ったら関係無い人達まで巻き添えになるだろうが!」

「いいや。関係あるね。まとめて消し去るにはこいつアティラリが丁度いいんだよ」

「何だと……!?」


 最初から広範囲に攻撃をしたくて古代兵器に目を付けたのか……?

 キングは一体どこまで知ってるんだ……?


「例え今の無能を消したところで、別の無能王族が代わりになるだけだ。それじゃあ意味がねぇ。腐りきった集団からは腐った奴しか出てこねーからな。だから全員まとめて消して綺麗にするだけだ」

「な、何故そこまでして排除しようとするんだ……」

「そ、それだけじゃないだろう! あんな広い範囲だと平民まで巻き添えになるぞ!」

「……ッ!?」


 こいつ本気か……

 本気で全員吹き飛ばすきなのか……


「エンペラーは各地で人を集めているのは知っているだろ? だが今街に居る連中はその勧誘を蹴った、もしくは知っていても来なかった奴らだ。つまり生き延びるチャンスを自ら手放したわけだ。そんな奴ら相手に躊躇する必要ねーだろ」

「なっ……」

「いちいち区別するのもめんどくせぇ。どうせ敵になりそうな奴らだ。なら歯向かってきそうな連中をまとめて排除したほうがいい」


 ランドールが恐れていたのがよく分かる。逃げ出したい気持ちもすごく理解できる。

 こんな危ない奴とは近づきたくないわな。


「どうして……どうしてそこまでして大量に巻き添えにしようとするんだ……! そんなの間違っている!」

「よく考えてみろ。俺達がこんな目に遭っているのは誰のせいだ? 孤児院の出身というだけでまともに職につけない。働くことすらできない。残された選択肢は冒険者になって命がけで戦うか、盗賊になって奪うか。それしか選べない。テメェも身に染みて実感しただろ?」

「…………ッ!」


 初めてラピスとフィーネに出会ったことを思い出すな。

 あんなまともに戦うことすらできない子でも、冒険者になって稼ぐ必要がある。やりたくないことでもやるしかない。そうしないと飢え死ぬからだ。

 もはやそれが常識になっている。


「なのに無能王族共はテメェらだけ上手いメシ食ってのうのうと暮らしてやがる。貧困層に対しては何もしようとせずに呑気に生き延びてやがる。そんなの許せるか? 俺達のことは放っておいて搾取するだけ搾取して捨てられる。そんなクソみてぇな現状を許せるのか?」

「………………」

「仮に冒険者になって活躍できたとしようか。Sランクまで上がることができたとしよう。そこまで必死に生き延びた末に何がある? 連中にとってはSランクの冒険者だろうが、腐るほど居る『冒険者』の1人としか見てねぇんだ!! どれだけ頑張ろうが奴らは『冒険者』と一括りにして一生見下し続けるんだ! そんなクソみてぇな連中に生きている価値なんかねぇだろ!!」


 なるほどな。これがキングの本音なんだろうか。

 要するに、今の政府が気に入らないから力ずくで変えてやろうと。そういうことか。

 発想がまんまテロリストと一緒だな……


「だから目に物見せてやるのさ。テメェらがやってきた行いを後悔させてやるんだよ。その為の兵器だ。分かり易くていいだろ?」

「何度でも言ってやる! そんなことは間違っている! お前がやろうとしていることはただの虐殺だ! そんなのオレは望んでいない!」

「テメェの気持なんて知らねーよ。どれだけ喚こうが止まる気は無いからな」

「そもそもこんなメチャクチャなやり方で上手くいくはずがないだろ! 他の国も黙っちゃいないぞ! 全世界を敵に回す気か!? こんなの成功するはずが――」

「…………は?」


 おいおい……こいつマジか……


「別に失敗したらそれはそれでいい。どうせ俺達は失う物なんてねーんだ。だが俺様は生き延びる。それぐらいの自信はある。手下を失ってもいくらでも増えるからな。孤児院から溢れる人が居る限り……貧困層が存在する限り何人でも補充できるんだよ」

「そこまでして……やるのか……」

「そうさ。無能王族共が考えを改めない限りを、何度でもやってやる。放置しているとどうなるか。それを思い知らせてやるのさ!! ククク……」

「やはり……ダメか……」


 さすがにこれ以上は何言っても無駄だと悟ったのか、ランドールは肩を落として落ち込んでしまった。


 説得失敗か。

 まぁ最初から期待してなかったけどな。


「こうなったら………………仕方ない…………刺し違えてでも――」

「ストップ。落ち着け」

「ッ!?」


 今にも飛び出しそうなランドールの肩掴んで引き留めた。


「奴は俺にまかせてくれないか?」

「な……君がか!?」


 ランドールは自ら犠牲になろうともキングを打ち取ろうとしていたからな。さすがに止めざるを得なかった。


「どっちみち奴が邪魔になる。だったら俺が相手するよ」

「し、しかし、そこまで任せるわけには――」

「キング様!」


 ランドールの言葉を遮って出てきたのは1人の男だった。

 そいつは俺達が来た方向から顔を覗かせてきたのだ。


「何やら騒がしかったけど一体…………あっ! てめぇはランドール!」

「ッ!!」

「ククク……いいところに来てくれた。おい侵入者だ! 人を集めてこい! こいつらを逃がすな!」

「は、はい! 分かりました! すぐに集めてきます!」


 キングが言い終わると男は慌てて去っていった。仲間を呼びに行ったのだろう。


「さぁこれでどうする? もう逃げられねぇぜ? すぐに手下が周囲を包囲してくるぞ?」

「くっ…………」


 やはりこうなったか。

 説得しようがしまいがキングは仲間を呼んだだろう。


「ということだ。ランドールは他の連中を頼んだ。俺はキングの相手をする」

「本当にいいのか……? 本来ならオレがやるべき役目のはずだ。君に任せていいのか……?」

「どうせアティラリに近づくには奴が邪魔だ。というかあんな危険思想した奴を放ってはおけないだろ」


 それに実力的にランドールでは厳しそうだ。

 キングとやらは盗賊団のトップだけあって、強さは本物だろう。腰にある剣を見たら大体分かる。


「だからランドール達は増援を食い止めて欲しいんだ。俺とキングとの邪魔にならないように」

「……………………すまない。押し付けるような形になってしまったが、キングを止めてくれ!」

「ああ。任せろ。リリィも頼んだぞ! そっちは任せた!」

「おう! ずっと戦えてなかったからな! 全員ぶっ飛ばしてやる!」


 さて。後はキングだけか……

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