第147話:新たな脅威

 突然の大きな音に思わずその場に居た全員が周囲を見回す。


「な、何なの今の!?」

「び、びっくりしました……」

「爆発したのかと思った……」


 周囲を確認して異変が無いか探す。

 しかし特に変わった様子は無かった。


「ゼ、ゼストくぅん……今の音なに……?」

「分からん。もしかしたら王都リヒベルからの攻撃かと思ったんだが……」

「……!」


 リーズがリリィを強く抱きしめる。そんな様子にリリィも警戒したままリーズの腰に手を回した。


「大丈夫だ。アタシが守ってやるから。しばらくジッとしていろ」

「う、うん……」


 何度か周囲を見回すが、やはり変わった様子は無い。だとしたら今の音は何だったんだ?

 何となくだが、原因は近くには無い気がする。もっと遠くの場所から響いてきたような感じだ。


「まさか新しく追手がやってきたせいなのかしら……?」

「いや。ダイナが防ぎきってるはずだからそれは無いはずだ。簡単には追ってこられないしな」

「そうね……。だとしたら原因は何なの……?」

「よく考えたら、王都と音がした方向とは逆だったんだよな。だからリヒベル国の仕業じゃないかもしれん」


 馬車の進行方向から聞こえたきたからな。だったらその方向から何か見つかるはずだ。

 しかし今のところ全く問題が無いように見える。

 それならさっきの音は一体……


 ………………


 …………あれ? こんな体験前にもあったような?


 大きな音と共に体を揺さぶるような衝撃波。

 この感覚どこかで感じたことがある。


 これはまさか――


「……! ね、ねぇ! あれ見て!」

「え?」


 リーズが指差した方向に全員が顔向ける。

 その方向には、遠くに山が連なっているのが見えた。

 だがとある場所から大きなキノコ雲が上がっている光景があったのだ。


「さっきの音って……あれが原因……?」

「大きな煙が上がってますけど……」


 遠くて山が小さく見えるが、かなりの広範囲から煙が上がっているのが分かる。

 しかしそれよりも更に目を惹く光景があった。

 それは――


「山が……山が消えてる……?」


 そう。キノコ雲が薄くなっていくにつれ、山の一部が大きく欠けている姿が見えてきたのだ。


「な、何あれ……噴火でもしたの……?」

「いや。違うな。あれは人の仕業だ。誰かが山を狙ったんだ」

「そ、そんなことがあるんですか……!?」


 あの光景を見て確信した。

 覚えがある大きな音と衝撃波の正体。やはりあれは……


「あれは……〝アティラリ〟の攻撃だ……」

「……え!?」

「あの威力と範囲……間違いない。誰かがアティラリを使って山を狙ったんだ。道理で見覚えがあると思ったよ」

「アティラリって、ゼストが言っていた古代兵器ってやつよね? ってことはどこかに存在するってこと……?」

「だろうな」

「…………!!」


 だが一体誰がやったんだ?

 まさかリヒベル国から飛んできたのか?


 ……いや違うな。狙われた山はあまりにも無関係な場所だ。あんな遠くを狙う理由が無い。

 仮に標的が俺達だった場合、もっと近い位置を狙ってくるはずだ。あまりにもノーコンすぎる。

 狙われた山は進路上とは無関係と言っていいほど離れている。このまま進んでも全く影響がないからな。妨害にすらなっていない。


 これらの状況から推察すれば、リヒベル国の仕業という線はかなり薄くなる。

 なら何処の誰がやったんだ……?


 いや待てよ?

 そういえば確か、エンペラーがアティラリを作り上げているってランドールが言ってたっけ。

 ってことはまさか……


「あ……あ……ああああ! 何てことだ……」

「お、おい。ランドール?」


 馬車を止めたと思ったらランドールが急に慌て始めた。


「くそっ……キングの野郎……とうとう完成させやがったんだ……。なんて威力だ……あんなの街なんて簡単に吹き飛ぶぞ……!」

「キング? 誰だそれ?」

「エンペラーを作り上げたのがキングって奴なんだよ……。オレ達は全員そいつの下で動いていたんだ」


 へぇ。エンペラーのリーダーはキングって名前なのか。

 何というか、個人的に近づきたくない名前だ。


「じゃあアレはエンペラーの仕業ってことか?」

「恐らくそうだろう……。もうすぐ完成するって言っていたからな……」


 正直言って、ランドールが言っていたことは半信半疑だった。

 アティラリの名を知っていたことは驚いたが、名前だけ似た別物だと思っていた。

 しかしあの光景を見たら嫌でも信じざるを得ないだろう。


「で、でもどうしてあんな場所を狙ったんでしょうか? あそこには何も無いと思うんですけど……」

「多分だけど、試し撃ちだったんじゃないか? ようやく完成したからその威力を見てみたかったんだと思う」

「な、なるほど……」


 念願の古代兵器が完成したんだ。その威力を確かめたくてウズウズしていたとしても不思議じゃない。

 しかしアティラリの攻撃が見える範囲で確認できるってことは……


「ランドール。ちょっと聞きたいんだけど、ここからエンペラーの拠点って近いのか?」

「あ、ああ。ここから最短ルートで行けば半日も掛からずに到着できると思う」


 やっぱりか。

 王都リヒベルにもうすぐ到着しそうって時にランドールを発見したからな。遠くない場所にエンペラーの本拠地があるとは思っていた。


 これでますますレオンさんが言っていた事が信憑性が増してきた。リヒベル国と盗賊が繋がりがあるというあの噂のことだ。

 リヒベル国内にエンペラーの拠点があるんだから、繋がりがあっても不思議じゃない。


 盗賊なんかが古代兵器を作り上げるのは無理があるとは思っていた。だが国が支援しているとなれば話は別だ。

 でもどうして盗賊何かと手を組んでいるんだろうか。それになぜ古代兵器作製なんかを手伝うような真似をするんだ?


 ……いや。色々と気になるが、今は考えるようなことじゃない。

 アティラリの存在が明白なった以上、このまま放置するわけにはいかない。


「なぁランドール。頼みがある」

「……何だ?」

「予定変更だ。このままエンペラーの拠点まで案内してほしいんだ」

「なっ……」

「ちょ、ちょっと! 何考えてるのよ!?」


 ラピスが慌てて間に入ってきた。


「エンペラーって悪い盗賊集団なんでしょ? どうしてゼストがそんな場所に行かなきゃならないわけ!?」

「アティラリを無力化しに行く。恐らくエンペラーの拠点にあるだろうからな。それを確認する意味でも直接奴らの場所に乗り込む」

「でも放っておいてもいいじゃない! 何でそんなこと必要があるのよ!?」

「よく考えてみろ。あんな危ない物を放置できるのか?」

「……ッ!」


 狙われた山はかなり遠くにある。

 けどそれだけ遠いのに全員が驚くほどの音と衝撃があったんだ。その威力の高さは素人目でも想像できるはず。


「被害があったのは山だからまだいい。けどもし街が標的にされたら? もし俺達が住んでいるセレスティアが狙われたらどう思う?」


 山を吹き飛ばす程の威力だ。あんなのが街に向けらたらどれだけ犠牲者が出るのかなんて想像したくない。


「そう思ったら放置するわけにはいかないだろ。しかも相手は盗賊集団なんだから尚更だ」

「…………ッ」


 ラピス以外も同じようなことを言いたそうにしていたが、俺が言い終わると納得したような雰囲気になっていった。

 けどリーズだけはリリィから離れ、俺の側まで寄って腕を掴んできた。


「ゼストくぅん……危ないよぅ……。よく知らないけど、ゼストくんが危ない事をしてることは分かるよ……」

「…………」

「どうしてゼストくんがそんな事しなきゃいけないの……? 他の人に任せてセレスティアに帰ろうよ……」


 リーズが泣きそうな表情で見上げてくる。

 そんな捨てられた子犬みたいな目で見つめてくるが、俺の決意は揺るがない。


「リーズ。聞いただろ? あんな危ない物を盗賊集団が所持してるんだ。このまま放っておくわけにはいかないんだよ」

「でも……ゼストくんじゃなくても……」

「事情を知らない人に説明してもやってくれるとは限らん。それに時間も惜しい。そんなことしてる間に、連中が次々と街を襲いに行くかもしれん。だから奴らの拠点に一番近くにいるであろう俺達が適任なんだよ」

「…………」


 リーズは俺の腕を掴んだまま考え込んでしまう。

 そして少し経った後、再び見上げて小さい声で話してきた。


「終わったら……セレスティアに戻るよね……? 今度こそ一緒になれるんだよね……?」

「俺を信じろ。この程度で俺がやられるわけないだろ。すぐに片づけてやるさ。だから心配するな」

「うん……絶対無事に帰って来てね……!」

「ああ。心配するな。終わったら一緒に俺達の場所に帰ろう」


 リーズが俺の胸元に顔を埋めてくる。

 落ち着くまでしばらくリーズの頭を優しく撫でることにした。

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