第148話:少数精鋭

「一応確認するが、本当にいいんだな? このままエンペラーの場所まで連れて行って」

「ああ。頼む」

「……分かった」


 ランドールは少し躊躇った後、手綱を握って馬を動かし始めた。


 それから進み続けていると、前方に分かれ道があるのが見えてきた。

 ランドールは迷うことなく右の道に進もうとするが、俺はあることを思いつく。


「ちょっと待ってくれ。もしかして右の道に行くつもりなのか?」

「そうだ。ここを右に行くと奴らの砦に行けるんだ。それがどうかしたのか?」

「へぇ。ここからだと後どれぐらいで到着するんだ?」

「そうだな……この速度なら1時間も掛からんと思うぞ」

「…………」


 ふーむ。だったらここら辺が丁度いいかな。

 だったら……


「…………左に行ってくれないか?」

「な、何でだ? 左に行くと違う道だから辿り着けないぞ?」


 ランドールの言う通り、ここは右の道が正解なんだろう。

 けど俺にはある考えがあった。


「いいから。左に行ってほしいんだ。やりたい事があるんだ」

「そこまで言うなら……」


 困惑するランドールだったが、言われた通りに左の道を進んでくれた。

 それから10分ぐらい進み続け、ある地点でいい感じの場所にやってきた。


「ここらでいい。止まってくれ」

「は、はぁ……」


 馬車が止まると、俺はすぐに荷台から降りることにした。


「どうしたの? ここに何かあるの?」

「特に変わった所は無いみたいですけど……」


 今いる場所から少し離れた所には森が広がっているだけだった。しかしそう遠くない場所から急斜面になっていて、山のふもとになっているのだ。

 ここら一帯はそういった場所である。


「皆はちょっと待っててくれないか。やりたい事があるんだ」

「やりたいこと? 何するのよ?」

「後で話すよ。とりえず皆はここで待っててくれないか。俺1人で行ってくるから」

「ゼストくぅん……どこに行くの……?」

「探したいのがあるんだ。心配すんな。すぐ戻るから」

「う、うん……」


 それからすぐに馬車から離れて森の中へと入っていった。ここら一帯はモンスターも少なく、何事もなく進むことができた。


 どんどんと森の中に突き進み、

 俺は辺りを見回してよさそうな場所を探す。


「……うーん。ここらでいっか」


 ある程度離れた場所で立ち止まった。

 ここら一帯は周囲の木々が比較的少なく、やや広めで動きやすい開けた場所だった。

 人の気配は全く無く、モンスターすら居ない。悪くない条件だ。


「さて……やるか……」


 そして俺はある準備・・・・を済ませることにした。




 しばらくして事を終えた後、森から出て馬車がある場所まで戻ってきた。


「あ! 戻ってきたわ」

「おかえりなさい」

「ゼストくん! どこ行ってたの……?」

「ちょっとな。さてと……」


 ランドールが居る馬車前方まで移動して話しかける。


「ランドール。ここからは歩きだ。奴らの場所に案内してくれ」

「歩きで? 別にいいけど何でだ?」

「リーズを連れ回すわけにはいかないからな。だから俺達だけで行くんだ」


 エンペラーの拠点に行くメンバーは既に決めてある。


「リリィも一緒に来てくれないか。戦力がほしい」

「おう! 任せろ!」

「俺、ランドール、リリィ。この3人で奴らの拠点に乗り込む。他はここで待機だ」

「え!? あたし達は!?」

「ラピスとフィーネはここでリーズを守っててくれ」


 全員で乗り込むわけにはいかない。

 だから他の3人はここに残すことにした。


「ど、どうして!? あたしも戦えるわよ!?」

「私もゼストさんのためなら力になりたいです……」

「俺達の目的はアティラリの無力化だ。殲滅することじゃない。だから少数精鋭で行きたいんだ」


 リリィと違ってラピスとフィーネは若干不安が残る。だからここに残すことに決めた。


「さっきも言ったけど、リーズを連れていくわけには行かないんだよ。だからここで待っててほしいんだ。ここらにはモンスターは殆ど居ないから平気だと思うけど、念のためにリーズを守っててほしいんだ。頼めるか?」

「そういうことなら……」

「分かりました。全力でリーズちゃんをお守りします」

「ありがとう」


 これで準備は整った。

 ここからは3人でエンペラーの拠点に向かうことになる。


「というわけだから、案内してくれ。ランドール」

「任せてくれ。連中が居る砦には人が少ない裏口を知っている。そこからならバレずに潜入できるはずだ」

「頼んだぞ」

「だけど……」


 ランドールはリリィが居る方向に振り向く。


「あの子も連れて行くんだろ? ならあの格好はさすがに目立つかな……」

「あ-……」


 そういやリリィはずっとメイド服のままだったんだよな。

 着替える余裕もなく脱出してきたせいか、今もメイド服状態だ。


「リリィ。さすがにメイド服のままだとまずい。着替えてくれないか」

「分かった!」


 そういった瞬間、リリィは服を掴んで勢いよく脱ごうとし始める。


「リリィお姉ちゃん!?」

「ちょ、ちょっと! リリィ待って! いきなり脱ごうとしないでよ!」

「リリィさん! ここではダメです! せめてゼストさん達が見ていない所で――」


 ラピスとフィーネがリリィを止めようと動くが既に遅く、リリィはスカート部分を大きく持ち上げた。


 するとそこには――


「ん? どうしたんだみんな?」

「…………あ、あれ?」

「…………!?」


 スカートの中に見えたのはパンツではなく、リリィがいつも履いている短いズボンだった。


「…………もしかして、上からメイド服を着ていただけなの……?」

「うん。だってこっちのほうが慣れてたし、いつでも逃げられるようにしたかったから」

「そ、そうなのね……よかった」

「???」


 そういやいつも着ているアイアンウェアはブラ代わりになるとか言ってたっけ。リリィ的にはずっと着ているほうが楽なんだろうな。


「な、なぁ。あの子を連れて行って本当に大丈夫なのか? なんというか……その……動きにくそうだし……」


 ランドールはリリィの胸元を一瞬だけ見て目を反らした。


「大丈夫だ。ああ見えて俺達の中では一番の力持ちだからな。十分戦力になる」

「そ、そうか。君が言うなら信じよう……」


 そうこうしている内にリリィの着替えが終わり、馬車から降りてきた。


「さて。んじゃ行くか。2人とも頼んだぞ」

「任せて! どんなことがあってもリーズちゃんは守り通すわ!」

「ゼストくん……気を付けてね……!」

「ああ。心配すんな。すぐに終わらせてくるさ」

「…………」


 そんな中、フィーネだけは何かを考えている表情のままだった。

 そして出発しようと思った時、フィーネが呼び止めてきた。


「ゼストさん! ずっと考えていたけどやっぱり分かんないです……! あるものって何のことですか!?」

「ん? 何がだ?」

「昨日話してくれた時のことです。あるものとアティラリと組み合わせたら厄介になるって言っていましたよね。それって何のことですか?」

「……あー、そういやそんな話もしたっけか」


 アティラリとセット運用で凶悪になるあれのことか。


「相手はアティラリを所持しているんですよね? なのでもしかしたら持っているかもしれないじゃないですか。それで不安になったんです……」

「なるほどな」


 だからこのタイミングで聞いてきたのか。

 確かにあれはエンペラー側にも存在してて不思議じゃない。

 しかし可能性は0じゃないが、限りなく低いと思っている。


「私達が見たことあるって言ってましたけど、全然分かんなかったです。どれのことなんですか?」

「そういえばそんなこと言ってたわね。すっかり忘れてたわ。結局何なの?」

「マンタのことだよ。お前ら見たことあるだろ?」

「え、えええええ!? あの召喚したモンスターのことだったの!?」

「そ、そうなんですか!?」


 そんなに驚くことなんだろうか。前にも話したはずなのに。


「で、でもあれって、透明になるモンスターだったわよね? 厄介なのは確かだけど、兵器とはあんまり関係ないと思うんだけど……」

「う、うん。私も同じ意見です」

「あれ? 言ってなかったっけ? マンタの3つ目の能力」

「えーっと……何だっけ……?」

「う、うーん…………聞いてなかったと思います」


 あれ。言ってなかったっか。

 んーと…………そうだ。思い出した。

 マンタの能力を2つ目まで説明したんだけど、3つ目を言おうとした直後にオークが襲ってきたんだった。だから言いそびれてしまったわけか。うっかりしてた。


「ごめんごめん。そういや話してなかったな。あの時はそれどころじゃなかったし」

「やっぱり聞いてなかったわよね。忘れてたとかじゃなくてよかったわ……」

「マンタが居たらそんなに厄介になるんですか?」

「うん。あれは唯一無二の能力だからね。古代兵器との相性もいいんだよ」


 懐かしいな。もし対人戦でマンタを見かけたら最優先で潰すことがセオリーになるぐらい厄介だった。

 マンタ本体は大して強く無い分、能力は優れているんだよな。


「この際だから教えておくよ。マンタの3つ目の能力は――」

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