第146話:お姉ちゃん

 メイド姿のリリィの近くに座る。

 しかしリリィは全く悪気が無い様子だった。


「とりえあず何があったのか話せ。どうしてこんなことしたんだ?」

「だって、リーズと会いたかったんだろ? だから連れてきたんだってば」

「それだからってこんな強引な方法にする必要は無いだろ! 騒ぎは起こすなって言ったはずだよな!? 今回は偶然ランドールが居たから助かったものの、もし居なかったらどうするつもりだったんだ!?」

「アタシだって色々考えたけどこれしか思い付かなかったんだ! それにあんな所に閉じ込めていたら病気になっちゃうぞ! すぐにでも連れ出したかったんだよ!」

「あのなぁ……だからって騒ぎになったら面倒になりそうなことぐらい――」

「止めて!!」


 突然リーズがリリィとの間に割り込んできた。


「この人を責めないで!」

「お、おいリーズ。気持は分かるけどやり方ってもんが……」

「この人のお陰で出ることができたんだよ! 私がゼストくんに会いたいって言ったら連れ出してくれたの! …………ちょっと怖かったけど」

「怖かった? 何があったんだ?」

「その……私が居た部屋は高い所にあったから、窓から飛び降りたの……」

「……は?」


 飛び降りた……?

 王宮を遠目で見た限りでは、気軽に飛び降りられる高さじゃなかったはずだぞ。

 それをリーズを抱えたまま落ちたってのか……?


「あっそうだ……。大丈夫だった? えーと……リリィ?」

「うん。あのくらいなら全然平気だぞ! ちょっとだけ足が痺れただけだ!」

「そ、そうなんだ……よかった」


 …………うん。まぁ、あれだ。さすが竜人族と言ったところか。

 あの高さから、しかもリーズを抱えながら落下してもケロリとしてやがる。

 とはいえ危険な行為だったことには変わりない。一応はリリィなりにがんばった結果なんだろうな。


「ゼストくん! リリィを責めないで! 私が出して欲しいってお願いしたの! ここまでしてくれたのは私のせいなの!」

「…………」

「ゼストくん……」


 リーズが目を潤ませて見つめてくる。

 そんな目で見ないでくれ……


「その……あれだ。どうやって連れ出すか悩んでいたところだったしな。こうでもしないとリーズを救出できなかったかもしれん」

「……!」

「悪かったよ。リーズを助けてくれてありがとな。リリィ」

「へへっ。よかった」


 リリィに任せたのは俺だし、慣れてないことをやらせてしまった。けど結果的に無事に連れ出してくれたわけだし。もしかしたらこれが最善の手段だったのかもしれない。そう考えると強く言えなくなってしまう。

 いずれにしろリーズを救出してくれたことには変わりない。結果オーライだ。そう思うことにした。


「ふ~ん。この子がゼストが言っていた子なのね」

「……ふえ?」


 ラピスがリーズのことをジロジロと見つめ始める。


「な、なに……?」

「…………」


 見つめたままリーズに近づいていく。

 そのままさらに距離を詰めていき――


「…………か~わ~い~!」

「ひゃんっ!」


 いきなりリーズに抱きついた。


「もー! こんなに可愛い子が居たのなら早くいいなさいよ! 連れていかれちゃったのも納得だわ! あたしだってこの子を選んじゃうもの!」

「え? え? え?」

「ふふっ。新しく妹ができた気分だわ。こんな可愛い妹なら大歓迎よ!」

「……!?!? お姉ちゃん!? 妹は私だよ!?」

「もぅ。分かってるわよそんなこと。妬かないの」

「むぅ~! お姉ちゃーん!」


 今度はフィーネまでラピスに抱きつき始めた。


「はいはい。フィーネも大事な妹よ。そんなに慌てないでよ」

「だってぇ……」

「フィーネだってこういう妹が欲しいと思ったことないの?」

「…………」


 フィーネもリーズのことを改めてジロジロと見つめる。


「…………確かに……欲しいかも……」

「でしょ? だったらいいじゃない。リーズちゃんもあたしみたいなお姉ちゃんがいいわよね!?」

「え、えっと……」


 リーズは2人を見比べるが、あまり納得してない様子。

 そして今度は近くに居たリリィの方を見つめ始めた。


「私は……リリィがいい」

「ん? アタシがどうかしたのか?」

「……え!?」

「…………!」


 リーズはラピスから逃げるように抜け出し、リリィの側へと近づいた。


「お姉ちゃんになってくれるのなら……リリィがいい!」

「がーん……!」

「これからリリィのこと……リリィお姉ちゃんって呼んでいい?」

「アタシは一人っ子だし、お姉ちゃんとかよく分かんないぞ。それでもいいのか?」

「うん。私もリリィみたいなお姉ちゃんが居てくれたほうが嬉しい」

「そっか。なら好きに呼んでいいぞ」

「! リリィお姉ちゃん!」


 今度はリーズがリリィに抱き着いてしまった。

 まぁ気持はよく分かる。ラピスもフィーネも体型がリーズと大差無いからな。それに対してリリィは立派なモノ・・・・・を持っているし、どうしても比べてしまう。

 しかもリリィはリーズを連れ出した張本人だ。尚更リリィの方に懐いてしまうのも仕方ないだろう。

 俺がリーズの立場でもリリィを選んだと思う。


「うう……リリィは卑怯よ! あんなのに勝てるわけないじゃない……!」

「あはは……」


 まぁ何にしろ、仲良くやっていけそうで良かった。

 そんなことをしてると、ランドールが振り向いて声をかけてきた。


「おっとそうだ。そういや行先はどうする? どこか行きたい場所はあるか?」

「セレスティアに行ってくれないか。そこに家があるんだ」

「ほう。セレスティアか。いいね。ならこのまま向かおう」

「頼んだ」


 これでようやく我が家に帰れる。


 リーズも無事に戻ってきたわけだし。


 あとはセレスティアに戻って日常に戻るだけだ。


 そう思っていた。


 このまま帰るだけだと思っていた。


 しかし――



 ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!


「!?」

「ひゃっ」

「わわっ」

「うおっ!?」

「な、何だ!?」

「ひいっ……」


 大きな音と衝撃によってその希望は打ち砕かれることになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る